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第55話 ロッシェ一族と魔女っ子の因縁って「棒」芋のお礼ですか?



「ダンジョンアタック、お疲れさまっしたぁ」

フィンレーの声にみんながジョッキを打ち合わせる。

「料理もそろったんで、後は食べながら飲みながら騒ぎましょう!」


「ほんじゃぁ、『いただきまぁす』」

皆で手を合わせる。


「ちょ、それリムが頼んだ串焼きっ」

「また頼めばいいだろ!」

「それがいい!」

騒がしい。


「これっちょた~ん。超・カワユスぅ」

酔っぱらったリャナンが頬ずりする。


「た、助けて……」

苦しそうにコレットがもがく。


「やめなさい」

エリーゼが引きはがしにかかる。


「ハルさんよぉう、今回も大活躍でしたなぁ」

「え、何もしてないよ」

「何をおっしゃる、採取した薬草、めっちゃ高く換金できたぜ!」

フィンが肩を組んでくる。


「でもよぉ、俺はハルに襲われたかと思ったぜ」

スヴェンが眉をしかめる。


「あれは、誤解だって!スライムがっ」

ハルが言うと、アルセイスが笑う。

「わかってるってっ、冗談だよ」



「しっかしさ」

ぐふふふふと男連中がコレットを見てニヤける。


「痺れましたなぁ、ハルさんのセリフ」

「いいね、イケメン」

スヴェンとアルセイスがはやし立てる。

「ちょ、やめてよ。それにアルスが言うと嫌味だよ」

照れるハルにみんなで声を上げて笑う。


〈なぁに、言ってるんだか。ロッシェははじめからイケメンよん〉

誰にも聞こえないと知りながらも、【土寄せ棒】の「アンジェ」は呟いた。



そんな喧騒の中でコレットはハルをじっと視た。


(やっぱり、ハルには魔力の色がない)

こっそりと【高貴なる洞察ノーブルインサイト】で観察する。


(本人が「魔力がない」って言っているからそうなのだろうけれど)


(それに、あの「棒」。ドラゴンブレスをかき消した。魔力自体が消えた)


ハルは不思議なことばかりする。


『「価値がない」なんて思いたくなかったんだよ。せっかく、その、コレットが見つけたんだし、どこにでもあるものだったとしても、無価値なものなんてないっていうか……』


ダンジョンでのハルの言葉を思い出してコレットは顔が熱くなるのを覚えた。


「あら、あらあら、どうしたのぉ、これっちょた~ん」

リャナンが絡んでくる。


「なんか、熱視線を向けている?」

リムアンまでもが覗き込んでくる。


「ぐふ、ぐふふふ、いいわぁラブの気配がするぅ」


「ち、ちがいます!」

コレットが慌てて否定した時だった。


酒場に入ってくる者がいた。



静かな足取り。

靴音が響かない。


その異様な気配に、フェンリルナイトたちは瞬時に切り替える。


一斉に警戒の目を向けた。


「あ――――」

皆一様に口をあんぐりと開けた。


「すみませぇん、エールとポテトフライとソーセージの盛り合わせ」

男はカウンターまで歩いていき、慣れたように注文する。


ジョッキにエールが注がれる。


男はエールを受け取ると、カウンター席までいそいそと持って行った。


座ってすぐにグビグビと飲み始めた。


「ぷふぁ~日の高いうちから飲む酒は最高だねぇ」

のんびりとした声。


目の前に置かれたポテトフライを摘んで口に放り込む。


「あ、あちっあひっ」

ハフハフしながら咀嚼すると、エールで口の中を冷ます。


「うま~」

幸せそうに息を漏らす。ピコピコと跳ね毛が揺れた。


「お、おおおおおおおお」


フェンリルナイトたちがうめく。


「ん?」

「おやじぃぃっ」

一同が叫び、駆け出す。


「あ、久しぶりだね――――おおっ!?」


突撃されて椅子から転げ落ちる。


「何してたんだよっ」

「ハティ~」

「おとうさぁん」

「親父、酒より先に俺たちに気づけよ」

「親父殿、相変わらずだね」

五人が五人とも抱き着いてぐりぐりする。


(なんか、いいなぁあったかい色がしてる)

