第27話 ハルの「勇気」
「話には聞いていたけれど、あのデカネズミ……しかもあんなにたくさん」
丘の上から見えた様子に僕は絶句した。
だいぶ前に退治されたデカネズミがうようよしている。
「ウチの子たち(家畜)はみんな食べられた」
ハンナが悔しそうに言う。
「村のみんなは?」
「政府の軍が駐留している建物に匿ってもらっている」
「そう……なんだ」
僕は少しほっとした。
正直バカにされ続けてきたから村の人たちに対してあまり同情していない。
でも、やっぱり引っかかるところがあって、ハンナの助けを無視することはできなかった。
ハンナだってポルコの嘘から僕を庇ってくれた訳だし。
「真っ先に狙われそうな奴も無事なんだね」
「うん。あいつはピンピンしてるどころか」
ハンナが嫌そうな顔をした。
「政府軍に取り入ってる。アイツ、口が上手いでしょ」
「うん」
「だから政府の兵士たちともうまくやっていて、今じゃ自分も政府軍みたいな顔してるの」
それから、忌々し気にハンナが言う。
「自分は『マスター』だって」
それから吐き捨てるように呟く。
「何よ、主人ってバッカじゃないの?」って。
「結界は直してもらえないの?」
「できる人がいないみたい」
「そうなんだ……でもさ、なんで今になってあのネズミが襲ってきたの?退治された夜からずっと出てこなかったじゃない」
僕が疑問を口にすると、ハンナがぎゅっと拳を握った。
「わからない。ハルがいなくなった次の日には村に入ってくるようになった」
え?僕が原因って思われている?
「私はハルがいなくなったから、あのネズミが来るようになったって思っている」
「え?」
「あの晩、ハルがネズミをやっつけたでしょ?ネズミはハルが怖かったんだと思うの」
いやいや、そんなことあるわけないじゃないか。
「けれど、ハルがいなくなったから」
ハンナは続けて言う。
「でも、ポルコのヤツ、ハルに責任を擦り付けてる。ハルが腹いせに魔物を引き入れたんだって吹聴してる」
ああ……
「なんか、おかしいな」
親指を唇にあてていたフィンレーが呟く。
「だってよ」
・村の結界は「外の人間」は正規ルートの「門」を通らないといけない。
・結界自体強力だが、基礎となる石「結界石」が一定距離抜けたところだけ、弱くなる。
・結界石を動かせるのは「村に伝わる方法を知るもの」だけ。
・干渉できるのは「方法」と「魔力」を併せ持つ者。
フィンレーはそう言った。
「俺たちは正規ルートの門を通ったからな」
「それ以外では、めっちゃ弾かれたね」
そうそう、と皆で同意する。
「強い、精霊の力を借りていた」
リムアンが言う。
「土精霊だと思う」
「たぶん、昔、誰かがお願いして、精霊も応じた」
僕は驚いた。
あのリムアンがこんなに「精霊」について知ってるなんて。
僕はじっとリムアンを見る。
「ねぇ、あの豚野郎、まだ懲りてないの?」
リャナンが怖い顔で割って入ってくる。
「豚野郎、ポルコね」
ハンナが言う。
「そう、豚野郎。リム、アイツ嫌い」
リムアンまで参加してくる。
そしてさりげなく僕とハンナの間に収まる。
「そうか、あの豚野郎、まだ生きてたのか。魔物に食われちまえばよかったのによ」
フィンも舌打ちする。
「魔物だって食べる物を選ぶ権利くらいあるんじゃない?」
アルセイスが鼻で笑う。
「腹壊しそうだから止めたとか?」
スヴェンまで。
そして一同が「ケッ」と毒づく。
みんなエルザさんを侮辱された恨みがまだ残っているらしい。
何とも言えない険悪な雰囲気に、僕はみんなに提案した。
「ま、まずは村を救うことが大事だよ。とにかくさ、一度腰を落ち着けて作戦を練ろうよ」
僕の言葉にみんなが仕方ないという顔をして従ってくれる。
