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第61話 背後で……どすこい!「アンジェ救出作戦」でうっちゃるでごんす


「すまない。この失態はいかようにも」

ランドルフが膝まづく。

回復の法術によって傷は塞がっていたが疲弊はみてとれた。


「この度の件は、言語道断だ」

ディアブロが低い声で言う。

「10万だぞ!あれだけの兵を繰り出して一地方を陥落させるどころか潰走するとは!」

議事堂にはディアブロ、ナハト、ランドルフのみ。

「しかも、ティアまで奪い返されるとは、お主何をしていたのだ」


ランドルフは言い訳がましいと思いながらも口を開いた。

「……【星霜の洗滌エトス・カタルシス】の確保を」


「なんだとっ!?」

「あの場に、神器【星霜の洗滌エトス・カタルシス】を持つ者がいたのだ」

「オルジュの街で暴れたという者か」

「そうだ」


ナハトは腕を組んだまま無言を貫いている。

「では、お主が戦線を離脱したのは」

「ジャガーノートに敗北したからだ」


「不可抗力の破壊者ジャガーノートだと?」


「【星霜の洗滌エトス・カタルシス】を持ち、『マクスウェルの悪魔』の力を一部引き出していた」

「……アガートラームめ、自身の力を養子に分けているとは聞いていたが、そこまで周到だとは」

忌々し気にディアブロが言う。


「だからといって、お主が敗走したこと、ただでは済まされぬぞ」

「わかっている」

「何よりも多くの将兵を失ったのだ」

「ぐ……」

その言葉にランドルフは歯噛みする。


「追って沙汰がある。まずはウォルター様のところへ……」


「あの場に『エリーゼ様』がいた」

「なんとっ!?」

「ウォルター様も、その……お喜びになられるかと」

「『あの日』、アガートラームに連れ去られたエリーゼが、よくも仲違いせずにいられたものだ」

「代わりにアガートラームはアンジェを救えなかった」

「天秤にかけたのだからな。あの状況ではどちらも救えまい」

ディアブロが表情を変えずに言う。


ややあってディアブロは眉間を抑えた。

「なれば、ケトゥスの街の施設破壊はエリーゼの仕業といえるな」

「ウォルター様はもしやケトゥスの街へ行かれたのか?」

「そうだ。一小隊と街に駐屯していた兵が領主共々失踪したのだ。行かざるを得まい。裏切ったウルフスベインの領地も接収し、グリードの後釜も据えねばならん」


それから忌々しげにランドルフを見る。

「お主の敗走がなければ、もっと事態は楽であったがな」

「申し訳ない」

「お主はすぐにでもウォルター様に合流し、ご助力申し上げろ。そして『エリーゼ』のことも伝えるように」


「承知した……と言いたいところだが」

ランドルフは議事堂の奥から響く音に意識を向けた。


「あの音はなんだ?」

その問いに初めてナハトが言葉を発した。

「イグリースの『従属』の魔術を強化している」

「あの女狐のか?」

「そうだ。今さらだが今回の献策に不審な点が多かった」


抑揚のない声で続ける。

「ランドルフの勘のとおりだったかもしれない。事実、ティアはあちらの手に落ちた」

「ハナからティアを旧王家陣営に戻すための策だったというのか」

「今となってはそのように思っている」


「それで、『従属』の縛りを強めているのか」


ランドルフが顔を歪める。

イグリースは容姿がエリーゼと酷似している。

そのため、気質としては合わないが、思うところはある。

「だが、なんであんな音がするのだ?」


訝しむのも無理はない。

ドシーン、バシーンと重く何かを叩くような音。

「よっしゃ!」「腰が高い!」「もういっちょう!」「のこったのこった!」

……どう考えても相撲部屋のぶつかり稽古のような掛け声。


「イグリースの声だな……」

「奴め、魔術に抵抗して『土俵際で耐えている』ようだな」

感情のうかがえない顔でディアブロが言う。


彼女の不屈の精神は驚嘆すべきなのだが、掛け声がおかしい。


「そ、そうか……」

ランドルフは一言もの申したい気分であった。

しかし、自身の失態もあるので大人しく引き下がった。



「で、この地獄絵図はなんなの?」

ルーダが呟く。

目の前で上半身裸のスヴェンとハルが組み合っている。


それをハフハフしながらティアが見ている。

隣ではコレットも椅子に座り、脚をパタつかせている。

顔を手で覆いながらも指の間から観察している。


「どっせーい!」

スヴェンがハルを投げ飛ばす。

ハルは床を転がるが、すぐに立ち上がる。


「もういっちょう!」


それからスヴェンに突進してバシーンという音を立ててぶつかる。


