第15話 海底の謎と苦渋の決断
「……ご許可願えるかな?」
テオン王子の、
あの蛇のようにねっとりとした声が、
私の頭の中で無限ループしてる!
しかも、ご丁寧にあの腹黒スマイル付きで!
(潜水調査艇ですって!?)
(そんな、ドラえもんのひみつ道具みたいなものが、
この世界に実在したなんて!)
(しかも、それでうちの国の聖域の海底を、
勝手に調べるですって!?)
(横暴! 理不尽! パワーハラスメントよぉぉぉ!)
私の顔は、きっと仮面の下で、
青くなったり赤くなったり、
それはもう大忙しのはず。
「……アリア様、いかがなされますか」
隣に立つフィンレイ様が、
落ち着いた声で私に判断を促す。
その隣では、カイ様が苦虫を噛み潰したような顔で、
ネプトゥーリアの連中を睨みつけている。
(うん、二人とも、私と同じくらい、
腸が煮えくり返ってるわよね、きっと!)
どうする? どうすればいいの、私!?
ここで許可しなかったら、
「何か隠しているな?」と、
ますますネプトゥーリアの疑いを深めることになる。
それを口実に、何をされるか分からないわ!
でも、安易に許可したら……。
アクアティアの、もしかしたら最後の希望かもしれない、
「海神の涙」や「賢者の国」に繋がるかもしれない秘密が、
あの腹黒王子に丸裸にされてしまうかもしれない!
(ああああ、もう、どうして私がこんな目に!)
(普通のお嬢様として、美味しいケーキでも食べながら、
イケメン騎士様と恋バナとかしてるはずだったのに!)
(神様、私の人生、ハードモードすぎやしませんこと!?)
「……分かりましたわ」
私は、震える声を必死で抑え込み、
できるだけ威厳のある声で(仮面様、お願い力を貸して!)、
テオン王子に告げた。
「その海底調査、許可しましょう。
ただし、条件がございます」
「ほう、条件とは?」
テオン王子が、面白そうに眉を上げる。
「調査の際には、必ず我がアクアティアの船を同伴させ、
調査の状況をリアルタイムで報告していただきます。
そして、そこで得られた情報は全て、
アクアティアとネプトゥーリア、
双方で共有するものといたしますわ」
(どうだ! これが私の精一杯の抵抗よ!)
(これで、少しは不正を防げる……かしら……?)
テオン王子は、私の条件を聞くと、
一瞬だけ意外そうな顔をしたが、
すぐにいつもの胡散臭い笑顔に戻った。
「よろしいでしょう、アリア姫。
その条件、お受けいたします。
では、明朝より、早速調査を開始させていただきましょう」
……こうして、私の(まったく望んでいない)許可のもと、
翌朝早くから、ネプトゥーリアの潜水調査艇による、
アクアティア聖域の海底調査が始まった。
私たちは、城の岬から、
フィンレイ様が用意した高倍率の望遠鏡で、
その様子を固唾をのんで見守ることしかできない。
ネプトゥーリアの母船から、
ゆっくりとクレーンで吊り上げられ、
海中へと姿を消していく、
銀色に輝く、未来的なデザインの潜水調査艇。
(うぅ……本当にSF映画みたいだわ……)
(あんなものを作る技術があるなら、
もっと平和的なことに使えばいいのに……)
時間が、やけにゆっくりと流れる。
私の胃は、緊張でギリギリと音を立てている。
セーラが淹れてくれた、
リラックス効果のあるカモミールティーも、
今の私には気休めにしかならない。
「……何か、報告はあったか?」
カイ様が、そばに控える伝令兵に尋ねる。
ネプトゥーリアの母船には、
私たちの監視役として、
アクアティアの小舟がぴったりと寄り添っているはずだ。
「はっ! 先ほど、潜水調査艇より母船へ、
『目標ポイントへ到達。海底に、
明らかに人工的な石組みの構造物を視認』
との連絡があった模様です!」
石組みの構造物……!
やっぱり、何かあるんだわ!
それが、良いものなのか、悪いものなのか、
今の私には全く分からないけれど……!
「さらに……『構造物の周囲に、
微弱ながらも未知のエネルギー反応を感知』
とも報告が……!」
未知のエネルギー反応ですって!?
な、なんなのそれ!?
もしかして、「海神の涙」の力とか!?
それとも、古代兵器的な、ヤバいやつ!?
私の心臓は、期待と不安で、
今にも張り裂けそうだった。
早く、早く結果を知りたい!
でも、知るのが怖い!
望遠鏡のレンズの向こう、
静かな海面が、やけに不気味に見えた。
その下には一体、何が眠っているというのだろう。
そして、それはアクアティアに、
何をもたらすというのだろうか……。
私の胃痛は、ついに最高潮に達し、
意識が遠のきそうになるのを、
必死で堪えるので精一杯だった。