コレットはその様子を視ていた。

今のハティには黒い靄がない。


「あははは、元気だったぁ?」

ハティが笑いながら頭を撫でている。


「元気だよっ」

「リムね、リムね、ドラゴン倒したんだよ」

「俺たちでだろっ」

「私も頑張ったんだぁ、褒めて褒めてぇ」


酒場の客は迷惑そうであったが、お構いなしにじゃれあう。

まるで犬か狼がじゃれ合っているかのようだ。


「あなたたち、いい加減になさい!」

エリーゼの声が響いた。


「迷惑を考えなさい」


毅然としたその振る舞いに、ハルとコレットが「おお~」と感嘆の声を漏らした。


「姉上、お久しぶりです。ご壮健そうで何より」

体を起こしたハティが挨拶をする。

フェンリルナイトたちも叱られてシュンとして離れた。


「んもぉう!お姉ちゃんが一番に抱き着きたかったんですぅ!邪魔するなんて、人の迷惑を考えろってんですぅ」


地団太を踏む。


全員が「そっちかよ」と思ったが、口にはしなかった。

この変わりようを初めて目にしたハルは目が点になっていた。


「あ、コレット久しぶり。相変わらず可愛いね」

(くぅぅぅぅ、コレットいいなぁ、蕾可愛い)


姉には目もくれずハティはコレットに声をかける。


「あ、はい。お久しぶりです」


「心のビジョン」が視えているコレットはドン引きしながらも頭を下げた。


それからハティは隣にいるハルを見る。


「あ、ロッシェ、久しぶり……ん?縮んでる?」

ハティが驚いた顔をした。




僕は、緊張していた。


いや、父さんから聞いていた。

「白狼将軍」ハティ・アガートラーム・マクスウェルさまは素晴らしい御方だって。

でも、面識のない僕には、世間の評判だけが彼の人物像。

それは旅の中でフィンたちが語る人物像でも払拭できないものだった。


曰く、「家族を侮辱した」という理由で時の権力者を護衛もろとも惨殺した。


曰く、「姉を侮辱した」という理由で伯父を殺した。


曰く、孤児を使って犯罪を繰り返してきた犯罪組織に乗り込んで惨殺した。


曰く、孤児たちを攫った。


あ、ちなみにこの犯罪組織の件、フィンたちが関わっている。


とにかくキレると何するかわからない人。

身内でも容赦がない。


そういえば、ティア・シュトゥーテ・フライン卿を巡って一騎打ちをしたとか。

縁談をぶち壊して大暴れしたとか何とか。


帝国との戦でも帝都で大暴れして、壊滅的被害を出したとかいう暴虐魔人だ。


「いや、びっくり。ロッシェ……あ、君もか。ハルくんはオルコスそっくりだね」

オルコスというのは僕の父さんの名前だ。


「しかしなぁ」とハティさんは腕を組んで考え始めた。


「まさか、オルコスが先に逝ってしまっていたとは」

ハティさんはそう呟く。


それから僕に頭を下げた。


「知らなかったとはいえ、弔問にも行かず、申し訳なかった」


僕は驚いた。

こんな人に頭を下げられるなんて。


「ハル・ロッシェくん。君の父君、オルコスに心よりの哀悼の意を。冥福を祈らせてくれ」


そう言ってハティさんは手のひらを合わせて胸の前で立てた。

そして、そっと目を閉じる。


このお祈りを僕は知っている。


教会は手を組むけれど。

「ロッシェ家」だけなぜかこの手の形なんだ。


なんで、ハティさんはこれを知っているんだろう?


ややあってハティさんは目を開けた。


「すみません」


そう言って給仕の人を呼ぶ。


「ここにいる人たちに、お酒をふるまってください」


そう言って「金貨」を取り出し、給仕の人に渡す。


「僕にも……『清酒』があれば、それを盃に2つ」


給仕の人は金貨を受け取り、戻って行った。


少しして「清酒」が運ばれてくる。


さらに、他の人たちにもお酒が運ばれて行った。


テーブルの空いている所に、盃が一つ。


ハティさんは自分の手にしている「盃」をそちらに向けて掲げた。


「敬愛する『オルコス・ロッシェ』に」


寂しそうな顔をする。


「献杯」


ハティさんは、盃を飲み干した。


息子の僕の前だから、パフォーマンスをしていると思う人もいるだろう。


けれど、僕は嬉しかった。


バカにされていた父さんが、こうして尊敬していた人に祈ってもらえたんだ。


きっと、父さんも喜んでいるだろう。


父さんやフィンたちがこの人のことが好きだってのも、今ならなんとなくわかるな。





「君も魔力がないのかい?」

ハティさんが、気取りなく、しかも遠慮なく聞いてくる。


「はい」


「そうか、凄いね」

凄い?何が?


