第55話 最強の敵襲来!?そして農家は覚醒する
本作品に登場する団体、人物は、現実世界のものとは一切!関係はありません(笑)
黒い塊が「どーん」という効果音をともなって飛来する。
しかも、辺りの木々を薙ぎ倒しながら。
「くそっ!」
僕は愛用の「土寄せ棒」を振るう。
けれど―――――
「うわぁぁっ!」
僕は悲鳴を上げる。
高速で迫ったソレ。
確かに纏う黒い重力波は消せたんだ。
でも、その中心にある「矢」は消すことができない。
そして、それが僕を容赦なく攻め立てる。
◇
―――― 1時間前。
エリーゼとフェンリルナイトたちは市民の避難誘導にあたっていた。
ハティとガレット、「黒金の鷹」は橋梁を落している。
戦場を自陣に有利なように細工しているのだ。
残るはハルとコレットのみ。
「コレット、索敵をお願い。あなたの『眼』は重要な鍵なの」
そう言ってエリーゼが通信機を渡す。
「何かあったら教えて」
エリーゼが肩を叩く。
コレットはそれが嬉しかった。
(私も、私も役に立てる!頼りにされている?!)
コレットは高揚してきた。
「はい!先生、私、頑張ります」
そうしてお茶とお菓子を準備して塔の上から周囲を警戒した。
一方、ハルはというと――――
「酷くないかなぁ、僕だってやれることはあるんだよ」
ぶつくさ文句を言いながら歩いている。
「確かにさぁ、『給食』の係ってさぁ、大事だけれどさぁ」
そう、食事の提供を任された。
しかし、下ごしらえなどは元々いる料理人たちで進められる。
大事な役割なのだが、夕刻まで時間を余している。
「『自由時間』って言うけれどさ、みんなが頑張っているのに、僕だけ休むのもなぁ」
そう言って手にした「土寄せ棒」を見る。
(これで、バクス村やオルジュの街を救ったんだ)
いくら察しの悪いハルでも気づく。
この「棒」が何か特別な力を持っていて、無力な自分が強敵を倒すに至ったことを。
(ジャガーノートって呼ばれるけれど、この「棒」さえあれば本当に「不可抗力の破壊者」になれるんじゃないかな?)
◇
「なに?!アレ」
コレットが口にする。
黒々とした魔力。しかも、ぴっちりと押し包むような……
(まさか、「重力」?)
第一射が放たれた。
砦の北面。
異民族の領土と接しているので侵攻はないと踏んだ場所。
木々が薙ぎ倒されて轟音が響く。
(急いで、お姉ちゃんに報告しないと)
渡された魔道具。
アンジェ特製の通信機にスイッチを入れる。
「こちら、スクワール!タイガー―――――」
「……こちらは、現在、魔力が切れているか、圏外であるため繋がりません……」
(え?……)
「こちらは、げんざ――――――」
コレットの方がキレた。
「もう、ええっちゅうねん!」
通信機を床に叩きつけた。
◇
「どーーん!」
黒衣の弓兵、ランドルフ・エッガーが言う。
「威嚇射撃、成功。さあどうする?『獲物』よ」
隠蔽の魔術を解いてゆらりと姿を現す。
見ればただの子供。しかも芋臭い。
手にはただの「棒」としかとれないものを持っている。
(避難せずに残っていることを考えれば少年兵。哨戒でもさせられてるのか?)
怯えている子供を観察する。
(それとも「フェンリルナイト」か。若い冒険者のパーティーと聞くからな)
それにしては間抜けな子供だ。
哨戒でもここまで無防備とは。
(いや、だがおかしい。俺の『重力の矢』で潰れていない)
そして、子供……ハルを観察する。
(あの『棒』?あれがウォルター様のおっしゃっていた【星霜の洗滌】だというのか?)
「フッ」とランドルフが笑う。
(尖兵の「猟犬」どもがうまく獲物を誘い出したと思ったら、コイツは大当たりだ)
姿を隠しつつ、矢を弓につがえる。
(まさか、ウォルター様に最上級の「獲物」を狩って届けられるのだからな!)
◇
ああああ、ヤバいヤバい、本当にヤバい!
ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい!
調子に乗りました。僕なんかが調子に乗りすぎました!
いくら魔人さんが優しくっていろいろ許してくれてもっ!
僕みたいな凡人以下の石ころが調子に乗るだなんて神様が許しちゃくれないんだぁ!
黒い塊が高速で向かってくる。
いや、ホント、速いんだってっ!
気づけば眼前!
思わず頭を抱えて伏せる。
――――スン
そうやって黒い塊(直前まで木々を薙ぎ倒していた)は消えたけれど。
矢だけは消えていない。
しかも、避けなければ僕の喉を貫いていた。
後ろの木に突き立つ……だけなら良かった。
なんと貫通してさらに後ろの木で止まった。
こ、殺されるゥぅぅぅっ?!
狙撃手の姿は見えない。
とりあえず、国境付近の丘の上から射っているのだけはわかるけれど。
なんで、なんでなの?
この「棒」ってすべて「スン」って消してくれるんじゃないの?
