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第72話 ハル・ロッシェの「意地」!


リムアンは信じられない光景を見た。

あの、ビビりで腰抜けのハルが、自分の斧槍を手にしていた。


地面から引き抜く。

その勢いのままに回旋して石突で魔物の足を払う。


……こんな動きができるのか。


コリガンを襲おうとしていた魔物の出足を見事に止めた。


「コリガンくん!」

コリガンに声をかけ、手を引く。


コリガンと一緒にこちらに向かってくる。

リムアンは自分へと襲い掛かる魔物の爪を辛うじて盾の魔術で防いだ。


「うわぁぁ!」

声を上げて魔物へと向かっていく。

けしてカッコいいと思えない掛け声。


魔物が標的をハルに変えた。

いくらリムの斧槍でも、ハルの筋力では貫けない。

そう思った。


魔物が剛腕を伸ばし、ハルを爪で引き裂こうとする。

それを見越したかのように、ハルはバックステップをする。


距離をずらして避けた。

そのまま斧部分でその爪を叩き落とす。


それどころか、柄の中心部分を支点にし、そこからスライドさせて伸ばしながら……


「グァ!」

魔物の側頭部を石突で殴る。


怯んだ隙にリムアンと魔物の間に立つ。



「意地があるんだよっ男の子にはっ!」



彼が叫ぶ。


その姿が、不思議と彼女が恋した人に重なった。



やばいやばいやばい、こんなのムリだよ。

魔獣の猛攻に僕は耐え続ける。

いやさ、ガレットさんの攻撃よか遅いし、軽いし、単調だよ。

でもさ、圧倒的に怖いんだよ。


唾なのか涎なのかわかんないの飛ばして吠えてくるし。

このままじゃ腕が利かなくなってくる。


てか、リムってなんでこんな重い斧槍平気で振り回してるの?

実は中身ガチムチだったりする!?


「……バカ」

後ろから声がする。

「そんなに強いんだったら、はじめから言って」

リムの声。


「ハルバード、返して」

「いや、今は……」

「いいから」

リムは言うと盾魔術を使う。

それもとっておきの八枚重ね【アイアクス・スクトゥム(アイアスの盾)】


魔獣はガシガシ爪を立ててくるけれど、盾を破るどころか近づけないでいる。


「ハル、自分でも持ってるでしょ」

「うん……」

そう言ってマジックバッグから取り出した。

130センチくらいの棒。

きれいにカットされてそこそこ太さもある。


「それ、何で出来ているかわかる?」

「知らない。ただの『芋のお礼の棒』だってしか言われてない」

「ハティはいっつも言葉が足りない」

「え?」


「それ、神樹の枝でできてる。エルフ里の神樹」


リムアン、軽快にステップを踏んで近づいてきた魔獣を倒す。

盾魔術で僕たちを守りながらだ。


不意に後ろを振り返って続きを言う。

「それは、オリハルコンと同じように固く、柳のように柔らかい」

「鳥の羽のように軽く、イチョウのように火に強く、イチイのように寒さにも強い」

棒を一瞥した。


「なんだってぇ!?」

僕は驚きの声を上げる。

そんなもの、普通の自然界ではありえないものだ。


「それだけじゃない。コイツ、棒で殴ってみて」

リムアンが斧槍で一体の魔獣を引き倒す。

言われた通り、思い切って魔物を殴る。


「ギャァァァァァ!」

悲鳴を上げて霧散する。


黒い霧が消えて……あれ?

コイツ、どっかで見たことのある……あ、衛兵だ。


「え?え?何が起きたの?」

リムアンが言う。

「“魔”喰らいの杖。神樹自体が瘴気とか魔力を吸って浄化しながら成長する」

「だから、たぶんそのまま魔術とか瘴気も消しちゃうんでしょ」


「それって、最強じゃない!?」


「そんなわけないでしょ、魔力なしのガチンコ勝負ってことなんだから」


「素の力で戦うためだけの武器ってことだよね……」

なんだかムカついてきた。

「じゃあ、リムがこれを使えば……」


「何言ってるの?リムは腕相撲でハルに敵わない」

「はい?」

「ガレットはハルに『漢を見せろ』って前から言っていたでしょ。リムは『女の子』だから」


「ハルは今日、『漢』を見せるの」

ぐっと親指をたてて不敵に笑う。


(あの、おっさんはぁぁぁぁぁ)