「オルコスはさ、『棒術』の達人だったんだ。僕もよく戦場で助けられたよ。魔力なしなのにあれだけの使い手だったんだ。きっと誰よりも努力したんだろうね」


それから、ふと真面目な顔をする。


「『魔力なし』は珍しいし、ハンデだっていう人もいるけどさ、『魔力なんかなくたって強い人』なんて最高にカッコいいじゃないか」


にっこりと笑う。


〈フンっ、わかってんじゃないのよ。このクソイケメン〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが呟く。

あれ?なんかいつもと調子が違う。

ちょっと、「恥ずかしがっている」?


「目がオルコスそっくり。君の心根も、彼と同じように真っ直ぐなんだね」

そう言って手酌で「清酒」を飲む。


「父さんは……」

「うん?」

「父さんは、白狼将軍にとってどんな人でしたか」

僕は思い切って聞いた。


「優秀な部下だった。誠実で、誰よりも勇気があった『騎士の鏡』だ」


「白狼将軍」はそう断言した。


あ、なんだろう、目の前が滲んで……


「う、くっ、う……」

声が漏れた。


「オルコスの子よ、『艱難汝を玉にする』。魔力などなくたって、いや、魔力がなくても立っていられる君はすでに『強い』んだ。だから、父に恥じぬ生き方をするといい」


それから目の前の将軍は、ポテトフライを頬張った。


「うんま~」




ハルが泣き止むまでみんなで待った。


私、コレットにはこの時間はとっても大切で、それでいてとてもあたたかい沈黙だったと感じた。


私はハティさんが嘘偽りない言葉でハルに言っているのが視えていた。

お父様の「オルコス」さんへの気持ちも。


だから、魔力がなくて親子ともバカにされてきたハルにとって響いたんだと思う。


「しっかしさぁ」

のんびりと、でも空気の読めないハティさんが話し始める。


「オルコスに聞いていたけれど、本当に【ソレ】があるとは思わなかったよ」


「?」


「探しておいてなんだけれどさぁ。オルコスの先祖が、アンジェから【棒】を貰ったっていうの本当かなぁって、できたら手伝ってくれないかなぁってさ」


……あんじぇ?アンジェ?

……アンジェ・フラン・スカーレット!?


宮廷魔術師。王家の守護者!シールド・オブ・スカーレット(深紅の盾)ですって!?


〈チィ、コイツ。ばらすんじゃないわよ〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」が舌打ちするような声を出す。

怒ってるわけじゃない。

照れているんだ。


ハルにしか声は聞こえない。

でも、私には他の人と同じように「心のビジョン」で視えている。


ハルがあの【棒】を「アンジェ」と呼んでいる。

けれど、「アンジェ・フラン・スカーレット」は生きている。


じゃあ、あの【棒】っていったい何なの?


ハティさんは気にせず続けた。


「それ、アンジェがお腹空かせていた時にさ、超絶美味い蒸かし芋を食べさせてくれたお礼の棒でしょ?今でも大切に持っているだなんて、やっぱり義理堅いって言うか誠実なんだね。ロッシェ一族って」


笑いながらポテトフライを食べている。

「僕はどちらかっていうとフライが好きだけどさ」って。


「ちなみに、いつごろでしょう」

恐る恐る私は聞いてみる。


「あ、え?確か400年前とか言ってなかったけ?」


ブフーっとみんなが飲み物を吹いた。


「アンジェは『お礼に芋を掘るのにちょうどいい【棒】をあげた』って言ってたな」


いや、おかしい。おかしいって。

だって、「芋ほり棒」だよ?ハルも「由緒正しい【芋ほり棒】」って言っていたけれどっ!

それが何でドラゴンブレスを「スン」って消すの?


「でもなぁ、困ったなあ」

そう言いながらハティさんは「うんうん」と唸っている。


どうやら、【棒】の持ち主が「ハル」であるということに戸惑っているみたい。




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