表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/204

第69話 出陣!色物怪盗と迷探偵とジャガーノート!まさかの結末!



僕は竈を前にほくそ笑んでいた。


(ふふ、今日もいい出来だ)


「ハル殿、次の補給兵が来ていますっ!」

給仕担当が言う。


「了解。今、仕上がります!」


戦場での補給、つまりは食事。それは生命線。


僕は今、この軍の主食である「蒸かし芋」を担当している。


先の「コロッケ」では少々はしゃぎすぎたようだ。

なんとか、「ガレット」さんの口利きでこの配置に戻してもらったんだ。


これが非常に充実している。


「ありがとう。なぜか傷が治ったぜ!」

「サンキュー、給食の人。HP、MP全開だぜ!」


なんというか、ガレットさんの砦はハートが熱い。

しかも、下働きの人に必ず「サンキュー」「あざース」という声を忘れない。


これは、日陰者にとっては励みになる。


「ハル、大丈夫?」

コレットが心配してくれる。


「作戦前だよ?休んだら?」

「ごめん、テンション、ハイになっちゃって」


僕はコレットに詫びる。

そうだよね。大事な作戦を任されているっていうのに……


僕は意識が散漫になって芋をとり落としそうになった。

コレットが咄嗟に手を伸ばす。


「熱っ!?」


蒸かしたての芋だ。

コレットが慌てて手を引っ込めようとする。


僕は芋とコレットの手を左右の手で同時にとった。


「熱いから気をつけて」


そう言って手を見る。


「火傷してるかも、水で冷やして―――」


「ハルっ出動要請だ!いくぞぉぉぉぉぉぉって、ごめん!」


フィンが急にターンを切っていなくなろうとする。

というか赤い全身タイツだ。


「まって、待ってって、違うから!」


僕は必死に弁明する。


「いや、俺、大事な作戦前に雌馬シュトゥーテに蹴られて死にたくない」

「だからぁ」


コレットが手を押さえて俯いている。


「とにかく、行くぞ!」

破れかぶれといったていでフィンが叫ぶ。


「ありえない……」

「フィンは、やってはいけないことをした」


女子連中がなぜかフィンレーを恨みがましい目で見ている。

いや、全身タイツって何?


「とりあえず、補給物資ね」

僕は照れ隠しにみんなに芋を渡す。


「さあ、頑張ろう!」




森を駆け抜ける。

遠くで闇夜を割くドンパチが見える。

おそらく現場は凄惨だ。

その汚れ仕事をハティさんとガレットさんが請け負っている。


僕たちはそれを尻目に、とにかく政府本陣へ向けて走った。


しばらくして、本陣近くの森に潜む。


(あれが、ターゲットのいるところだ)

フィンが小声で言う。


いや、闇夜だけれどさ、その赤いスーツは目立つよ?


〈ロッシェ、ロッシェ〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが声をかけてくる。


(どうしたの?)

僕は小声で聞き返した。


〈アタシ、今度こそ役に立つから〉


え?どうしたの?


〈あの時みたいな役立たずの【でくの棒】じゃないって、証明するから〉


(何を言っているの?君が【でくの棒】なわけないだろ)


〈でも!アタシはロッシェを守れなかった。ロッシェが大けがしても何もできなかった〉


悔しそうに言う「アンジェ」さん。


〈ここで「汚名返上」「名誉挽回」するの!だから、アタシを捨てないで!〉


「何を言っているんだっ!」


僕は思わず声を出してしまった。


「君を捨てるなんてっ、絶対にありえない」


フィンたちが慌てて僕を取り押さえた。


(お、おい!どうした?急に)


(青少年期にありがちな「パッション」?)


みんなでなだめにかかるけれど、僕はそれどころじゃなかった。


「『君を捨てる』だって?誰がそんなことを言ったの?僕はこれっぽちも思ったことはないよ!そんなウソを吹き込んだヤツっ、絶対に許さないからなっ」


本気で怒っている僕を見て、「アンジェ」さんはたじろいだ。


〈だって……〉


「だっても、断根だんこんもないよ!古い農具だからって根っこ切るみたいに、関係切るわけないよっ!」


(ちょっと!?何勝手に「修羅場」やってるのっ!)

リャナンが僕を抑えにかかる。

僕は構わずに続けた。


「何年、一緒にいると思ってるの?僕が生まれた時からいっしょにいるでしょ?それなのにっ、なんで急にそんなこと言うんだよ」


〈う、うううぅぅっ〉


「アンジェ」さんが泣きだした。


〈だって、だってぇぇぇ〉


「僕を『独りにしない』っていうのは嘘だったのっ」


〈違うっ!アタシはっ、アタシはぁぁ〉


「じゃあ、何だっていうのさっ!」


興奮した僕は【土寄せ棒】の「アンジェ」さんに詰め寄った。

正確には、手に握った状態で顔を寄せただけだけれど。


パッシーーーーーン!


