第28話 コレット様ご一行、「神隠し」の村に立ち寄る 【コレット・ルート】
私たちは「ケトゥスの街」を一望できる丘まで来た。
この街はいかにも港町という感じ。
船着き場もあって、交易船とかも停泊している。
大きな街で商業で発展しているのだから、そこで一泊するのかと思っていた。
けれど、ハティさんが「その前の村で一泊」って言った意味がここにきて分かった。
なに、あれ……
街全体を黒い靄みたいなのが覆っている。
ハティさんの右腕みたいに暗くて、怖い。
特に中心部の建物が色が濃い。
「なるほど。さすがは私の弟ハティ。わかっているじゃありませんか」
お姉ちゃんが言う。
「ええ、愚弟は姉上の『前菜』となるものをようやく見つけました」
ハティさんが自慢げに鼻を鳴らす。
「あの軍船みたいなのは?」
「ああ、どこぞの村に駐留していた小隊が引き上げてきたようですね」
「またあの趣味の悪い実験?」
「そうです。ですから、姉上も『スッキリ』できるでしょう?」
ふたりで顔を見合わせて不敵に笑う。
◇
近くの村で一泊。
村に入るなり、ひどく寂れていることに私は驚いた。
だって、あんな大きな街が近くにあるんだから行商人だって立ち寄るはずだもの。
「おまえさんたち」
声をかけられる。
ハティさん、さりげなくフードを被る。
振り返ると年老いた男性が立っていた。
「早く別な村に行った方がいい」
周囲を気にするようにして忠告してきた。
「どうしてです?」
お姉ちゃんが尋ねる。
「ここ数日、『神隠し』に遭う子供が増えている。その子が神隠しに合う前に……」
「それは共和政府と関係があるの?」
お姉ちゃんがズバリと聞いた。
老人は驚いた。
「なんで、それを」
怯えだす。
「さぁて、なんで知っているのでしょうねぇ」
お姉ちゃんがとぼける。
その老人はお姉ちゃんの顔をまじまじと見つめた。
「っ!?あなたは、もしや」
お姉ちゃんがにやりと笑う。
◇
「まさか、十字の騎士、エリーゼ様にお会いできるとは」
おじいさんが言う。
「私の息子も兵士でした。あの戦の中、あなたに命を救われたのです」
そう言って涙をこらえる。
「その息子さんは?」
「今は街で働いています」
「そうですかそうですか、それは何よりです」
得意げなお姉ちゃん。
「慈悲深き高潔な騎士。戦場にありながら多くの兵士を癒し、命を救ったまさに『十字の騎士』の名にふさわしい御方……」
そう、「お姉ちゃん」エリーゼ様は最高位の聖騎士に与えられる称号「十字の騎士」だ。
それはこれまでの戦果だけではなく、戦場にあって「命を救う」ことを優先してきたから。
「私はあなたが『騎士の恥』と貶められることに納得がいきません」
おじいさんが肩を震わせる。
お姉ちゃんは困ったというように頬を掻いた。
「王を土壇場で見捨てて逃走したなどとっ、誰がそのような嘘を」
おじいさんの憤りは本物だ。
私の眼にはそれが「視えて」いる。
そしてその言葉にお姉ちゃんの胸に深い「後悔」が視えた。
「嘘ではありません」
自嘲するように笑ってお姉ちゃんが言う。
「そんなっ」
おじいさんが愕然とした。
「なぜ……」
「それは、私が姉上を連れ出したからです」
ハティさんがフードを下ろして口を開いた。
「あ、ああ…ああアガートラーム……」
おじいさんは驚きと恐怖の混じった声を上げた。
「私があの暗愚な王を見限り、姉上を拘束してまで連れ出した。姉上は抵抗したが我が力の前に抗いきれなかった」
どす黒い靄を纏ったハティさんの言葉。
私の眼でも嘘を言っていないことがわかる。
「追放された恨みですか?」
「そうとってもらって構わない」
おじいさんの言葉に頷くハティさん。
でも、これは嘘だ。
だって、ハティさんの心の声は後悔と自責の念で押しつぶされそう。
パンッと手を打ち合わせる音が響く。
お姉ちゃんだ。
「そんなことは、今は良いんです。優先すべき問題は『神隠し』事件です」
◇
「ぬ、ぬぅわんてことだぁ」
ハティさんが呻いている。
「国の至宝、蕾たちがぁぁぁ」
安定の変態魔人さん。
おじいさんの話によれば、政府の人たちが子供をさらっているというのだ。
そして、子供たちはまだ誰も帰ってきていない。
失踪者の捜索をみんなが願い出ているが、犯人である政府自体が協力するわけがない。
「あああ、花咲く前に踏みにじられるだなんてっ、許せない」
真面目な話に割って入ってこないで……
「どこに囚われているかわからないのですか?」
「はい、見当も」
おじいさんの絶望したような顔。
「ハティは見つけられないのですか?」
お姉ちゃんの言葉に、ハティさんが真顔に戻って言う。
「時間をかければ探せますが、それまでに蕾たちの安全は保証できません」
変わり身早くない?
そして、こういう時の顔は超絶イケメン。
「アーティファクトは?」
「ダメですね。僕のは『追尾型の破壊』しかできませんから」
え?なにそのえげつないもの。
「そうですか、仮にアーティファクトで炙り出そうにも、子供たちまで危険に曝すわけにもいかないでしょうし」
その言葉に私はある決心をした。
いつまでも甘やかされてばかりの「役立たず」でいたくない。
きっと、お姉ちゃんとお兄ちゃんは他の人たちとは違う。
私は、この二人を信じている。
「あの、お二人に話があります―――」




