表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/203

第48話 ダンジョンへの道。そして勘違いだらけの「ミッドガルズの百合事件」。



「これっちょたん、ダメよそんな顔してたらぁ、老けるわよぉ、おばさんになっちゃうわよぉ」

酔いがまわったのかリャナンがコレットに絡む。


「コレット、エリ…エルザさんとの旅は苦労するだろ?エルザさん、血の気多いからさ」

フィンレーが水を向ける。

話題がなくて混ざれないのを気にしたのかな。

この人はほんと頭が良くてよく気がつく。


「え?」


「例えば、すぐキレて相手殴り倒したりさ」

スヴェンが冗談めかして言う。


彼は口数こそ多くないけれど、要所でフォローを入れてくる。


「確か、襲われたとき、盗賊を返り討ちに……」


コレットが先日撃退したという盗賊の話をしてくれた。


話し終えるとみんな、足踏みをする。

ドンドンドンドンというリズム。


『乾杯っ!』


声がそろう。


「やかましいわ」

エルザさんが辟易したように言う。


「武勇に乾杯!」

「なんでソイツら手を出したんだろうね」

「というか、相手に追悼の意を」

「ケンカ売っちゃだめでしょ」

「やばいでしょ、リムも秒で死ぬわ」


本当に騒がしい。でも、嫌な感じはしないんだ。

だってこの人たちは誰も悪く言わないんだもの。


〈きゃはははははは!〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんもご機嫌。

お酒飲んでいないはずなのに、声を上げて笑っていた。


……なんか、いいな。

いつも彼女といっしょだけれど、ここまで大声を上げて笑うのって見たことない。

こうやって楽しそうにしてくれているのを見られる。

それって幸せなことなんじゃないかな。



「コレット……」

酔眼のリムアンがコレットに話しかける。


「乾杯」

カップを合わせる。


「あ……」

コレットも応じて合わせる。


「つまらない?」

「いえ」


「くだらなくても、騒いで。今日までの自分を笑い飛ばしたらいいよ」


結構酔っているのか、顔が赤い。

年下だと思っていたリムが僕より年上って知ったときはびっくりした。


「リムたちはバカだから。バカなことばっかりしてきたから。だから、バカなリムは他の人のことのことをバカにしない」


そう言って、ちょっと間を置いて言う。


「話したいことあったら聞かせて。リムたちはバカにしないから。だって……」

言いかけた時、スヴェンが笑ってリムアンの頭を撫でた。


「こらっ!ちょっと真面目に話してんの!」

「らしくないぞっ!お姉ちゃんぶるなよぉ」

「実際、年上のおねえちゃんなんだから」

「ちがいないっ、悪い!」


全員が笑う。


「ごめぇぇんねぇぇぇ、お姉ちゃんらしくなくてぇぇぇ」


さっきまで笑っていたリャナンが泣いている。

いや、情緒!?どうしたの、リャナンさん。


「おまえらなぁ」

「ごめぇん」

皆で謝るが笑いが止まらない。

バカにしているわけではない。悪意がないのだ。


僕も声を上げて笑った。


「好きな人がいたらさ、その人に恥ずかしくない自分でいたいよね。だから、コレットは十分がんばっているけど、これからも一緒にがんばろう」

言うとリムアンが離れる。


「リムっいいぞっ」ってみんなではやし立てる。


リムアンはなぜかエルザさんのところに突っ込んで行った。

「おねぇちゃん」とか言いながら絡むのにエルザさんがイラッとした表情で追い払う。


照れ隠しにワザとやっているのは明らかだ。


しばらくは酔いに任せた騒ぎが続いた。




料理が尽きたあたりで、不意にフィンレーがジョッキを飲み干して静かに置く。

同時に他のメンバーも飲み終えたのか、めいめいが盃を置いた。

酔っているのは変わらない。


それなのに、コレットはその雰囲気が一変したのに気づいた。


(なに、この人たち)


陽気で騒がしい、なのにオンとオフの切り替えが異常に早い。

その内面には変な冷徹さがある。


ハルだけはぽけーっとしている。ある意味大物なのかと思った。


「ねえねえ、エルザさん。エルザさんたちは、明日からって予定あるんですか」

リャナンが尋ねる。

その本心を、コレットは「視ている」。

けして悪意はない。


「ないけれど?」

「じゃあ、私たちとクエストに行きませんか?」


言葉にエルザが顔をしかめる。


「私、ダンジョンにはいい思い出がなんだけれど」

「ええ~、行きましょうよぉ」

リャナンが駄々をこねる真似をする。


「小遣い稼ぎだと思って、どうですか」


フィンレーの言葉に、エルザが片眉を上げる。

隣に座っているフィンレーの額を指で弾く。


「イテッ」

「アンタたち、弟の悪いところばっかり見習って」

エルザは苦笑いする。


「せっかくだからその話に乗らせてもらうわ」


彼女の言葉に、ちいさく安堵のため息を漏らす。

施しを受けることを良しとしないだろうことはわかっている。


(ほんと、この人たちってなんで普通にできないのかしら)


