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第1話 「アンジェさん」に起こしてもらう至福の朝。女の子?ええ、彼女は【土寄せ棒】ですが、何か?

前書き


君たちを笑った奴らの方が滑稽だ。


誰かを貶める姿は、自らの弱さを露呈しているに過ぎないのだから。


馴れ合いだけの仲間など求めるな。

土にまみれた「ジャガイモ」たちよ。


今はただ、暗闇の中で静かに力を蓄えろ。


芽吹くとき、その身に宿すのは「毒」。


懸命に泥をすすった君たちの「毒」は――

いつの日か、世界を蹂躙する【不可抗力の破壊ジャガーノート】へと変わる。



【登場人物紹介】


■ハル・ロッシェ(主人公)

農業に従事する少年。魔力持ちが当たり前の世界で、魔力を一切持たず「無能」と蔑まれる。特技は芋堀りと芋料理。代々伝わる「土寄せ棒」を大切にしている。


■アンジェ【土寄せ棒】(ヒロイン)

土寄せ棒(鍬)。本体は柄の部分。意思を持ち、話すことができる。ただし、その声を聞くことができるのは、「ロッシェ一族」と彼女の産みの親。そして、「心を読める者」のみ。その彼女にはある秘密が...



■コレット・オルレア(サブ主人公)

王家の血を引く少女。大人たちの裏切りによって孤児院に入れられてしまう。他人の本音がイメージとして「視える」ことで気味が悪いと忌まれてきた。だが、それこそが王家のみが使える「真実を見抜く瞳」だった。