「僕の家に行こう!まだあるはずだからさ、何もないけれど屋根のある所で休むのもいいよね」
そう言って走り出した。
「ダメっ、ハルっ」
ハンナが叫んだけれど、それを無視して急ぐ。
本当は夜逃げした時に持っていけなかったものあったから、ちょっと取っていきたかったんだ……
◇
「なに、これ……」
我が家の変わり果てた姿を見て、ハルは絶句した。
荒らされ、家財道具がひっくり返った室内。
それだけではない、汚物が撒かれている。
遅れて来たフェンリルナイトたちも固まった。
「誰がやった?」
フィンが震える声でハンナに聞いた。
「政府軍が、エルザさんに関係するものがないかって」
「ソイツらだけじゃないだろ!」
掴みかからんばかりの勢いでフィンが問いただした。
「ひぃっ」
あまりの剣幕にハンナが悲鳴を上げる。
「フィンっ!ハンナを怒鳴らないで」
ハルがハンナを庇う。
「……ごめん、けど」
フィンレーはうなだれながらも続ける。拳を固く握って我慢している。
「……ポルコたちが」
ハンナが震える声で言う。
リャナンとリムアンが踵を返して立ち去ろうとする。
「っ!?何を――――」
ハンナが言いかけたのを二人が見る。
殺意に満ちたその視線にあてられてハンナが腰を抜かした。
ふたりに続くように無言でスヴェンもアルセイスも出ていく。
「待ってっ、みんな待ってくれよ!」
ハルが慌てて飛び出して行く手を塞ぐ。
「僕は大丈夫だから、みんな、冷静に―――」
「なってられるかよっ!」
普段声を荒げることのないスヴェンが吠えた。
「ハルがやらなくても、僕はやるよ。あの野郎に許しを与える必要はない」
アルセイスが静かな声で言う。
「フィンも、なんとか言って」
ハルがフィンに声をかける。
だが、フィンは目を血走らせて荒い呼吸を繰り返していた。
「ゆる、ゆるせねぇ……」
今にも爆発しそうな様子だった。
◇
「オマエら、先に行ってろっとは言ったけれどよ、探したぜ――って、なんじゃこりゃぁ!?」
ガレットの驚く声。
「ガレットさん、みんなを止めてください」
ハルが必死に叫ぶ。
「あん?一体何があったんだ」
「みんなでポルコを殺すって」
「ポルコ?なんだソイツは?理由はなんだ?」
事情が飲み込めないでいるガレットが首をかしげる。
「僕の家をこんな風にした奴なんです」
ハルの言葉に、ガレットが絶句する。
「それなのに、お前はコイツらを止めるのか」
「そうですよっ」
ハルの必死な言葉にガレットは「ハッ」と短く笑って天を仰いだ。
それからゆっくりと剣を抜き、地に突き立てた。
「ハルの『勇気』を無駄にするんじゃねぇ」
静かに、それでいて逆らえないような威風。
空気がビリついた。
圧倒的な強者の闘気が、頭に血が上っているフィンレーたちを気圧す。
それを機として見たガレットが続ける。
「今、お前らが暴発したらハルの気持ちを無下にすることになるぞ」
「でもっ」
なおも食い下がろうとするフェンリルナイトをガレットが一喝した。
「うるせぇっ!一番の被害者がやめろっつってんだ!俺らが我慢しなくてどうすんだよ!」
それから続けて言った。
「もう一度言うぞっお前らハルの『勇気』を無駄にするんじゃねぇよっ!」
ガレットの怒声にフェンリルナイトたちは項垂れた。
あまりの悔しさからか、嗚咽する声が漏れる。
「ハル、お前は凄い奴だな。今日までどれだけ『勝ち続けてきた』んだ?」
ガレットが呟く。
「汚ねぇ奴らに負けない、いや、ものともしなかった。最高に『ヴィクトリー』な奴だぜ」
ジャガイモ仲間へ
今日も1日お疲れ様でした。
まずは今日の自分に「ヴィクトリー!」
明日もきっと「ヴィクトリー!」