僕は心の中で叫び声を上げる。


「おしゃべりはここまで」

リムはそう言って、斧槍を回旋する。


「ハルも頼りになるってわかった」

そう言って斧槍の感触を確かめる。

「ハルにも『護る』のお願い」

彼女は僕の目を見る。


「リムも、がんばるから」


「……わかった。やってみるよ」

僕は決意を固めて頷いた。

ぎゅっと相棒……「土寄せ棒」を握り直す。


リムが微笑んだ。


「ハル。ハルはやっぱり『特別』なの」

……え?ど、どういうこと?もしかして告白された?


「きっと、この世界の『理』とは違う」


ああ……なんか、ああ~、そうっすかぁ~


ふとリムアンが顔を背けて呟く。


「リムの『特別』でもあるからね」


……ごめん、天国の父さん、なんか、僕は、燃えてきたよ。


僕、今日、「漢」になるよ!


ハル・ロッシェ!行っきぃまぁぁぁぁぁぁす!


ガレットさんに教えてもらった動きをやってみる。


まずは……


杖の先を握り、地面を思い切り叩く。

パァーンという破裂音。


その反動を使って、交差させた手を交互に動かす。

杖を回しながら右左に入れ替えて……


「っ!」

右手で杖の中心をもった状態で脇に抱える。


あ、なんか決まった!


カッコいいし、気持ちを整えるのにもいいからって教えてもらったんだ。


リムもコリガンくんもびっくりした顔でこっちを見ている。


フッ、いつまでもカッコ悪いハルさんじゃないぜ……


「あの、言いづらいんだけど……」

コリガンくんが声をかけてくる。

「?」

「ハル、棒が……」

指を差した方向を見る。


手元にあるはずの杖が背の低い木の枝にひっかかっている。


「あぁぁぁるぇぇぇえええ?!」


「バカっばかばか、ハル、自分から武器を投げ捨てるってどういうこと?魔力なしのガチンコ勝負って意味違うから、漢みせろってのはステゴロやれって言ったのと違うからっ」

バカにしないって言ってたリムがまた僕をバカって言ったぁ。


ちっくしょぉぉっおう!


リムが杖を拾ってきてくれる。

あ…直接触らないように木の枝で挟んでいる。

汚物扱いみたいで嫌だなぁ……先祖代々受け継いできた棒だったのに。


リムの肩が震えている。

ぜったい、笑うのを我慢している。


僕は涙目でそれを受け取った。

やるせない気持ちを振り払うように魔物に向かっていった。


「【震天突しんてんとつ】!」

魔物の攻撃に対してカウンターを入れる。


「【崩山撃ほうざんげき】!」

振り下ろしてきた魔獣の腕に対して踏み込んだ足を軸にして反転し、棒を叩きつける。


「【裂海旋れっかいせん】!」

大きく振りかぶって、横薙ぎに棒を振るう。


ガレットさんに教えてもらった技を繰り返す。


「――――【通天大聖・連】!」


教えてもらった動きをとにかく繰り返す。

数か月間、何千何万も繰り返した動き。


『俺は、ただ一度しか試したことのない技を多彩に持っているヤツより、一つの技を極め抜いたヤツの方が厄介だと思うぜ』

ガレットさんが言っていた。


大陸の東側に位置する国で神仙と呼ばれた存在が使ったという技。

三種類の動き、突き・叩き・薙ぎを連続で繰り出す。

これが不思議と相手のどんな動きにも対応できている。


『今、技で教えられるのはこれくらいか。ものにして見せろよ、ジャガーノート』


僕は、最高の「相棒」を構え、この脅威に立ち向かった。


ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日も1日お疲れ様です。

今回はハルくんの「意地」をご覧いただきました。

皆さんも日々堪えがたきを堪えて「意地」を見せつけてやっているかと思います。

その姿は誰かが笑おうと、「ヴィクトリー!」ですよ。


明日も「スン」と頑張りましょう!

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