第68話 暴れん坊白狼将軍! 成敗!って……「スン」アナゴ大量発生!
翌日、僕は街を散策しながら建物の場所を確認した。
こんな見た目だからおのぼり冒険者って感じが出ていて誰も怪しまない。
まあ、そのとおりなんだけれどさ。
クロエはさっそく、フォンたちと合流するために街を出た。
大事な情報の受け渡しをするんだって。
まあ詳細はわからなくたっていいや。
建物の場所と議事堂との距離を抑えておいてほしいって言われている。
それから町の外へ続く門までの経路。
どうやって破壊工作するとかは教えられていない。
僕としては教えてくれなくてもいいと思っている。
僕なんか拷問されたらペラペラしゃべっちゃうだろうから。
だから身バレしそうなものは一切持っていない。
「団員証」も「土寄せ棒」も。
頭の中身を覗く魔術なんか使われたら一発だろ?
だったら知らない方がいいんだ。
「ほら、アイツ」
「なんでこんなところにいるんだ?きっしょぉ」
そうささやく声が聞こえる。
「髪型とかさぁ、気に入らねぇなぁ」
「ダッサぁ」
そっちを見ると若い男たちがこちらを遠巻きにチラチラ見ていた。
僕が見るとすぐに目を反らして歩いて行った。
くそっなんだ、アイツら。
いちいち癇に障るなぁ。
僕はアイツらのことを知らない。
会ったことがあるかもしれないけれど憶えていない。
アイツらは憶えているんだろうけれど、あんなふうに言われなければ見ることもない。
向こうから不快な気分にさせる。
王都って今は首都か。荒廃してるって話、ホントだな。
こんなのに四六時中さらされて、コリガン君本当によく我慢できるね。
◇
そして、例にもれず僕はやらかしてしまった。
なんてことはない、憲兵に捕まったんだ。
ヤバい。
なんていうか、ヤバい。
道端で僕を見ていた奴らって監視だったんだ。
そのあとぞろぞろやってきたと思うと、「ちょっと来い」とか言ってきた。
逃げようにも囲まれていたし、暴れでもしたら余計に怪しまれる。
今回は場所の確認だけで何も持っていないから、大丈夫だと思ったけれど。
実際はこうして地下牢に放り込まれている。
作戦はまだバレてないけれど、拷問とかされたら……
そう思って震えていた。
よく見れば他にも人がいる。
老若男女様々だ。
「くそっ、クズどもめ」
毒づく声が聞こえる。
「ハティがきたらお前らなんて」
え?ハティって……
「なんで白狼将軍を」
僕が呟くと男の人がにじり寄ってきた
「白狼って、おまえ、ハティのガキか?」
「え、いえ」
「んだよっ、期待させんな」
「どういうことです」
「俺らは王都の貧民街出だ。二年前にティアさまに助けられたけれど、そのあと戻ってきたんだ。そうしたら、政府の奴らが好き勝手やってたんで、かましてやったんだ」
「それで投獄されたんですね」
ティアさま、実際はあんな痛々しい人なのにとんでもなく「民」を大切にするんだよね……
「ああ、でも、アイツがこのままにしておくわけがない。絶対に来る」
「どうしてそう思うんです」
「それは……なんでだろうな?」
それから笑っていう。
「アイツがハティだからだろ?お前知ってるか?晩餐会とかいうのの後に、飲み直しだってよ、厨房から城の飯の残りとか持ってきて孤児院の庭で俺らと飲み食いするんだよ、アイツ」
「金髪の可愛い子、連れてな」
「耳の長いちっちぇの」
「それで、ただニコニコ笑って、飲み食いして『じゃあ、またな』ってよ」
「何を話すわけでもなく、ただ飯と酒を俺らと分けて食って、俺らのバカ話聞いて笑って……」
鼻をすする音がする。
「くそっ」誰かが叫んだ。
「自分より立場弱いの苛めて憂さ晴らししてるお前らなんかとなっ!マクスウェル姉弟は違うんだよ」
アガートラーム、アガートラーム、恐ろしい魔物よ。 どんな勇者の剣も敵わない。
アガートラーム、アガートラーム、恐ろしい魔物よ。 大軍を飲み込む、大喰らい。
そう声を上げ始めた。
それに合わせるようにみんなも声に出し始める。
アガートラーム、アガートラーム、恐ろしい魔物よ。 眠っていたのを起こされた。
アガートラーム、アガートラーム、恐ろしい魔物よ。 恨みを募らせ、我らを襲う。
ああ、兄弟たちよ。バカなおまえはあいつに剣を向けたのさ。
声が大きくなりつつある。
アガートラーム、アガートラーム、恐ろしい魔物よ。 歯向かうものに、慈悲はない。
アガートラーム、アガートラーム、恐ろしい魔物よ。 地の底まで追ってくる。
ああ、明日、おまえをきっとその爪で、引き裂き、食らうだろう。
足踏みと共に呪いのような合唱が響く。
この騒ぎに衛兵が集まってきた。
「おまえらなんかなっ、マクスウェルが来たら、ぶっ殺されるんだよ!」
「ハティ、バカにしやがって、アイツがこのままにするわけねぇだろ」
「今のうちにイキってなっ!どうせ本人前じゃぁできねぇんだからなぁ」
兵士は檻の鉄格子を叩き黙るように威嚇する。
けれどものともせずに男たちが声を上げる。
隙間から棒で突き倒してきた。
「遠巻きに吠えてる弱虫ども。それは口だけだろ、本人の目の前で言ってみろよ」
「できねえだろ、やってみせろってんだよな」
「お前が口開いた途端、おっ死んじまうのが目に見えてらなぁ!」
この騒動はしばらく続いた。
なんだよ、アンタ、こんなに好かれているじゃないか……
◇
どれぐらいの時間が経ったのか、新しく人が連れてこられた。
銀髪の女性?
