014 継承戦に向けて
「どういうことですか!!」
「ふむ。何を息を荒げているんだ?」
レオンの執務室で顔を真っ赤にさせた男がレオンに詰め寄っていた。尋常じゃない男の様子にもレオンは冷静に微笑を浮かべながら対峙している。
そのことがかえって男をヒートアップさせてしまっている。
「説明してください。3人引き抜きにあっているんですよ。あの3人がです。どうなっているんです!?」
「それに関しては俺が至らなかったのだろう。」
「……っ!!」
3人が引き抜きにあったのはレオンの計略によるものだが、それをただの部下が知っているわけがない。それ故に連日のようにレオンは部下たちに詰められていたのだ。
それでもレオンが冷静な態度を崩さずに、何も行動を起こさないことに短気な部下たちはフラストレーションを溜めていた。
「……3人に戻ってもらうことは出来ないのですか。」
「ふっ、どうにか手を打ちたいが、無理だろう。」
「そうですか。それでは失礼いたします。」
怒りが頂点を回ったのか、真っ赤に顔を染めていた男は能面のような表情になる。そして、諦めたようにぽつりと言葉を漏らした。
しかし、レオンは慌てた様子もなく、ただ微笑を浮かべて椅子に座っている。対峙しているはずなのに、どこか対面していないような雰囲気。そのレオンに男は耐えられなくなり、ついには部屋を出て行ってしまう。
怒り心頭の部下が出て行った後に残った微妙な空気感の部屋にいるのはレオンとその直属の部下、レオンの護衛である。
「よろしかったのですか?」
「ん?ああ、放っておけばいい。」
「レオン様なら何か考えがあるのでしょうが、今のままでは離反者がどれほど出ることでしょうか。」
微妙な空気感を一新するように凛とした護衛の男の声が部屋に響いた。
レオンは微笑を消してその男の方を向くと、無表情のままどうでも良さそうな声を出した。事実、レオンにとっては怒りに身を任せてしまう部下に対して何ら感情を動かすことはないのだ。
「お前が小言とはな。珍しい。」
「揶揄わないでください。」
「冗談だ。15%程度だろうか。そう多くは離反者は出ないさ。」
「そうであったら良いのですが。」
無表情のレオンであったが、護衛の男による苦言に対しては何処か親しみを覚える表情を浮かべて、楽し気に言葉を返している。
だが、護衛の真面目な雰囲気を見ると、すっと表情を元に戻す。そして、離反者の試算として15%という実数を出す。これはおおよそ30人程度の数に相当する。
「安心してくれ。このまま手を打たないということはない。主要メンバーを集めて話をする。」
「……どこまでお話に?」
「ああ、そういう話ではない。結束力を高めるための話だな。」
レオンも今の状態を長く続けるつもりはなく、手を打つつもりはあったようだ。離反者の数の調整と組織の膿だしを同時に行うための必要な処理である。
「そう言うことでしたか。それでしたら、安心でございます。」
「15%程度なら均衡状態になるだけだからな。継承戦に話を持っていくには、かえって都合がいい。」
結局のところ、レオンの目指すところは継承戦である。その条件を満たすための策略であるし、イリアというメンバーの確保である。
元々、ドラコ陣営は数が売りなものだが、そこにレオン陣営の主要人物と15%の数が移動することでようやくパワーバランスが均衡する。レオンが長男であるからこそだろう。
「お前には苦労させるが頼んだぞ。」
「いえ、私はどこまでも付いていきますので。」
「どこまでも、か。……頼もしいな。」
護衛の真摯な瞳を受けて、レオンは目を瞑る。どこまでもレオンを信じている護衛の言葉にレオンは言葉にならない感情を抱く。絶対に裏切らない部下の存在。それがどれほどレオンの助けになることか。
「では、私は失礼いたします。」
「ああ、頼んだ。」
「……ふっ、俺の願いに付いてきてくれるのか。」
護衛の男が出た後の部屋の中で自嘲するような笑いを浮かべると、その直後にふっと頬が緩む。レオンの望みを知っていてもついて行くという護衛の言葉はレオンの心にしみるものだった。
「ついて行くに決まっています……」
部屋の外に出た護衛はレオンの自嘲するような声を扉越しに聞き、より一層レオンの後について行く覚悟を強くする。
痛くなるほど握りしめる拳が赤くなるのも気にせず、そのまま護衛はレオンの指示を遂行するために行動を開始した。