緊迫した雰囲気の中で、コレットは息をつく。

コレットにしては「意地の張り合い」としか思えない。

「視えている」からこその思いだ。


エリーゼの身の上を知っている魔狼騎士団だからこそ、先立つものを与えるためにこんな遠回しな誘いをしたのだ。


「どんなクエストがいいですか」

「何でもいいわよ。虫が出なければ」

「あ、ああそうでしたね」

「せっかくなら、でかくて固い奴を討伐したいわ」

「あ、リーゼントーター(巨人殺し)の武勇伝!」

「聞きたい、聞きたいです」


フェンリルナイトのメンバーが身を乗り出し、ねだり始める。

ハルも「なに、何それ!」って乗り気だ。


「え、嫌よ。そのせいで弟があなた達を引き取ることになったんだから」

「だからですよ。それに、エルザさん自身から話を聞けるなんてめったにないですから」

「声が大きい」


大騒ぎする一団に、周りの目が向く。


「お願いできませんか?」

アルセイスが言う。


「……宿でなら話してあげてもいいわ」

その様を他のメンバーは笑っていた。


「エルザさん、昔っからアルセイスだけには甘いんだから」




そのまま連れ立って宿へと移動する。


ちなみに勘定はエルザがもった。

これはエルザが頑として譲らなかった。


みんなで雑談をしながら歩く。

ほてった体に夜風が気持ちいい。


ふとコレットは嫌な視線を感じる。

だが、そちらを見る間もなくリムアンが話しかけてくる。


「コレットはごはん何が好き?」

「えっと好き嫌いないですけど、エルザ先生のシチューが一番です」


「作ってくれるの?」

「時々作ってくれます」


「リムも食べてみたい」

そういえばリャナンがいない。


「気にしなくていいよ」

リムアンが言う。


コレットと背丈がおなじくらい。


表情はあまり読めないけれど、緑色の瞳が優しそうに見える。


宿に着くときにリャナンもいつの間にか混ざっていた。


鉄錆たような、それでいて生臭い臭いが彼女からわずかに漂っていた。




場所は変わり、「首都ミッドガルズ」。


日の光が差す廊下。


所々が煤け、争いの跡が残る王城の石廊を一人の女性が歩いている。


今や「首都議事堂」と名を変えた王城の一角。

王政華やかなりし頃の居住スペース。


廊下を足早に歩く女性がいる。


金の髪を高い位置でまとめ、エメラルドを思わせる瞳。

名を、ティア・シュトゥーテ・フラインといった。


軍服を爽やかに着こなし、腰にエストックを提げた男装の麗人。

背が高く、均整の取れた体つき。

その外見から多くの「女性」を魅了した。


元は王家において軽騎兵団を率いた将軍。

戦場では後方支援から兵站の確保、果ては先鋒隊まで務めた。


彼女の活躍の場は戦場にとどまらず、民政でも辣腕を発揮した。

先の革命が成り、王が不在となった今、彼女は要職に就くことなく飼い殺しのような扱いを受けている。


前王の高官でありながら処断の対象とならなかったのは、彼女の「才能」によるものであった。


彼女の進む先に「女性」が立っている。

白銀の髪、アイスブルーの瞳。

腰には茨の装飾をあしらったロングソード。


ティアは無言でその脇を通り抜けようとする。


「ちょっと、待ちなさい」


白銀の髪の女性が呼び止める。


「なんだ?イグリース」


ティアは不快感丸出しの顔で尋ねた。


「無視とは酷いじゃないですか」


イグリースが言う。


「ならば、声をかけたらいいだろう。『グス』が」


「なんです?その『グス』って」


「聞く前に考える努力をしたらどうだ?」


「そうですね。『愚図』とは違うようですから……」


そう言ってイグリースは自分の頤に人差し指をあて、小首をかしげる。


「ああ、『グッドモーニング!ステキなレディ』というあなたなりの挨拶ですね」


「なんで『陰キャ・ストーカー女』にそんな挨拶をせにゃならんのだ」


「あなたが、考えろって言ったんですよ?」


イグリースの言葉にティアはため息を吐く。


「それに、私は『陰キャ』じゃないですよ。先ほどの解釈も『ポジティブシンキング』でしょ?ストーカーなのは認めますが」


「陽キャは自分で『ポジティブ』とか言わない。それに、ストーカーの自覚あるんだな」


「ええ、唯一無二の私の『アイデンティティ』ですもの」


この不毛なやりとりにティアは再びため息をついた。


「それはそれは、ようございましたね」


そう言ってティアは「それでは、これで」と立ち去ろうとする。


「ですから、お待ちなさい」


イグリースが呼び止める。


「なんだ?」


「その手にしている『箱』の中身は何ですか」


「何だっていいだろう?アンジェへの差し入れだ」


その言葉に、イグリースが「ニタァ」と笑う。


「それでは、私が『検査』しないといけませんね」


「なぜだ」


「あら?立場がお分かりではない?」


この言葉にティアは舌打ちをした。


軟禁状態の「アンジェ」。降将として飼い殺しの「ティア」。

これに対して、共和政府の中枢にいる「イグリース」。


事を荒立てるわけにはいかない。


「ほら」


