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第7話 コレットの受難と「黒い病気」。「脂身くん」が差し出した「石」



「おい、聞いたか」


ポルコが作業員たちと雑談している。


「麓の村にすっげぇ美人が居ついたんだってよ」


鼻息荒く言う。


「知ってる、教会にいるって話だ」


「白銀の髪にブルーの瞳なんだって」


「背は低いのに、スタイルがすっごくいいってよ」


そう言って胸のあたりを手で示す。


「胸がメッチャでかいって」


それから「キヒヒヒヒ」と笑い合う。


「新しいシスターかな?あの婆さん歳も歳だから」


「なんでも流れの医者だってよ」

「医者?どっかの貴族だったのか」

「じゃないか。医学なんてそうそう勉強できないしな」


「それとも冒険者くずれかもな」

「ああ、ヒーラー(回復役)でおっかないめにあったから辞めたとかな」

見たこともない女性の噂話で盛り上がっている。


「今度、納品の時にさ、一緒に行こうぜ。その美人ってのに会えるかもな」


『いいねぇ~』


ポルコの提案に皆が賛同する。


「あ、アイツ」


「うん?」


取り巻きの声にポルコもその視線の先へと顔を向けた。


コレットが歩いている。


「最近、よく来るよな」


「ああ、ハルとハンナが飯を食わせているから、それ目当てだろ」


取り巻きたちが言う。


「な……聞いたことあるんだけれど」


取り巻きの一人が小声で言う。


「アイツも『呪われ』みたいだぜ」


その囁きに、みんなで顔を寄せる。


「『呪われ』って?マジ?」


「ああ。母ちゃんから聞いたんだけれど、『人の心を読む』んだって」


『うっわぁ、キッショ~』


声を上げる。


コレットが話しているポルコたちを見た。


「んだよ!こっち見るなっ」


気づいた取り巻きの一人が大声を上げる。


「気持ち悪いんだよっ」


その叫び声にコレットは身を震わせる。


そして、足早に去っていった。


「あ、逃げた」


「ヒヒヒヒヒ、ダッサぁ」


「ハルんところいったんだろ」


「ハルもアイツも『呪われ』どうし、気が合うんだろうからな」


取り巻きたちの笑い声を聞きながら、ポルコは思案した。


(アイツが「心を読む」ってんなら、いずれバレるだろうな)


そう言ってポケットを探る。


固い感触。


そこには「結界石」が入っていた。





ハルたちは私の「力」を知らない。


今日も一緒に作業をしたけれど、私に嫌悪感をもつこともない。


一緒においしいお芋を食べて、何ということもない話をして笑っていた。


体がぽかぽかしている。


きっと気持ちがぽかぽかしているからだ。


今日はハンナさんが私の髪を結んでくれた。


「コレットに、似合うと思って持ってきたの」


そう言って、ハンナさんが黄色いリボンをつけてくれた。


私はそのリボンに触る。


麻の少しザラザラした感触。


ヤマモモで染め出した少し明るい黄色。


……うれしい


ハルもハンナさんも、私を見てくれる。


彼女にもらったリボンに触りながら帰り道を歩いていた時だった。



「ねえ、君」


声をかけられる。


確か、「ポルコ」……さん?



「君さ、ハルたちと最近一緒にいるよね?」


私は嫌な予感がした。


だって、彼の胸には「黒い靄」がかかっているんだもの。


「はい……」


私は後ずさりしながら返事をした。


「そうか、やっぱり」


ポルコさんが嬉しそうに笑う。


「ハルはさ、いっつも一人だったから心配していたんだ」

(ククク、ちょうどいいカモだな)


「君みたいな可愛い子がハルの友達になってくれて良かった」

(こんな小汚いガキ。ハルを苛める口実にしかならんだろ)


汚い「心のビジョン」。


私は怖くなって早くこの場を去りたかった。


「あ、あの……早く帰らないと」


そう言って逃げようとした。


「あ、待ってよ」


そう言ってポルコさんが私の腕を掴んだ。


「君に頼みがあるんだ」


笑顔で言う。


でも、目の奥は笑っていない。


「ハルの落とし物、返しておいてくれないかな」


そう言って私の手に「石」を手渡す。


なに、この石?