〈……ねぇ、起きて〉


囁きが聞こえる。


〈起きてってば……〉


鈴が鳴るような、という表現ができる可愛らしい声。


〈寝坊だよ……んもう、起きてってば〉


僕はベッドの上で身をよじる。


もうちょっと、寝ていたい。


この声を聞いていたい。


僕「ハル・ロッシェ」はそう思ってしまう。


〈外は晴れているよ〉


そうか、晴れてるんだ……


〈ちょっとぉ……〉


呆れたような声。


〈これなら、どう?〉


―――――ちょん


僕の頬をつつく冷たい感触。


「ぅぅ……」


僕はうめいた。


〈ぷくくくぅ~〉


彼女の忍び笑いが聞こえる。


〈それじゃあ、これならどうかなぁ〉


――――ぴと


冷たくも滑らかな肌触り。


それが僕の頬に触れる。


「ふぅわっ!?」


青少年にこれは「危険」だ。


僕はあまりに刺激的な感触に目を開けた。



〈おはよう、『ロッシェ』。もう、寝坊だぞお〉


笑いをかみ殺したような声。


本当にかわいらしい声。


まだ夜明け前の暗い部屋。


僕は同じベッドで寝ている「彼女」へ視線を移した。



「アンジェさん……」


僕の頬に触れている「彼女」。


まごうこと無き「スレンダーボディ」。


そして、白く滑らかな「肌」。


それは――――――



―――――【土寄せ棒】



〈なぁに~、そんなにじっと見つめちゃってぇ〉


彼女は代々我が家に伝わる【土寄せ棒】だ。


生まれた時からいっしょだ。


幼馴染の「お姉ちゃん」的な存在。


はじめは「棒さん」と呼んでいたけれど、呼びづらいので名前を聞いた。


そうしたら彼女は「じゃあ、『アンジェ』で」と答えた。


それから僕は「アンジェ」と呼ぶようになった。



〈それよりも、ロッシェぇ、早く畑に行きましょう〉





「はぁ……」



僕は腰をトントン叩きながら空を仰ぐ。


日は高く昇っている。


日の出前から働いているのだから、とてつもなく疲れた。


〈ロッシェ、ふぁいてぃ~ん〉


アンジェさんが励ましてくれる。


今のアンジェさんは「平鍬」モード。


といっても、棒の先端部分に金属の「金先」を取り付けただけ。


金先部分は取り換え可能。

だから、シーンに合わせた「コーディネート」ができる。


「やっば、コレ、かわいくな~い?」とかアンジェさんはノリノリ。


「素敵な『帽子』でサクサクはかどるね」と言っていた。


あ、そっちが「頭」なんですね。


と、なると僕は彼女の足を持って「頭部」で土を掘っているわけだ。



今は、種芋を植えるための「畝」づくり。


慣れた作業とはいえ、これが結構腰に来る。


最初の頃は尻が割れそうな痛みが出た。


「尻が『割れる』ってもう割れてるじゃない!」


アンジェさんはそう言って笑っていた。


だから、「さらに横にも割れて四分割されそうなんだよ」と言った。


アンジェさんは爆笑して転げまわっていた。


そんなやりとりが、とても楽しくて、僕の癒しだ。



〈ロッシェ、日も高くなってきたから、ちょっと休んだら?〉


アンジェさんは優しい。


「うん。ありがとう、そっちの端までやったら休憩するね」


僕はそっと「アンジェさん」についた土を払う。


〈ふふっ、ロッシェったら……〉


アンジェさんのくすぐったそうな声。


うん、癒されるなぁ。


僕も思わず笑みがこぼれる。




「あ、アイツ。また【土寄せ棒】見て笑ってるぜ……」


「ああ、なんかブツブツ独り言ってるしな」


「ヤベェな」


離れた場所で「休憩」しているポルコたちが囁き合っている。


「『呪われ』の家系だからな」


「ああ、『呪われ』だからな」


「アイツのところの男はみんな『世界』に嫌われてるからな。魔女の呪いって話もあるぜ」



『気っ持ち悪ぅ』



ポルコたちは声を揃えて言った。




「アイツ、魔術使えないんだろ?」


「魔力なしだって」


遠くで談笑するポルコたち。


そう、僕はこの国でも珍しい「魔力なし」だ。

大人子ども男女関係なく、その辺の草でも動物でも魔力を持っているらしい。


『ケヒヒヒヒ、キッショ~』


しっかし、アイツら「休憩」って言ってからどれだけ経っているんだよ。


しかも話の内容は僕をバカにするもの。


「俺たちでも『生活魔術』くらいは使えるぜ。なぁ?」


〈……フン、「肥し」ごときが〉


アンジェさんのドスの利いた声。


ポルコたちがワザとらしく指先から火を灯して見せる。


爪の先ほどの火種。


あれ?アンジェさん、なんか「光」ってない?


火は2、3回ほど跳ねるように点いた。


―――――プスン


けれど、すぐに消えてしまう。


「なんだぁ?」


「調子悪いなぁ」


〈ハンっ、ダッサっ。こんなん鼻息で充分。ザコッパチがイキがってんじゃないわよ〉


アンジェさんの声はアイツらに聞こえない。


そして、アイツらはその失敗を僕に転嫁し始める。


「アイツがいるからだろ」


「なんでそんな奴がこの農園にいるんだよ。領主に納めるワインだって作ってるんだぜ」


「だから芋堀りしかさせてないんだよ」


「わかるぅ」


「親父がほら、もと王国騎士団の団員だったから農園主も気を遣ったんだよ」


「なんつったけ?銀の……『腰鎧フォールズ』?」


「親父も使えない奴だったてウチの父ちゃん言っていたぜ」


「じゃあ、腰鎧じゃなくて腰巾着やってたんじゃねぇか」


「それな~」


くそっ、頭にきた。


僕のことはいい、でも父さんのことは許せない。

そう思って「アンジェさん」を手にアイツらのところに行こうとした。


〈ロッシェ!〉


アンジェさんの声。


静かだけれど、無視できない厳しさがある。


〈家族を侮辱されて「怒る」のはいい。けれど……〉


アンジェさんが続けて言う。


〈10数えて。そして、「大切な人」の名前を言って〉


僕は、その言葉に立ち止まった。


〈それでも治まらなかったら、「怒れ」ばいい〉


僕は深呼吸して10数えた。


(……8、9、10。……母さん。エナ。アンジェさん……)


