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第75話 アンジェ救出作戦の全貌。そして、届かなかった手紙。




「ブリーフィングを始めます」


エリーゼさんがエーレンブルグ砦の会議室に立つ。


さすがは元王国の聖騎士長。

威厳が違う。


ここではエーレンブルグ領主のガレットさんも一人の仲間として同席していた。


でも、エリーゼさん?タバコ吸わない人なのに「パイプ」咥えているのなんで?

しかも、薄暗い部屋なのに半円状の「アビエーターサングラス」って。


「ルーダとオーレには現在、『恩寵』の解析と触媒づくりを進めてもらっています」


パイプから口を外し、「ぷかぁ」と煙を吐く。


「げほげほっ!?オエッ」


エリーゼさんが咳き込む。

タバコ吸えないんだったら、その小道具しまえばいいのに。


「あ~、まずは『ハル』と『クロエ』に先行してもらい、現地に潜伏している『コリガン』と接触してもらいます」


え?何?いきなりの展開。

というか、「クロエ」と「コリガン」って誰?


「ニッ!」


分かったと言わんばかりに手を挙げる黒髪の少女。


おいっ!いつの間にいたんだっ!?


「忍んでいても隠せないっ、美少女オーラ!キャーーツ―――」


「クロエ!」


キュピ―――ン☆


指でV字をつくって横に寝せる。

目の前でそれをスライドさせてウインクするのは確かに可愛らしい。


でも、先ほどまでいなかったのに「唐突」に現れ過ぎ。


〈コイツの「潜伏スキル」マジでレベチだわ〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが驚いている。


「あ~、さっきから黙っていたと思ったら、紹介待っていたの?」

のんびりとハティさんが言う。


え?うそ、魔人さんは気づいていたの。

というか、みんな平然としているって、「将軍」級だと「探知可能」レベルなわけ?


「うるさい!いぬっころ!話しかけるなっ」

クロエが「シャー!」と威嚇する。


黒いケモミミとしっぽの毛が逆立つ。

あ~、獣人族なんだ。


「ひどいなぁ」ってハティさんは苦笑い。


「そのくらいになさい」

エリーゼさんがたしなめる。

あ、パイプ捨ててる。やっぱりムリだって気づいたんだね。


「私から『アンジェ』を捕らえている『結界』について説明しよう」


ティアさまが席を立ち、進み出る。


「首都を覆う『結界』の性質は単純だ」


ティアさまが言う。


「結界内で放出される魔力量を一定に保つ」


そう断言した。


「エルザがリャナンにリークした内容と一致しているな」

ハティさんが頷く。


「エルザ」って?エリーゼさまが名乗っていた名前だよね?

もしかして「エルザさん」って別にいるの?


「そうです。はじめはあの『ストーカー女』が偽情報を流したのかと思っていましたが、ここでティアの証言もあって確証を得ました」

エリーゼさんが言う。


「アンジェ曰く、『極端な増減があると、内部の人間で補てんする』とのことだ」

ティアさまが説明を続ける。


「アンジェは街の人間が奪われて干からびないように『調節弁』をするためにあえて残っている」


―――――ミシッ


建物が軋んだ。

そして、全員にかかる圧力。


こ、怖いっ!


〈ひぃぃぃっ!〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんさえも悲鳴を上げた。


「ハティっ!こらえなさいっ」

エリーゼさんの叱責。


「失礼……しました」

ハティさんのうめくような声。


重圧が消え、体が軽くなった。


ハティさんは仲間や家族への執着がとんでもない。

だから、許せないんだろうな。


「僕の……僕の『蕾天使』……」

何やらブツブツとおかしな呼び名を……



「他にも『恩寵』を使った仕込みもあるようだ」


「それは、多分、バクス村やオルジュの街で使っていた『魔物化の呪詛』だな」


ティアさまの言葉にガレットさんが続ける。


「二段構えってわけか」


う~んとガレットさんが考え込む。


「アンジェが言うには、結界に異常がないか『魔術回路』に魔力を流して確認しているとのことだ」


「そして、末端に『増減を感知するセンサー』があるとも」


ティアさまが言う。


あれ?それって「雑草」と似ているね。

根を張った雑草って、根っこ残したら危険を感じて栄養を搾取して異常増殖するんだよなぁ。


一気にごっそり取らないとダメってやつ。


「そこで、『恩寵』対策を講じているわけです」


エリーゼさんが言った。


「しかし、完成するまでただ座しているのはもったいない」


「共和政府首都が手薄な今、『結界』の効果を減退し、時が来たら一斉に仕掛ける」


そして、エリーゼさんは僕を見た。


「だからこそ、ハルを先行させるのです」


「『魔力』のない、ハルは干渉するどころか『感知』されない」


エリーゼさんが言う。


「なるほど!ジャガーノート様は最高のステルス機能もあるってことだな!」

ガレットさんが手を叩く。


「これなら、ホームスチールもできるってこった」

いや、わざわざ「野球翻訳」しなくてもいいでしょ?


