第49話 「活人剣」と「殺人刀」と涙の別れ……さらば、タカハシさん(五号機)
夜の広場は暗く、静かだった。
「ハル君のお母さん、すみませんが協力してくださいね」
そう言って母さんを立たせる。
ハティさんは1メートルくらいの木の棒を持って母さんを背にした。
「ルーダ、遠慮なくやっていいよ」
「わかった」
ルーダがボウガンを構える。
あれ、なんか変な形。引き金がなくて横にハンドルがついている。
それに、ボウガンの上に箱が載っている。
「じゃあ、親父、いくよ!」
ルーダがハンドルを回した。
矢が飛び出す。
……ってどんどん出てくる。連射式ボウガン?!
一発でも矢なんて防げない。
あんなもの防げるわけがないって、あ、盾の魔術を使うのか。
そう思っていたら違った。
なんと、ハティさん、棒で矢を叩き落としている。
あまりに速くてよく見えない。
魔人アガートラームって呼ばれるだけのことはある。
今度はルーダが移動をして違う方向から母さんを狙う。
けれど、ハティさんは射線の間に立って防ぎ続ける。
それだけじゃない、徐々に距離を詰めている。
近づけば近づくほど対応し辛くなるだろうってのに。
矢がきれるのを待っているんじゃないの?
そう思ったとき、ハティさんの姿が消えた。
いなくなったら母さんが撃たれるじゃないかっ!
でも矢は飛んでこなかった。
ルーダの手元が棒で抑えられて、上に向けられている。
それからくるんと棒が回転してボウガンが手から離れる。
ついでとばかりにハティさん、少し腰を落とした。
柔らかく円を描くような腕の動き。
それに合わせるようにルーダの身体も一回転した。
ふわっ―――――
地面に着く前にハティさんが引き上げたのか、脚から着地する。
それからゆっくりと座らされる。
「どう?痛くないだろ」
ハティさんが言うとルーダが呆けたように頷く。
「じゃあ、もう一回ね」
そう言ってさっきと同じように母さんを背にして立つ。
「ルーダ、いつでもいいよ」
ルーダが頷いてまた矢を放った。
けれど、二の矢、三の矢が放たれる前にバキッという音がする。
ルーダの手元にあったボウガンが真っ二つに斬られていた。
ハティさんの仕業だ。
すでにルーダの目の前にいて、棒で本体部分を斬ったんだ。
え……棒で?斬る?
それからルーダの首筋に棒の先を突きつける。
彼女は動くことすらできなかった。
けれど、ふと我に返って叫び声を上げた。
「ぎゃああああああああ!オレの『タカハシさん・五号機』があぁぁぁぁ」
「あ……」
ハティさんもしまったとばかりに口を開けている。
「親父のばかぁぁぁぁぁ」
ルーダが号泣する。
◇
「えっと、わかったかな?」
ハティさんが僕に問いかける。
何が「わかった」って?
あなたの人外っぷりですか?
ちなみにルーダはさめざめと泣いて「嫌い、嫌い」って呟いている。
ハティさんもその度に「ごめんよぉ」って泣きそうだ。
「えっとね、最初のが『活人剣』。誰も傷つけないヤツ」
ああ、確かにルーダも怪我してないし。
「で、最後のが『殺人刀』。壊したり傷つけたりするのが目的のヤツ」
ルーダが声を大きくしてまた泣き始めた。
うん、傷ついてるね。
「それでだね。ハルはどっちが良いと思う?」
「えっと、どっちも凄いけれど、最初の方がどっちかっていうと」
「そうだよね。最後のは君のお母さんを守れても誰も幸せにならない」
ハティさんも凹んでいる。
自分でしでかしたとはいえ、なんだろう、このダメ親父感。
「僕たちはどちらかっていうと『殺人刀』なんだ。でも、ハルならきっと『活人剣』を使えるようになると思ってるんだよね」
え?僕もあんなことできるようになるの?
「君は誰かを傷つけたり、血を流させたりって嫌だと思うんだ。だから、ね」
「できるんですか、僕に」
「簡単じゃないよ。とんでもなく時間がかかる。だいたい何もないところからのスタートなんだから何年もかかるだろうし」
そうだよね。
「でも、できるって僕は信じている」
ハティさんはまっすぐに僕を見て言った。
「姉上から聞いた。君がどれだけ優しくて辛抱強くてひたむきなのかを」
「それに」と呟いて僕の持つ「土寄せ棒」見た。
「いや、なんでもないよ」
そう言ってハティさんは不敵に笑った。