「頭をつけろぉ!」

スヴェンの声に応じてハルが体を寄せてぐいぐいと押していく。

厚い胸板に顔を押しつけたときだった。


「良い、実に良いぞぉっ!」

ティアが嬌声を上げる。

「きゃぁぁぁぁぁっ」

コレットまで声を上げる。

ふたりが組み合っているのを見て鼻息を荒くしている。


「いや……だから……」

ルーダは完全に眼中にないようだ。


「そこで『おいどんをがぶる(前後に揺さぶって押し出す)でごわす!』と言うのだ!」

ティアの指示が飛ぶ。


「あ~、『おいどんをぉ、がぶる……でごわす』」

スヴェンが指示通りに言う。

ハルがさらに体を密着させてスヴェンの体を揺さぶりつつ押していく。

汗が飛び散った。


「ひゃぁぁぁぁっ」

コレットがまたも嬌声を上げた。



ティアさまの部屋での狂態が一段落した。

広間にはエリーゼさんたち一同が会している。


ティアさまとコレットは顔を真っ赤にして興奮気味。

僕はスヴェンとのぶつかり稽古をさせられて疲労気味。

いや、正直、この稽古はためになったけどさ。

足腰の鍛錬や重心移動とかの勉強になったけれど……


「なんか、ハル……大変だな」

隣に座ったルーダが呟く。

「うん……」

僕は悲しい気持ちで答えた。

「まあ、強く生きろよ」

「うん」

今はルーダの慰めが嬉しい。


「あのさ、ルーダ。この人が『ハル』なの?」

グレーの髪をした少年が声をかけてくる。

「ああ、そうだよ」

「ふぅん」

そう言って僕をじろじろ見る。


「ルーダ、好み変わったの?」

「はぁ!?」

ルーダが顔を真っ赤にして立ち上げる。

「ば、バカなこと言うんじゃないよ、オーレ!」

オーレと呼ばれた少年は頭の後ろで手を組む。

「そう?だって最近はガレットさんの話よりハルのことばっかりじゃない」

「う、うるせっ、友達だからだよ」

「へぇ、そうなんだぁ」

オーレはニヤついている。

そしてそれをリャナンもニヤニヤして見ている。

あれ、リムアンちょっと不機嫌そう。

なんで?


「あ~、そういうのは後でなさい」

エリーゼさんが咳払いをする。

「はぁい」

オーレが返事をする。


「オーレ、ルーダ、よく来てくれました」

エリーゼさんが静かに言う。

「あなた達に依頼をしたいのです」

その言葉に二人が姿勢を正した。


「ガレットが奪取した『恩寵』。これの解析と、術式を移す触媒を造ってほしいのです」

え?なに?なにそれ?


「僕にできるかな?」

オーレが首をかしげる。

「あなたは腕の良い『錬金術師アルケミスト』と聞いています。アンジェからも教わっていたとか」

ん?んんん?「アンジェ」って言った?

もしかして、五将の一人、アンジェ・フラン・スカーレット?


「術式を移す触媒はルーダに頼みます」

「お、オレかよ」

ルーダが慌てる。

「ギース親方の愛弟子なのですから、出来るはずです」

「い、いや~『愛弟子』だなんてぇ、えへへへへ」

ルーダ、単純だね。


「二人で協力をしてください。アルくんやバルドールにも手伝ってもらって」

同席していたアルセイスとバルドールさんが頷く。

「ここから、攻勢に出ます。時間は限られています。できるだけ迅速に」

そうエリーゼさんは言った。


「エーレンブルグを攻めたことで今、共和政府は疲弊しています。それに将も欠けている状態。ガレットたちの働きでグリードの領地の立て直しもありますからね」

にやりと笑う。


「ここで、『アンジェ救出作戦』に打って出ましょう!」


そう告げるとハティさんを見た。

ハティさん、しっぽがついていたらぶんぶん振り回しているような顔をしている。


「あ、あああ姉上」

メチャクチャ嬉しそう。


アンジェさんのこと、それだけ助けたいんだね。

「なんですか?ハティ」

笑顔でエリーゼさんが尋ねる。


「お姉ちゃん、大好きです。僕、頑張ります」


ハティさんが言った。

エリーゼさんは一瞬固まった。


それから口元を押さえて涙をボロボロこぼした。


「ハ、ハティに告白される日が来るなんて……」

は?なんか違うよ?


「ええ、ええ。もちろんです!一生添い遂げましょう!」

めちゃくちゃ、解釈違いだよっ!?


「あ、そういうのいいんで」

ハティさん、急に「スン」として断った。




次回からは【首都潜入、・アンジェ救出編】に移ります。


「イラ」っとするシーンもありますが、新キャラも登場します。

本日19:20公開です。ぜひご覧下さい。

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