第14話 共同調査(名の皮を被った侵略)と、けなげな抵抗
アクアティアの港に、
堂々と停泊するネプトゥーリアの調査船団。
その威容は、小国アクアティアの民を
不安にさせるには十分すぎるものだった。
そして、旗艦からタラップが降ろされ、
現れたのは……やっぱり、あの男!
金髪きらめく腹黒王子、テオン殿下!
その後ろには、いかにも「仕事できます」オーラを
まとった文官や、屈強な護衛兵たちが続く。
(うわぁ……ラスボスご一行様のおなりだわ……)
(私、今日、生きて城に帰れるかしら……)
私の隣には、鉄壁の守護神カイ様と、
冷静沈着な参謀フィンレイ様。
そして、もちろん私の顔には、
最強の味方『領主の仮面』様!
よし、今日の私も完璧な領主(仮)のはず!
「これはこれは、アリア公女殿下。
わざわざのお出迎え、恐縮の至り」
テオン王子が、蛇のような笑顔で近づいてくる。
近い!近いってば!
そのキラキラオーラで目が潰れる!
「テオン王子こそ、長旅お疲れ様でしたわ。
ささやかではございますが、
歓迎の準備を整えております」
(歓迎なんて、これっぽっちもしてないけどね!)
私も、仮面の下で渾身の営業スマイルを返す。
こうして、世にも奇妙な「共同調査」の幕が上がった。
まずは、フィンレイ様率いる文官チームが、
ネプトゥーリアの調査団に、
アクアティアの財政状況を「ご説明」。
それはもう、涙なしには聞けない、
赤字だらけの予算書(ちょっと水増し済み)や、
何年も更新されていない備品リスト(本物)を、
これでもかと開示していく。
「ご覧の通り、我が国は常に財政難でして。
新たな資源が見つかっても、
それを開発する資金がございませんの」
フィンレイ様が、わざとらしく深いため息をつく。
(ナイス演技よ、フィンレイ様!
その憂い顔、アカデミー主演男優賞ものよ!)
一方、港では、カイ様率いる騎士団が、
「質素倹約訓練」と称して、
ひたすら港の清掃活動に勤しんでいた。
屈強な騎士たちが、デッキブラシを手に、
一生懸命船着き場を磨いている姿は、
なんともシュールな光景だ。
「我が騎士団は、戦の訓練よりも、
日々の生活費を稼ぐための奉仕活動に
時間を割いておりますので!」
カイ様が、なぜか誇らしげに(?)
テオン王子に説明している。
(カイ様、その設定、無理がありませんこと!?)
(でも、その真顔でのボケ、最高よ!)
テオン王子は、これらの光景を、
興味深そうに、しかしその瞳の奥は
全く笑わずに眺めている。
時折、隣の側近と何か囁いているけれど、
何を考えているのか、さっぱり読めない。
(こ、怖い……。私の小細工、全部お見通しなのかしら……)
そんなこんなで、アリア様の珍作戦は、
空振りとも言えず、かといって
クリーンヒットとも言えない、
なんとも微妙な雰囲気で進んでいった。
そして、いよいよネプトゥーリアの調査団が、
本格的な「資源調査」を開始する。
彼らは、アクアティアの船頭を案内役に立て、
最新鋭(に見える)の機材を持ち出して、
沿岸の地形や、海底の様子を
丹念に調べ始めた。
特に、彼らが執拗に調べていたのは、
古くから「聖域」とされ、
あまり人が立ち入らない岬の周辺や、
「海神の涙」の伝説が残る海域だった。
(ま、まさか……彼らも、
「賢者の国」や「常若の島」の伝説を
知っているっていうの!?)
(それとも、単に、
お宝が眠ってそうな場所を
手当たり次第に調べてるだけ……?)
私の心臓は、不安と疑念で、
今にも張り裂けそうだった。
そして、その日の調査が終わる頃。
テオン王子が、私のもとにやってきて、
一枚の海図を突き付けた。
それは、彼らが今日調査した海域のもので、
特定の場所に、赤い印がつけられている。
「アリア姫。この印をつけた場所の海底に、
何か『人工的な建造物』らしき反応があった。
明日、我が国の潜水調査艇で、
詳しく調べてみたいのだが……ご許可願えるかな?」
潜水調査艇ですって!?
そんなもの、アクアティアには影も形もない、
超ハイテクメカじゃないの!
そして、その赤い印がつけられた場所は……
まさしく、「海神の涙」の伝説が残る、
あの禁断の聖域の近くだった。
(ど、どうしよう……!
ここで許可しなかったら、
何かを隠していると、ますます疑われる……!)
(でも、許可したら、
アクアティアの秘密が、
根こそぎ暴かれてしまうかもしれない……!)
私の胃は、もうとっくの昔に限界を超え、
宇宙の彼方へと旅立っていた。
返事しなくちゃ……領主として、何か……!