頬を引っ叩かれる。


え?


顔を上げると、コレットが僕を見下ろしていた。


「女の子を泣かせるハルは、最低です」


月明かりを受けて、目じりに涙を溜めてコレットは言った。


(いや、今「作戦の途中」ってわかってるか?)

(というより、さっきからハルは【棒】に一人で怒鳴りつけているだけ)

フェンリルナイトのみんなが困惑している。


「人の話をちゃんと聞いてください」

コレットは静かに言った。


おお、なんだろう、この貫禄。


あまりのことに、僕は冷静になった。


「っ!?」


そして、僕が何か言い始める前に事態は動き出していた。


スッと「リャナン」「リムアン」「アルセイス」が離れていく。



「薄い本は、一日一時間です!」


言い争う声が響き渡る。


「この『混沌たる汚泥』の中で聖典バイブルこそが我が魂を浄化する唯一無二の方程式アルゴリズムと分からぬのかっ」


「ああ、お嬢様!待ってください」

「もう良い。ちょっと走り込みをしてくる」


「戦中です!脳みそ筋肉ですか」

「奴らと一緒にするな!」


ポニーテルの女性が天幕を跳ね除けて出てくる。


そして、森の中を歩いていく。


「くくくく、私の聖典(薄い本)が一冊とは限らぬだろう。どおれ、心ゆくまで……」


あれが、ターゲットのティア・シュトゥーテ・フラインさま?

遠目に見てもわかるほどの美女だ。


シュピーーーン!


カードが投げられ、地に突き立つ。

「?」

強者の余裕かティアさまがそれを手に取り、読む。


「今宵、あなたの矜持をいただきます」


カードにはそのように書いてあった。


「ふぅぅぅん!」


苛立たし気にティアさまが引きちぎり、足蹴にする。


「やれるものなら、やってみろぉこるぁぁぁぁ!」

なんかストレスがすごいことになっている。


風が吹いた。


樹の上にリャナンとリムアン……間に合わせでアルセイスがいる。


なんかよくわからないBGM。


ツクツクツク……

タラーーーーン、タラーーーン!


月を背に三人がポーズをとる。


ティロリィロティ!ティロリロリィロ~、ピィロリーーーン!


「我ら―――――」

「ハティの子どもだな」

名乗るよりも先にティアさまが言った。


「こんなおちょくるような真似をするのは、アイツのところのヤツしかいないだろう!」


……ああ、バレてらぁ。


ティアさまがすらりと腰の剣を抜く。


「お前ら、覚悟はできているだろうなぁ」

なんだか、怨念のようなものを感じる。


「私の『矜持』?すなわち『聖典』を奪うだと?」

肩を震わせている。


「我が『静謐なる聖域サンクチュアリ』を侵すというものは須らく極刑だ!」


ティアさまが吠えた。


「光栄に思え、なにせ、この【天駆ける閃光の刃】ティア・シュトゥーテ・フラインの蹄に掛かるのだからな!」

いや、その二つ名、すでに厨二っぽい!



雲が突きを覆い、辺りは暗闇へと落ちた―――――




「うっそ!?」

確かに軽騎兵「最速の女」と呼ばれた将軍。


でも、これほどまでとは。


姿が霞む、気づいたときには目の前にいる。

気を緩めた瞬間に首がとぶだろう。


「どうした?ハティの子を名乗るなら、そんなグスではダメだろう」

いや、「グス」って何?


リャナン(ホワイト)とリムアン(グリーン)が頷き合う。


「いきます!」


リャナン(ホワイト)が言う。


「刀技【疾風はやて


高速の抜刀術、これなら。


「―――グスだな」

簡単にあしらわれる。


「黙れ。馬女」

リムアン(グリーン)がいる。


「ハティの真似――――【コンテイン(牽制)】」

高速で斧槍を繰り出す。ティアさまの足を狙っている。


「だから、グスだと言った」


剣の平で二人を昏倒させる。

「遅い、ぬるい、グスだ貴様らは」


一度立ち止まり、フッと憂いを込めた笑みで前髪を掻き上げる。


「いくらハティを真似ようとも、無駄なことだ。帰ってアイツに慰めてもらうがいい」


それからバッとマントを翻した。


「我が名はティア。ティア・シュトゥーテ・フラインだ!【闇夜を割きし雷光】のティアを相手にそのスピードでは、あくびが出てしまうわ。グスどもが」


いや……最初の二つ名とは違うこと言っているよ、この人。


「おふざけはここまでだ!」


アルセイス(ブルー)が魔術を使う。

ふざけているの、その格好してるの君たちの方なんだけれどね。


霊槍投擲エーテルジャベリン――――」

構えたところで背後にティアさまがいる。


「だから、グスなんだよ」

手刀で昏倒させる。


なんなんだ、この強キャラ。

軍師タイプじゃないの?

知略で無双するんじゃないの?