どことなくエリーゼさんに似ている。
「ほらっ、入れ」
そう言って衛兵が押して牢内に転ばせる。
「後で可愛がってやるよ」
そう言って扉を閉める。
「……」
しばらく地面に伏せていた。
その人は衛兵が去った後に体を起こした。
ちょっと背が高いけれど、エリーゼさんそっくりだ。
瞳が琥珀色という違いくらいしかない。
「……ぁ」
目が合った。あれ?この人知っている。
女の人はゆっくり足を引きずるようにして僕のところまでくる。
すると、倒れ込むようにして僕にのしかかった。
「え?っちょっと」
(静かに)
声におぼえがある。まさか。
(無事でよかったよ)
ハティさんだ。
(顔見知りもいるから、変装してきてよかった)
それからゆっくりと体を起こす。
僕の隣に座った。
(どうやって、それにその姿)
(それは秘密さ。というか、僕を誰だと思っているんだ?悪名高い魔人だよ?)
(そうでした。白狼将軍の噂はかねがね)
(そこ、ちょっと否定して欲しいな)
(でも、なんで?)
(何でって?何かおかしいのか?)
(え?いや、理由)
(ハルを助けに来たんだけれど、余計なことだったか?)
この人は……
(ううん、嬉しい)
(そいつはよかった)
「あの、その胸どうしたんですか?」
「さすがスケベエ小僧。真っ先にそこに興味が湧くのか!」
「いや、言い方!」
「しかたない。ちょっとだけだぞ」
何でアンタ顔を赤らめるんだ。
ガバッと僕を胸に抱き込む。
……ええ~そんなぁ~
仕掛けは単純。
中は水の入った袋で豊胸している。
サラシでそれを固定しているんだ。
「…その反応、男の僕でも引くぞ」
ハティさん顔を歪めている。
僕も微妙だ。
そこはもっと夢があってもいいだろうよ。
「ところで、諸君」
不意にハティさんが言った。
牢の中のみんなが顔を上げた。
「そろそろ飽きてきた頃合いじゃないか?」
何を言い出すんだ。
「バ…か、おめぇ」
男の人が眦を歪めて言った。
「僕は、この子とここを出ようと思う」
それから二ィっと笑った。
「勇士諸君はどうするかね?」
その後、歓声が上がった。
◇
怒号と言ってもいい。
なんだろう、これは。
戦場に立ったことのない僕だったけれど。
この場所が戦を前にした兵団の一幕のように思えた。
「腹が減ったな……」
ハティさんが言う。
「囚われたのも屈辱だな」
続ける。
「その手の鎖は重たかろう」
目つきが変わる。
……なんともどう猛な。
「檻の外で笑う奴は腹が立つよな」
簡潔な言葉、そして代弁。
「そろそろ、食い破ろうか。……同胞」
そういって鎖を引きちぎる。
いや、アンタ魔力を封印してるんでしょ?
普通の成人男性、できませんけれど。
「我らが『生』を取り戻すぞっ!同胞」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼の言葉に血が沸騰した男たちが吠えた。
「生き残れ、守れっ、我らが生を蝕んだものに天誅を、奪われたものを贖わせろっ、家族を、己を解き放てっ!」
咆哮が地響きとなって牢を包む。
「簒奪者から魂を奪い返せっ!同胞よ」
ハティ・アガートラーム・マクスウェルが地を踏みしめる。
「これより、『狩り』の時間である」
右腕が振るわれる。
鉄格子が吹っ飛び、ひしゃげてしまう。
「続け!」
ハティさんが駆けだす。
僕たちはそれに続いた。
他の人たちは……ああ、ヤバい。
目を血走らせている。これじゃ獣の群れだ。
◇
「ハティさん、そんな顔で笑うんですね」
「え?」
「だって、エリーゼさんの前でそういう顔をしなかった」
「……」
ハティさんが後ろ頭を掻いた。
「内緒だぞ」
出会いがしらの兵士をハティさんがぶっ飛ばした。
兵士は宙を錐もみしながらコメディのように壁に頭から突き立った。
「オマエらぁ、確かぁコリガンとハルを笑い者にしたってなぁぁ」
もう、不特定多数ですから、相手が誰だか分からないよっ。
「クロエにもイタヅラしようとしたってぇぇ!」
いや、アナタ今、見た目は美女なんですよ。
っていうか、ちょっとエリーゼさんに重なる。
「ウチのモンに手ぇ出して、タダで済むと思うなよぉっ!」
どっかコワイ人みたいなことを言って殴りかかる。
一方的だ。
「連帯責任だぁぁっ」
頭突きまでかましながら言う。
ウルフアンバーの瞳が光る。
素手、それも魔力を封じている。
そんな人が兵士どもをちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回り。
というか、全員頭から壁に突き立たせている。
壁から兵士の体が生えている……
そういえば、昔父さんに聞いたことがある。
「海」というところには仲良く並んで穴から体を生やしている生き物がいるって。
確か、チンア…ナ……あ!?「スンアナゴ」だっけ?
僕が記憶をたどっていると、ハティさん急にもじもじしだす。
「あら、ヤダ。これ楽しい。カ・イ・カ・ン」
船乗りの服を着た女性みたいなことを……
正気の沙汰とは思えない。
嬉々として兵士を捕まえては暴虐の限りを尽くしている。
ジャガイモ仲間の、皆さんへ。
もう、今まで溜まったフラストレーション!
ハティたちと一緒に「スンアナゴ」にしちゃいましょう!
あくまでも脳内で彼らと一緒に大暴れ!
ムカつくアイツも……
ヴィクトリーー!