……あ。
よくよく思い出したら、実体のあるものは消していなかった。
デカネズミは魔術だけで造られたから消えたんだ。
それに比べてグリードとかは殴ったけれど消えていない。
だいたい、何でも消せるんだったら、棒を提げている紐とかも消えるじゃないかぁぁぁぁ!
つまり「棒」は、魔術で形作られた(魔獣含めて)ものだけしか消せない。
ってことは!物理攻撃には対抗できないじゃないかぁ!
あああああああ?!
超遠距離からの狙撃。
高速で飛来する矢なんて避けられるわけがない。
「スン」どころか叩き落とすなんてできっこない!
詰んだよ!絶体絶命だよ!
早く気づけよ、僕はさっ!
黒い何かは消せても、矢が急所狙いなんだから、一発もらったら即死だよ!
そうこう考えているうちにまたもや黒い塊が「どーーーん!」て突っ込んでくる。
ヤバい、これは死んだ……
◇
割って入る人影があった。
「させません!」
コレットだった。
「【盾】!」
防御の法術を使う。
けれど、すぐに矢が貫通してしまう。
「ちょっとは……逸れましたね……」
血を流している。
だって「黒い塊」の圧力は消せていなかったんだ。
「ハルっ!逃げて」
コレットが僕に言う。
「相手は強すぎる。私たちじゃ勝てない。お姉ちゃんたちじゃないと―――」
第二射が来る。
「コレットっ!」
せめてあの「黒い塊」だけでもっ!
「棒」を振るう。
黒い塊は消えた。
けれど、その中から飛び出す矢だけは消えない。
僕の頬を掠めて後ろの木を貫く。
「……っ!」
怖い。正直、怖い。
相手は目に見えない。
そして、本気で僕を殺しに来ている。
「ハル、大丈夫だよ」
コレットの声が聞こえる。
「だって、お姉ちゃんなら、こんな時『大丈夫』って笑うでしょ?」
僕の脳裏に「エリーゼ」さんの姿が映った。
どんなときでも余裕を見せて、奔放に振舞う。
けして諦めない。
「ハルっ!あっちから来る!」
コレットが言う。
普段は朽葉色の瞳が黄金に輝いている。
今度は違う方向から迫る「黒い矢」
「よいしょぉっ!」
僕は気合いと共に棒を振った。
◇
「はぁ、はぁ、はぁ……」
僕はコレットを抱えて走っている。
砦へ逃げようと必死だ。
けれど、矢は僕たちの進路を阻むように放たれる。
一体、どこから射ってるんだよ!
メチャクチャじゃないか。移動速度。
放たれる直前にコレットが教えてくれる。
距離もあるおかげで何とかなっているけどさ!
コレットは相手の位置を特定してくれる。
さらに、盾の魔術を使って直撃を避けてくれる。
僕は棒を使って矢の圧力を消している。
けれど、相手の「矢」は純粋な暴力として僕たちを襲ってくる。
コレットも僕も疲労困憊。
それなのに、相手は手を緩めないどころか、どんどん追い詰めてくる。
昔、聞いた。
狩人はこうやって獲物を追い詰めるんだって。
それで、疲弊したところを一思いに「狩る」のだと。
「ハル、もう私を置いて逃げて」
コレットがそんなことを言う。
「私も、もう限界。『盾』は出せない」
そんな絶望的なことを言う。
「だから、私が『盾』に―――――」
「バカなことを言うなよっ!」
黒い塊が迫る。
僕は彼女を抱いたまま横に転がる。
避けることはできた。
矢の放つ圧力は「棒」が消してくれた。
なんとか、このまま……
次の矢が迫ってくる。
なんだよ、連続って!もうちょっと間を空けろよ!
「ハル!」
コレットの悲鳴。
僕は「棒」を振るう。
―――――スン
黒い塊は消えた。
けれど……
「うわあぁぁぁぁぁぁ!」
中から飛び出た「矢」が僕の手を貫いた。
そして、僕は相棒、「土寄せ棒」を落した。
◇
「これで、『詰み』だ。小僧」
そう言って黒衣の男が姿を現す。
「俺の【重圧の楔】をここまで凌ぐとはな」
油断なく矢をこちらに向け、弦を引き絞っている。
なんだ、あの人は?
黒衣の兵士。
細身の体躯。
それに反して燃えるように赤い髪。
僕は手を射抜かれた痛みで動けない。
コレットは僕の傷を診ている。
「ごめんなさい、魔力切れで癒しの法術が使えないの」
そう言いながらマジックバッグを漁る。
「貫通して鏃が残ってない!傷を圧迫して止血するから」
消毒なのか傷薬代わりなのか、ポーションをドバドバかける。
痛てぇ!いたたっ、メチャクチャ沁みるよっ!これぇって!これぇッとぅえ!
彼女は布を出して止血を始める。
そんな僕たちに男はお構いなし。
いまにも矢を放ちそうだ。
ああ、これは「猟師」が獲物にとどめを刺す時か。
こんな時に「農家」の僕がそれを知るなんて……
「させません!」
僕の手を包帯でぐるぐる巻きにし終えたコレットが立ちふさがる。
コレット?!
