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012 レオンの弟

「そう言えば、レオン。そろそろ目的を教えてくれないか?」

「……そうだな。」


 ある休日の昼下がりの事である。昼食を食べた後に食堂でイリアとレオンが偶然一緒になっていた。イリアが客室に泊まり始めてからそこそこの時間が経っていたが、未だにレオンの本来の目的がイリアに伝わっていなかった。

 最初に言われたお礼のため。というのも決して嘘ではなかったが、現実的にそれだけでここまでの待遇で迎え入れるには、イリアとしては違和感を拭いきれないものであった。


「分かった。イリアを招待した理由は礼を言うためというのもあるが、継承戦に出てもらおうと思ってな。」

「継承戦……?」

「ああ。俺と弟のドラコ=ダンドール。どちらがダンドール家を継ぐのに相応しいかを決める戦いだ。その戦いで一戦任せたいと思ってな。」


 継承戦。それはダンドール家の当主を継承する際に行われるものである。とはいえ、その継承戦自体は常に行われるものではなく、特定の条件を満たさないとならない。それが、今回においては条件が満たされているのだ。

 が、条件を満たされているだけでは実際に開催には至らない。継承戦という名の通り、戦いによる当主の決定は合理性がなく、どうしようもなくなった場合の最終手段であるからだ。他の指針により決定するに越したことはないのだ。


「責任重大だな。だが、他にも冒険者はいただろう。なぜ態々?」

「ああ、本来ならレリックが出る予定だったのだが、諸事情があり出られなくなった。白狼旅団は通常通りに出ることができるのだがな。」

「それは……災難だな。」

「全くだ。頼むことはできるか?」


 雷鳴獅子のレリックはレオンの持つ戦力において、相当に上位に位置する能力値を持っているだろう。その戦力を扱えないとなった時に今回、イリアという存在に白羽の矢が立ったのだ。

 実際は【冒険家】カルアをであるが。レオンとしてはカルアでなくとも、勝つことができる人材であれば、極論誰でも良いのである。


「分かった。開催はいつなんだ?」

「未定だ。そもそも、開催するかも分からない。開催するように今動いているのだが、動き次第では変更になる可能性もある。」

「そうなのか。戦えるのは少し楽しみなんだけどな。」


 レオンとしては、継承戦という落としどころが一番分かりやすく、後腐れがないためその方面に動いている。が、ドラコがどのような落としどころにして、この当主決定の儀に望んているかを完全に判断することは不可能であった。

 その上で、レオンの望みを押し通すために行動するだけである。


「ははは。俺も楽しみだ。まともに戦えるのはここくらいなものだ。普段の稽古もいいが、実戦は違うからな。」

「同意見だ。」




 イリアとレオンが談笑しているところに、長身の男が一人やってくる。その男の身体は程よく筋肉が付いており、姿勢も良い。メガネの奥で光る鋭い眼光はイリアを見据えている。


「レオン兄さん。……随分と楽しそうだね。」

「紹介する。冒険者をしているイリアだ。剣術に魔法。相当の使い手だ。」

「初めまして……」

「いい。まだ、冒険者と戯れているんだね。」


 ドラコ=ダンドール。その人が悠然とイリアとレオンへと近づいていくと、真正面の所で立ち止まる。鋭い眼光はより細められており、皮肉気に口が歪む。

 そのドラコにイリアは挨拶をしようとするが、その言葉はドラコにより遮られて、レオンとドラコの目が重なり合い、宙にばちりと火花が舞う。


「ふっ、戯れるとは随分な言い方だな。冒険者はいいものだぞ。」

「そう思っているのはレオン兄さんだけだよ。」

「ははは。そうかもなぁ。」


 冒険者とは世間のイメージとしては自由であるが、命の危機が身近であり、粗悪な性格の人間が多い。というものだ。その印象からして、レオンのいう冒険者はいいという言葉は世間一般からは外れている。

 とはいえ、実際のところは英雄に憧れる子供たちがとりあえず名前を挙げる職業が冒険者ということもあり、なりたい職業ランキングとしては上位に食い込むほどのものだ。


「……当主の座は貰うよ。」

「ああ。奪い取ってくれることを期待している。」

「ちっ……。」


 ドラコの宣戦布告めいた言葉にもレオンは余裕綽々と言った様子で、微笑みを浮かべている。

 そのレオンの様子に苛立ちを表情に出し、ドラコは舌打ちをする。俯いた顔はレオンから見えずに、どのような感情を抱いているのか。推し量ることができないものだった。


「さっさと行きなよ。」

「そうだな。では、俺は出て行こう。悪いな、イリア。そう言うことだから、俺は退散する。」

「分かった。」


 ドラコの退室を促す言葉にレオンは素直に引き下がり、イリアを残して食堂から出て行った。


「……いつまでいるつもり?」

「ああ、すぐに出て行くよ。」

「そう言いながらも、レオン兄さんの厚意に甘えて、寄生でもするつもりなんだろ?」

「……?ああ、そんな事はない。元々、王都には冒険者ランクを上げることと、学園への案内状を貰ったから来ただけだから。」


 ふとドラコの質問がイリアに浴びせられる。その質問が今の話だと考えたイリアはそのように回答したが、実際は続く言葉から客室に泊っている状況に対してのものだと認識を改めることとなった。

 イリアの元々の目的は言う通りに冒険者ランクを上昇させることであった。それと共に裏ダンジョンの発見報酬として、街の領主から学園への入学推薦状を得ていたのだった。その入学に関する手続きや、そもそも入るのかを決定することも王都に来た目的である。


「そう。好きにすると言い。……でも、早く立ち去る方が君のためだよ。」

「……肝に銘じておくさ。」

「「……。」」


 重苦しい空気の中で青と金の瞳が交じり合った。お互いが何を思っているか、それを十全に伝えるには足りないが、簡単な意思は伝えることができる。

 二人は同時に背を向けて、違う方面へと歩き出した。

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