そして、改めてアンジェさんを見る。


〈どう?〉


「ありがとう、アンジェさん」


〈どういたしまして〉


「お昼だよ~」


遠くからハンナの声がする。


見ると、ハンナと一緒に妹のエナもいる。


そうだ。ここで暴力沙汰にでもなったら、「大切な人」に迷惑をかける。





僕たちが住むバクス村は、元々は王国領の端、オルレア辺境伯の領地だった。

一年前に反乱が起きて今は「共和国」になった。

だいぶ前に伯爵さまは亡くなっている。

政府の人が来るようになったけれど、僕らにとっての生活は変わり映えしなかった。


辺境って言われるくらいだから交通の便はあまりよくない。

騎士団も憲兵もろくに来ないんじゃ魔物が出た時に対処なんかできっこない。

いつも魔物に怯えながらも細々と畑を耕して僕らは生活をしている。


この辺は農業と畜産が主な産業。

ブドウ栽培に適した気候だから昔からワイン造りが盛んで王家にも献上していた。


僕は農園に雇われていてお手伝いをしている。


「……ただいまぁ」


日が落ちるころに帰宅。


「お帰り」


母さんが迎えてくれる。


なんだか少し、ホッとした。


「ハル、疲れたでしょ、すぐにご飯にするから」


そう言ってくれる。


「ありがとう、もうお腹が減って倒れそう~」


僕は椅子に座り、そのままダラ~っと体をテーブルにうつぶせた。


あらためまして。

僕の名前は「ハル」という。ハル・ロッシェ。


母さんと妹がいる。

父さんは病気で5年前に死んだ。

妹はまだ小さいので働けないから、僕が農園で働いて収入を得ている。

母さんも農家さんの手伝いをしているので疲れているはずだ。

それなのにこうやって僕たちのご飯を作ってくれる。

だから、辛くても頑張らなきゃいけないって思うんだ。


でも、その気持ちと裏腹に日中の嫌なことはいつまでも、もやもやと残っている。


アンジェさんがいてくれるから、何とかなっていたけれどさ。


なんでこうも目の敵にされるんだろ。

がんばっているのに。

ちゃんとやっている……はずなんだけれどな。


「お兄ちゃん、お疲れさま」

妹のエナがぽんぽんと頭を撫でてくれる。


「ありがと~」

僕は妹に労らってもらう。

なんとか今日の嫌なことを忘れられそうだ。


「ほらっ、そんなところで伸びてないで、手を洗っておいで」

母さんの言葉にのろのろと体を起こして洗い場まで行く。


〈ロッシェっ、ご飯っご飯っ~〉


アンジェさんが嬉しそうに言う。


【土寄せ棒】のアンジェさんは「ご飯」食べないよね?




「くそ、くそくそくそっ」

ポルコが毒づきながら木の幹を蹴りつける。


(あの女が邪魔しなきゃ、ハルがぶちキレてたんだよ)


(「昼飯」?あんなのに食わせる飯なんてないんだよ!)


(いいときに邪魔をしやがって)


何を言っても反応しないハル。

しかし、家族のことになると目の色を変える。

だからわざと聞こえるように話して、ハルが向かってくるように仕向けた。


顔を真っ赤にして怒る表情は、ポルコの嗜虐心をそそる。


そうしてみんなの前で「勝手にキレたヤツ」と徹底的に吊し上げる。

皆に糾弾されてしょげかえるハルを見られると思ったのに。


(人気者のポルコさんにアイツは興味がなさすぎるんだ。偉そうにっ!)


林の木に八つ当たりを続ける。

すぐに息が上がった。


(くそ面白くない。何か面白いもんでもないか……)

周囲を見渡す。


この林は森と村との境目にある緩衝地帯だ。


少し歩けば魔物除けの結界がある。

結界の起点が村を囲むようにいくつもあり、まるで防護柵のように繋がっているのだ。


(この辺りはハルの家にも近かったな)


ポルコはほくそ笑んだ。


(よぉし、おもしろいもんが見られるぞ)



ジャガイモ仲間たちへ


かつての君、もしくはこれからの君である「ハル」くんと「コレット」ちゃんの物語が始まります。


日々、悪意にストレスを抱える仲間たち、今日もまた、あとひと踏ん張りできますように。


君たちは弱くなどない。


ぜひ、この物語で君たちが「悪意」を笑い飛ばせますように。


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