ティアは箱を渡した。


イグリースは箱を空ける。


「あら?」


中身はクッキーの「缶」だった。


「開けますよ」


「どうぞ」


イグリースが缶の蓋を取ると、色とりどりのジャムが乗ったいかにも甘そうな「クッキー」。


「美味しそうですね」


イグリースは微笑みながら摘もうとする。


「食うなよ」


ティアが止めた。


「あら?いけませんか」


「当然だろう?『アンジェ』への差し入れと言っただろうが」


その言葉に、イグリースは手を止めた。


「誰かの手がついたものを持って行ってへそを曲げられてみろ。今は大人しく捕まっている奴が、キレ散らかしてここら一帯焦土にでもしたらどうするつもりだ」


「……」


イグリースは「やれやれ」といった様子で肩をすくめる。


実際「最悪の魔女」アンジェ・フラン・スカーレットはそういったことを朝飯前にやってのける。


「それでは、どうぞ。お友達に差し入れてください」


イグリースは缶に蓋をすると、ティアへ箱ごと返した。


「それでは、これで失礼する」


ティアはイグリースに背を向ける。


「ふふふっ、箱の中身。すでに『腐って』いるんですね」

イグリースが忍び笑いを漏らす。


その言葉をティアは鼻で笑った。


「わかっていて茶番を演じるとはな。女狐め」


「お馬さんに言われたくないですねぇ」


ティアの捨て台詞にどこ吹く風のイグリース。





「……ふぅ」

ティアは深くため息をつき、扉をノックする。


返事などない。


だが、扉の奥に閉じ込められている者にとってはこの部屋の前に立っただけで存在は知れていよう。


一度だけ使える魔術の施された鍵を使い、扉を開錠する。


開け放たれた奥には貴賓室のような瀟洒な部屋が用意されていた。


「やあ、どうも。相変わらずいい景気ね」


部屋に踏み込むと同時に明るい口調ながらも刺を含んだ挨拶がかけられる。


窓辺に一人の少女がいる。


声の主でもある彼女は、手元にある分厚い書籍からルビー色の瞳をティアへと向けていた。

ティアと目が合うと、機嫌良さげに長い耳を動かして見せた。


長い耳が象徴する亜人種、エルフである。


「そちらも、ご機嫌麗しいようで何より」


「そう見える?」


「ええ」


それから、ティアは箱を軽く上げて見せ、ソファに腰かけた。


「あら、差し入れ?」


そう言って少女―――アンジェは窓際の椅子からぴょこんと降りる。


トコトコ可愛らしげに歩き、ティアの対面に腰かけた。


「新作を持ってきた」


ティアの言葉に、アンジェが「フフフ」と笑う。


「アンタも好きねぇ」


「いやいや、アンジェもなかなか」


互いにニヤリと笑う。


それから、クッキーの缶を箱から取り出す。


だが、目当てはそれではなかった。


箱の底をひっかくようにして、薄い底板を剥がす。


中には―――――――


白銀の髪をした青年が表紙の「薄い本」。


「イグリースの奴め、気づいていながらスルーしやがった」


「後で『回し読み』させろって言ってくるわね」


「フン、まあ、コアなファンでもあるからな。やぶさかではない」


ティアが呟く。


そう、ティアの属性は「腐」である。しかも、重度の。


「まさか、アンタ自身が『書く』ようになるとは思わなかったわ」


「この道に引きずり込んだのは、お前だ。アンジェ」


くっくっくっと二人して笑う。


『お主もワルよのぉ』


互いに目を見て笑う。


ティア・シュトゥーテ・フライン。


旧王家における最速の智将。

背が高く麗しい軍服姿の彼女は、女性たち(特に一部の熱狂的な層)から絶大な人気を誇っていた。


黎民の騎士とも呼ばれる彼女。


そのもう一つの顔は重度のBL「薄い本」作家であった。


そして、彼女が処刑されなかった最大の理由はコレだった。


政府がティアの処刑案を出した時、大陸中で暴動が頻発した。

現・政府が「王家打倒」を掲げた時の比ではない未曽有の大混乱。


彼女を「創造神」と崇める領内の貴「腐」人たちが激怒。

「政府関係者の身内」もそこに含まれていた。


「続編を読むまでは死ねない!いや、死なせるな!」

「我らから『聖典』(とその作者様)を奪うな!」


その怒れる女性が列を連ね、大陸を縦断し、「議事堂」を取り囲んだのだ。


「麗しき男装の女騎士・ティア」それを多くの「女性」が救うために起こした歴史的事件。


「ペンは剣よりも強し」


政変すら起こしかねないこの未曽有の大事件。

これを目にした歴史家たちは、後にこう語り、歴史書へと記した。


「ミッドガルズの百合事件」と。


(※すみません。嘘です)


(※「BL本」を守る逸史として語られました)



ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日も1日頑張っている皆さん「ヴィクトリー!」


大切なものを守るって、大事ですね。

皆さんも日々、守るために頑張っていると思います。


明日もきっと、ヴィクトリー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