ゴリッゴリの武闘派じゃないのさっ!


ドラゴン倒せるランクAパーティ、秒殺してるよっ!?


「【燃える黄金オラルスハラ】!」

フィン(レッド)が最大火力を放つ。


「むっ?」

さすがのティアさまも虚を突かれたようだ。


「食らえ、【ブリューナグ(千々に炸裂する閃光)】」

フィンの攻撃が届く前に姿が描き消える。


高速移動。


気づいたらフィンもやられている。


一体、何が起きたんだ!?


そして―――――


「悪く思うな」


僕の前に彼女がいた。


剣が突き出される。

体が動かない。

肩を狙われている。


おそらく致命傷ではないだろうけれど――――


「やらせるか!盾技【絶対防御アンブレイカブル】」

スヴェン(イエロー)が割って入り、盾を構える。


だけれど。


「だから、遅いんだよっ!」


それすらも見越した剣撃。


細身のエストックでも通用するわけだ。

防御なんか関係ない。その隙間を通せる。


「ゴハッ」

スヴェンが血を吐く。


え……嘘だろ?


「だいじょうぶか、ハル」

「だ、大丈夫だよ!スヴェンが守ってくれたから……」


涙ながらに彼に言う。


「ハッ、じゃあ、ちょっとは役に立てたか」

そう言って倒れる。


「ちょ、スヴェェン!」

僕は叫んだ。


マズイ、みんなやられた。

全滅だ。五将をなめすぎた。

ハティさんやエリーゼさんがバカを演じすぎた弊害だ。

とにかく、重症なスヴェンだけでも……


って、あれ?

追撃が来ない。


見ると、月明りに照らされたティアさまがハフハフ言っている。


「こ、これは萌えるな。悪役ムーブからの、いたけな少年少女をいたぶる。さらに、ムクツケキ筋肉ダルマが芋っぽい少年を庇い、折り重なる構図……」


なんだ?この人……


「ふぉおぉぉ!いいぞ、このカップリング!創作意欲に……」


ダメだ、この人も結局こっち(ハティさんエリーゼさん)側だ。


「じゃぁ、じゃあ私はどうしゅればいい?どうしたらより萌えるんだ?」


もう、この人の目は異常者だ。

ろれつもまわってないし。

目がイッている上に、涎まで垂らしている。


超絶美女なのに!


(ハル、チャンスよ!)

コレットの声がする。


(今、ティアさまは無防備。「視た」くなかったけれど、注意も散漫)

離れたところで隠れているコレットの指示が飛ぶ。


(それはもう……「パンドラの箱を開ける」けど。もっと、気を引くの。「来るなっ!スヴェンだけは僕が守る」って叫ぶの!)

よくわからないけれど、僕は言われたとおりに叫ぶ。


「来るなっ!スヴェンだけは、『彼』だけは僕が絶対に守る!」


この言葉に「キュゥゥゥン」と謎の効果音が出た。


ティアさまが身震いした。


「い、いいぞ。ジャガイモ少年。無力を自覚しながらも愛した男を庇おうというのだな?」


「ちっがぁぁぁぁぁう!」


〈そうよそうよっ!ロッシェは、「筋肉ダルマ」よりアタシの方が――――〉


「ああ、私は【無慈悲な簒奪者】。漆黒の凶手を今度はクリムゾンに変えるのだ」


もう、王家の英雄ってマトモな人いなかったんですかぁ!?


「だいじょぶ。ちょっと痛いかもしれないけれど、死にはしない。天上の星を数えていなさい」

ハフハフしながらにじり寄ってくる。


ヤバい、変質者だ。

「だってこれから君の物語を薄い本に――――」


「義兄弟に―――――」


影が飛ぶ。


「―――――なにさらしとるんじゃぁ!」


月光を背に4人の姿が映る。

手にした武器を振るう。


「フゥ、やはり、お前たちは良いな」


そう言ってティアさまがスタートを切ろうとする。


けれど。


「逃がさねぇぜ」

スヴェンが足首を掴んだ。


「あっ、ちょっとだけ『トゥンク』と来たぞ」

なおも余裕のティアさま。


「だが、すまない。止まって見えるのだ」


目に見えぬ早業。

突きでフィンたちの利き腕の肩を貫き、無力化する。


(やらせない!)


フィンたちに応じているティアさまの背を、僕は「アンジェ」さんで突いた。


それは、昏倒させるには弱々しくて、小突いた程度。


でも―――――


――――――スン


ティアさまが膝から崩れ落ちた。


「な、んということだ。我が内に秘めたる『汚泥(魔力)』が……抜け――――」


〈オマエはもう、「スン」でいる―――――〉


【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが言う。

夜風が、群雲を流し、月がまた姿を現した。


「あぶろぶろっべはぅ!」


ティアさまがなぜか変な声を上げて身悶えた。


そして、恍惚の笑みで気絶していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