なにしてんだよっ!
それに、震えているじゃないか!
それでも相手は容赦がない。
「兄妹共々、冥府で仲良くな」
そう弦を引き絞る。
ダメだ、ダメだ、ダメだ!
もう目の前で、誰かが死ぬのはっ!
脳裏に浮かんだのは病床で僕を諭す父さん。
「ハル、母さんたちを頼むよ。お前は強い子だ。善き息子だ。辛くたってお前は負けない。だから、私の分まで生きてみんなを守ってくれ」
そうだ、僕たちは「生きる」んだ。
どんなに絶望的な状況だって。
誰からも見放されたって。
無様だと笑われたって。
生きていくしかないんだ。
そして、誰かを守れるように―――
アミュレットが光る。
銀の、仄明るい光。
あるイメージが浮かんだ。
あの「夜」にハティさんが僕に見せた「活人剣」。
ルーダを投げたあの動き。
―――――コレットは、僕が守るんだ!
白い狼が僕の胸の内で吠える。
月を追いかけ、食らおうとする魔狼。
僕は、今の流れを変える。
絶望的な状況も、嗤われ続ける人生も変えてやるんだ。
――――捻じ曲げろ。
誰かが言った。
それは聞いたことがある声。
ちょっとムカつくヤツの……
矢が放たれた。手は動かない。
だから、コレットに体当たりをした。
コレットは転ぶ。
そして、僕はというと―――――
青白い、月明りのような光が僕を覆っている。
それどころか螺旋を描くように巡っている。
「黒い塊」はその奔流に弄ばれているかのように揺らいでいた。
あんなに大きかったものが、小さな笹舟のように流れの中でたゆたんでいる。
「ハル……『眼』が……」
コレットの声。
でも、僕にはそれを確認する方法はない。
ゆらりと体を動かす。
ゆっくりと、でもしっかりと息を吐く。
なんだろう。
世界が止まって見える。
物質の運動が「視える」
僕は痛みを忘れてゆっくりと重心……腰を落とす。
「ふぅぅぅぅ」
深呼吸。
それから腕をゆっくりと大きく回す。
あの「夜」見た、ハティさんの動きをなぞるように。
両の手のひらに玉をつくるように動かす。
青白い光とそれに飲み込まれた矢が僕の手元に来る。
「これは……『返す』よ!」
そう言って目の前にいる黒衣の男へと手を差し向けた。
「なっ?!」
光の奔流と、矢が男へ向かう。
濁流となって「ソレ」は襲い掛かった。
◇
「ふふふ、まさか【星霜の洗滌】だけではなかったのか」
かなりボロボロ。
でも、あれを受けて立っているだけでも恐ろしい。
「オマエ、名はなんだ?」
「えっと、ハル・ロッシェと申します」
相手は頷く。
「うむ。ハルだな。憶えておこう、『我が好敵手』」
……はい?
「あの、僕はそもそも『ただの農家』なんですが」
この言葉に相手は驚愕した。
「なんだと?!これは『農家』VS『猟師』の代理戦争だったのか!」
いやいやいや、違いますよ。
なんでそんな重苦しくも互いのアイデンティティかけなきゃならないのさ。
「あはははっ」
目の前の男は大笑いした。
「なるほど、『農家』代表のハル・ロッシェ!我が敵として不足なし!」
何勝手にライバル認定してるんだ、このヤロウ!
「我が名はランドルフ。ランドルフ・エッガーだ!猟師の家系にして『生粋のハンター』」
大仰に名乗る。
確かにぃ「エッガー」って「猟師」ですよね。
でも、なんだか険のある顔立ちのこのイケメンは癇に障る。
ちょい禿かかっている兆候ありますよねぇぇぇぇ?
なにより人の手に大穴開けといて、親し気に話しかけるなよ!
コレットにもケガさせたじゃないか。
「ああ、そうですか。エッガーさんですねぇ、エッガー…エッガ…『エガちゃん』ですかぁぁ?」
僕が言ったときだった。
「おい、その呼び方には一言もの申すぞ!」
うん。こっちの嫌味が通じたみたいだ。
遠くから怒号が響く。
「うぉぉぉぉらぁぁぁっ!悪い子いねぇがぁ!いじめっ子いねぇがぁ!」
エリーゼさんだ。
「奇襲かけている奴はいねぇがぁっ!」
いや、ホント怖いよ。
それはランドルフこと「エガちゃん」もさとったようだ。
なんだか「ドッキーン☆」って効果音が出ている。
顔が真っ赤。
おい……まさか、コイツ……
「ふぁあん、えりーぜさまぁん」
おい、どこから声出してんだ?
「きょ、今日のところはぁ、これで失礼するぞ。ハル」
妙に背筋を伸ばして言う。
「再戦を楽しみにしているぞ!『農家』代表!ジャガー・ノートよ」
そう言って足早に去っていく。
おい、アンタまで僕を「ジャガー・ノート」って呼ぶなよ!
僕は「ジャガーイモ・農家」だっての!




