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クロミネは街に暮らす

ウサギは肉が十八銀貨、皮が十銀貨になった。


「二十八銀貨、さっきの人のいうとおりでしたね。クロミネ」

「ああ、よき男だ。感謝せねばな」


昼時の通りはあちこちの飯屋からうまそうな匂いが漂ってくる。

シロハナの腹がまた鳴った。

ふたりの前を歩いていた中年男が立ち止まり、店に入った。


「定食とエールだ」


せっかちなのだろう。

男の声が聞こえて、扉が閉まった。


「なるほど。簡単そうだ」

「ものを食べるのは初めてです」


顔を見合わせたふたりは男がしたように、ドアをあけて店に入った。


「定食とエール、ふたりぶんだ」

「ひえっ」

クロミネに見下ろされ店の少年給仕は怯えて飛び上がった。

「すみませんが、ふつうの水もください」

「ふへっ」

クロミネの影から顔をだしたシロハナに、今度は目を輝かせる。


人を言うのは本当に表情豊かでおもしろいと、ふたりは思った。



「ウサギ塩焼き定食、おまちどうさまデス」


緊張した様子で給仕の少年がトレイを運んできた。

席は八割がた埋まっていたが、幸い奥の小さいテーブルが空いていた。

店内を見渡すにはいい席だった。


シロハナは水とエールを飲み比べて首をかしげている。

クロミネは他の客の食べる様子を観察していた。


骨付きのウサギ足はそのまま手で持ってかぶりつく。

付け合わせの芋とマメはフォークで、パンはちぎって。


シロハナがクロミネの食べ方を真似ている。

それは戦士に憧れた坊ちゃんが豪快ぶろうとしているように見えた。

給仕の少年はクスリと笑みをかみ殺し、客たちは温い視線を向けた。

異色なふたりの入店に走った緊張は解け、昼時の喧噪が戻ってきた。



「定食がひとつ八十銅貨、エールが三十銅貨、水が二十銅貨。ええと、全部で二百四十銅貨で、二銀貨と四十銅貨」


「正しい。三銀貨払って六〇銅貨戻ってきた」


ふたりは飯屋での支払いを思い返して、この世界の通貨を確認していた。

百銅貨が一銀貨。

兵士が立て替えてくれた十銀貨というのは決して安くはない。

とはいえウサギで二十銀貨以上稼げるなら食べていくのは可能だろう。


「だがここに馴染む服を買わねばな。宿に泊まるのも金が要るはずだ」

クロミネは冷静に言った。


「クロミネは土魔法が使えるけれど、私は何ができるのでしょう」

シロハナはちょっと落ち込んでいる。

ウサギを狩ったのも運んだのもクロミネだ。

街へ入ってからも役にたっていない。


「それは、これから探せばいい。それに私はシロハナがいてくれて嬉しい」


クロミネの言葉にシロハナは涙ぐんだ。

人の身体はすぐに感情と結びつく。

だけど嫌ではなかった。



ギルドのメンバーになるのに、ひとり五銀貨が必要だった。

身分証をなくすと発行のたびに五銀貨必要だという。

端の穴に紐を通す人が多いと受付で教えられ、シロハナはすぐにでも紐を探したくなった。

それにお金を入れる袋も。


幸い、午後一番のギルドは空いていた。

クロミネは何枚かの依頼の読み上げを職員に頼んだ。

シロハナもクロミネも記憶力は優れている。

数字とよく使う表現・物の名前と文字はすぐに覚えた。

薬草については図が添えられていることもありわかりやすい。

これならできそうだ。

シロハナはほっと胸をなでおろした。



「おかげでギルドの手続きもできた。礼をいう」

「ありがとうございます」


ふたりに頭を下げられて、兵士は照れた。

「宿は決めたか?いくら残ってる?」


「五銀貨と六十銅貨だ」


「なら、二人部屋なら泊まれるな。晩飯は奢ってやるよ。アントンの飯屋って店にヘンリーの紹介だって行くといい」


「なぜそんなに親切なんだ?」


「あんたたちは感じがいいからな。友達になりたいんだ」


「ヘンリーも良き男だ」


クロミネは驚きながらも相好を崩した。

長く生きても友達と言われたことはなかった。

シロハナは友達というより、身内だ。

人になって良かった。

クロミネは改めておもった。



アントンの飯屋はヘンリーの兄家族がやっている食堂だった。

二階の空き部屋を人に貸すこともしている。

ただし、誰にでもというわけではない。

信用できる筋の紹介があれば、という但し書きつきだった。


クロミネとシロハナは驚かれたが、その人柄は受け入れられた。

とくにまだ小さいふたりの子どもはすっかり懐いた。


「うわあ。恰好いい!ドラゴンと戦ったことある?」


「王子様?ミオね、おひめさまになりたいの」


「ドラゴン?天に上る龍ならみたことがある。あれは戦ってはならんものだ」


「私は王子様じゃないけれど、ミオはおひめさまにみえるよ」



一見戦士なのに丸腰の土魔法使いと、薬草や木の実の採取名人はギルドでも有名になった。


野性的で異国風の偉丈夫と、優男な美青年は、想いを寄せられることも多かった。

けれどふたりは礼儀正しく断った。

かといってふたりが恋人同士というわけでもなさそうだった。


これは辺境の街オミエシナの新たな住人の話。


お読みいただきありがとうございました

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