「ハルには、その【星霜の洗滌エトス・カタルシス】で、結界にエラーを起こしてもらおうと思っています」


ちょっと待って?【星霜の洗滌エトス・カタルシス】って何。


〈うおおおい!人の「真名」バラすなやっ!〉

「アンジェ」さんが叫ぶ。


え?「真名」って……


〈あっ!?しまったぁ!〉

うっかりとばかりに「アンジェ」さんが声を漏らす。





場所は変わって「首都・ミッドガルズ」。



「返してっ!返してよぉ」


少年が叫び、ぴょんぴょん跳ねている。


「ひひひひひ、取り返してみろよ」


兵士は手に「手紙」を持ち、高々と揚げている。


背の低いその少年は取り返そうと跳ねている。


少年の姿は小太りで、ボサボサの黒髪。

お世辞にも見た目が良いとは言えない。


兵士は少年の頑張りを嘲笑うように向きを変え、その手を避ける。


「返してっ!」


少年の体が兵士にぶつかった。


「っ!?」

体当たりなどではない。ただ触れた程度。


「テメェ、汚ねぇ体で触るなっ、キモイんだよ!」


兵士は叫び、少年を蹴り飛ばす。


「『公務執行妨害』には『罰』が必要だな」

そう言って兵士は手にした手紙を両手で摘む。


「や、やめてよぉ」

泣きながら少年は奪い返そうとしたが遅かった。


兵士は少年の前で「手紙」を引き裂いた。

執拗に細かく千切る。


「あ、ああ、せっかく『アンジェ』さんに……」


「うるせぇなっ、これで済んだんだ。『ありがとうございます』ぐらい言えや!」


兵士が唾を吐く。


「ったくよ、泣いてる面見るだけでも気持ち悪いんだよ」


「萎えたぜ」と兵士は言って歩き去った。




「う……グスッ」


少年は泣きながら路地を歩く。


周囲の人間はそれを「ヤダッ、気持ち悪い」「何泣いてるの?キモイんだけど」と囁いている。


(みんなに頼まれた「手紙」だったのに……)


少年は悔しさでボロボロと涙をこぼしていた。


「おい」


声をかけられる。

少年が顔を上げると、少し年のいった兵士が立っている。


少年は城で兵士から受けたことを思い出して身構えた。


「どうした?ボウズ」


兵士が歩み寄る。


「あ~あ~、泥だらけじゃないか」


兵士は少年の服についた「泥」を払った。


「わかった。オマエ、ケンカしたんだな」


少年の前にしゃがんで泥を払いながら兵士が言った。


「んで、負けて泣いていると」

兵士は続けて言う。


「でも、見たところ、オマエは『ギブアップ』してない感じだな」


「え?」

少年は兵士の顔を見る。


「だってよ、悔しくて泣いてるってのはまだ折れてない証拠だ」

兵士は泥を払い終えると立ち上がる。


「俺なんかよぉ、毎日上司にドヤされてばかり。んで『すんません』って謝るのが口癖になっちまった」


「この間なんか村でバケモンみたいな奴と戦って、必死に『死んだフリ』して助かったんだぜ」


そう、この兵士は「モブオ」だった。


「でも、俺は悔しいともなんとも感じなくなっている」


寂しそうに笑った。


「どっかで諦めちまったんだよな」


それから、ポンと少年の肩に手を置く。


「まだ悔しくて泣けるオマエは、『戦士』のままだ」


そう言って、「絆創膏」を取り出した。


「こんなんじゃ、大した足しにもならんが、ないよりマシだろ」


モブオは少年の鼻に貼ってやる。


「じゃあな、リベンジ頑張れよ『ファイター』」


そう言って離れる。


少年の涙は止まっていた。


少し歩いて「モブオ」は立ち止まる。


(待て。今のガキ、「イグリース」様のところに出入りしていたよな)


それから、歩き去る少年の背中を見る。


(一応、「イグリース」様の耳に入れておくか)



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