虹色の「魔力」を放っている。


「え?……あの、ご自分で――――」


言いかけた私を遮るようにポルコさんが言う。


「これは、ハルの大事なものなんだ。無くしたって知ったら悲しむだろうね」

(クククク、コイツに「証拠」を押し付ければ)


「仲のいい君が渡してあげれば、きっとハルも喜ぶと思うよ」

(コイツが俺から受け取ったって言っても誰も信じないからな)


そう言ってポルコさんは私に石を握らせる。


「ちょっと――――」


「ね、ね、お願い。お願いしますよ」


そう強引に押しつける。


「嫌ですっ、ご自分でっ、返してください」


「心のビジョン」で不穏なものを感じた私は受け取るまいと抵抗した。


すると、ポルコさんから笑顔が消えた。


私の耳元で囁くように言う。


「お前が、『人の心を読む』ってハルに教えようか?」


「っ!?」


驚く私からポルコさんが離れる。


ポルコさんの顔を見た。


元の笑顔に戻っている。


「ちゃんとハルに返してくれたら黙っておいてやるよ」


私が何も言わないで「石」を握っていることで満足したみたいだ。



「じゃあ、よろしく頼むね。『コレット』ちゃん」




この日も僕はポルコたちにいろいろと文句を言われた。


ワインの瓶詰作業の手伝いで、だ。


アイツらさぁ、僕に瓶を運ぶのをやらせておきながらサボっているんだ。


しかも、置く場所の指示、おかしくないか。


洗って干してから使うんだよね。


じゃあ、「洗瓶場」に近い方がいいじゃないか。


そして、乾かし終えたのは「瓶詰場」に運べばいいんじゃないの?


乾いたヤツを運んだら運んだで文句を言ってくる。


あのさ、なんで動線ふさぐ場所にわざわざ置くんだよ。


いっつもそれで君たち迂回してるよね?


それにさ、瓶にヒビが入っていたのって僕のせいなのか?


確かあの瓶が入っていた箱に蹴つまづいていたのはポルコじゃないか。

しかもそこに置いておけって指示まで出していた本人が「なんでこんなところに置くんだ」って怒ったのも納得いかない。


〈ロッシェ!ドンマイっ、どんどんマイティさんよ!〉


アンジェさんが「ポゥ!」って奇声を上げながら励ましてくれる。


「マイティさん」って誰?


ああ、確か王国時代にそんな名前のダンスが上手い人がいたらしいね。


アンジェさんの励ましで僕は少し機嫌を戻した。


なんとか、明日も頑張れそうかなぁ。


家の明かりが見える


〈っ!?ロッシェ!〉


アンジェさんの声。


〈気をつけて〉


切羽詰まったような彼女の声。


どうしたんだろう?


「ただいまぁ~」


僕は家のドアを開く。


母さんが慌てて僕を迎えた。


「ハルっ、ハルっ、どうしよう」


いつにない慌てよう。


「どうしたの?」


「エナが、エナがっ」


「エナがどうしたって!?」


「こっち!」


母さんは寝室に僕を引っぱって行く。


〈これは……〉


アンジェさんの驚いたような声。


寝室ではエナが苦しそうにしている。


体を丸めて横になっていて、時々吐いてしまう。


吐いたとき、あの夜の「ネズミ」が発していたような煤みたいなものが舞った。


どうしよう……


〈冗談じゃすまされないわよっ!〉


アンジェさんが光を放つ。


ぽわわわわわん


羽毛のような光が部屋中に舞う。


エナの吐いた「煤」は消えた。


けれど、エナの苦げな吐息に交じって「煤」は出続ける。


〈ダメ……この子の中には「病原菌」に混ざったヤツがいる〉


アンジェさんの絶望するような声。


〈アタシが消しても、元の「病原菌」なんとかしないと〉


「エナが死んじゃう」


母さんが泣き出した。


―――それは、ダメだ。


僕は父さんの時のことを思い出した。

この村には医者がいない。教会もない。

助けられる人なんていない。


けれど……


教会……僕はポルコたちが話していたお医者さんを思い出した。


「母さん、お医者さん呼んでくる」


僕はそう告げる。


〈ロッシェ!〉


アンジェさんが僕を呼ぶ。


〈アタシはここに残して。時間稼ぎだけならできる〉


その心強い言葉に僕は頷いた。


「エナをお願い」


外に飛び出した。



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