第71話 復興と反撃と「薄い本」。逃げるんだハル!新刊のネタに……
「うぇ~い」
「ばっちこ~い」
僕はどうやら運動部の朝練に紛れ込んでしまったらしい。
「ハイ、そこ。集中の糸切らさない。怪我するぞ」
ソニアさんの注意が飛ぶ。
「しまっていこー」
それに応じるようにガラの悪い男たちが返事をする。
言わずもがな、最強の傭兵団「黒金の鷹」のみなさん。
「ハル、遅かったな。寝坊だぞ」
木材を担いでスヴェンが言う。
いやいや、君、昨晩重傷だったよね?
包帯ぐるぐる巻きで何やってるのさ。
〈眠いねぇ……〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが言う。
まあ、昨日は遅くまでお祭り騒ぎだったからね。
「どっせーーい」
ガレットさんの掛け声とともに森の木が倒される。
「ほら、これは橋桁用な。間違えるなよ」
大剣で生木を切ったのか……
「おっしゃぁ、もう一丁!」
森林伐採が続く。
「おお、ブラザー!待ってたぜ」
ウルフスベインさんが声をかけてくる。
「領民が避難しちまったからな。おまえの『農』力を借りたかったところなんだ」
◇
「はぁぁぁぁあぁん」
僕は嬌声を上げてしまった。
だって、こんな見事な畑を手に入れられるだなんて。
農業従事者冥利に尽きる。
「こ、ここ、本当にジャガイモ畑にしていいんですか?」
「ああ。今からだったら春植えのジャガイモに間に合うだろ」
さすがブラザー。よくご存じですこと。
「休耕地だ。今は誰の土地でもねぇ。好きに使ってくれ」
そう言っている割には手入れがされている。雑草もない。
〈ロッシェ!ここにアタシたちの「愛の巣」をつくるのねっ!〉
「アンジェ」さんのテンションも爆上がり。
昨晩のケンカも忘れたみたい。
「俺たちの『夢』にむかって一緒に頑張ろうぜ」
僕たちはがっしりと腕を組む。
「いいね!その『夢』、最高に『ヴィクトリーーーー』だぜ」
後ろでガレットさんがマッスルポーズで叫ぶ。
アンタ、内容知らないだろ。
そして、何でいるんだ。
切り出し作業をわざわざ抜けてきたのか。
「お頭、いま良いところなんだから、邪魔しないでくれ」
ウルフスベインさんの文句にガレットさん項垂れる。
「なんかよ、俺の扱い悪くねぇ?」
◇
「うう、寒いよぉ」
ハティさんが体を震わせながら戻ってくる。
全身ずぶ濡れ。
この寒空に上半身裸の変態だ。
「何やってたんですか」
「うう、橋脚固定していたんだよ」
え?この極寒の川に入っていたの?
〈この変態イケメン、何やってのよ。普通死んじゃうわよ〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんすら引いている。
「基礎がしっかりしてないと、あぶないだろろろろ」
震えながら言うので語尾がおかしい。
「なんでハティさんが?」
「そりゃ、他の人だったら凍死するからだよ」
わかってやっているんだ。
ほんと、自己犠牲の塊。呆れてものが言えない。
正直こういうところが嫌いなんだ。
「エリーゼさんは何をしているんです」
「姉上は設計とか切り出しとかだね。細かい計算ができるの、ここじゃ姉上しかいないから」
ああ、エーレンブルグって脳筋集団だったんだ……
バルドールさん仮にも魔術師だったよね。
「僕はとりあえず、お風呂入ってくる」
そう言ってハティさんが去っていく。
……なに、あの体。
針金で出来ているのかっていうくらい無駄がない。
ガレットさんとは別種類のマッチョメン。
そして、背中に広がる火傷痕。
戦の傷かな?
あ……すれ違う女性陣、なんだか涎を垂らして見てる。
◇
私、コレット・オルレアはティアさまと面会した。
地下牢じゃない。
ちゃんとした貴賓室。
「うむ、何でも聞くが良いぞ」
ティーセットを前に偉そうにふんぞり返っているティアさま。
どうみても降将の態度ではない。
ところで、なんで簀巻きのまま?
もう、縄解いていいって話だったよね?
気に入っているの?その恰好。
というか、お茶はどうやって飲んでいるの?
ススっと控えている「メイド」さんがカップを差し出した。
「うむ」
そう言って口空けるティアさま。
メイドさんはストローを取り出して、ティアさまの口に含ませる。
ズゾゾゾゾ
ティアさまが啜る。
「うむ」
満足そうに唸る。
「メイド」さんはそそくさと「ストロー」をハンカチに包んでポケットにしまった。
(ハフハハフハフ……「家宝」がっ!「神器」がまた私の手にぃぃぃ)
何とも不穏な「心の声」を残してメイドさんはかいがいしティアさま面倒を見る。
この謎だらけの状況を脇に置いて、私、「コレット」は思い切って尋ねた。
「あの……なんで、皆さんを裏切ったのですか?」
「ん?『裏切る』とは、何のことだ?」
ティアさまは首をひねった。
「だって、2年前の反乱の時、真っ先に共和政府に降伏したって……」
そう言ったとき、ティアさまが「フッ」と笑った。
「そういう展開が『燃える』と思ったからだ」
(領民たちを救うにはそれしかなかった……)
目の前で不遜に笑うティアさま。
けれど、その陰で、私にだけ「視える」心の声。
「まぁ、暗愚な王には愛想が尽きていたからな。後にハティたちと敵対したとしても私が『最強』であることを示す機会にもなると思ったのだよ」
これは、半分本当で、半分は嘘。
ティアさま、見せしめとして処刑されるのを覚悟していた。
「ハティ、助けて」って泣いている姿が視えた。
「期せずして、このような機会を得たわけだが……」
(敵対するフリをして自分から押しかけてやったのだ。捕らえられるように仕向けるのは結構キツかったぞ)
「フフフ、なかなかのものだったろう?なにせ、エリーゼさまもハティもガレットも私一人に翻弄されたのだからな」
そうティアさまが言ったときだった。
「あら、ティア。ずいぶんと元気そうですね。それに、ステキな格好」
お姉ちゃん登場。
ふんぞり返っていたティアさまが瞬時に直立した。
「ハッ!エリーゼ様もお元気そうで何よりです。いやはや、さすがはエリーゼ様。このティア、エリーゼ様の策にまんまと嵌り、捕らえられてしまいました」
なに?この変わりよう。
「参りました」アピールのためにその格好してたの?
「ふふふ、そんなにおだてたって何も出ませんよ」
「いえいえ、本心からですよ」
(こ、怖ぇぇ……)
ティアさま本気で怯えている。
「こちらに復帰とはいえ……なにか『ご褒美』をあげましょうか?」
「え?いいんですか?」
「ええ、前払いです。ちゃんと政府の内情を教えてくださいね」
「もちろんですとも。この【禁断の語り部】になんなりと」
……え?なに、それ?痛いんですけれど。
というか、ずっと後ろで控えているメイドさん、ずっとハフハフしている。
この人の「心の声」……怖い。
「では、遠慮なく『彼』を所望します―――――」
ティアさまの言葉を聞いて私は戦慄した。
そう、私は恐ろしい「光景」を視ることになる。
ハルっ!今すぐ逃げて!じゃないと「薄い本」のネタに!
―――――されても……いいかも。(ぽっ)




