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30 新たな魂

「爆破!」


 収縮した魔力が爆発エネルギーとして解き放たれ、辺り一切を粉砕し、焼き払っていく。


「……理不尽だ」


 ゴブリンキングも容易く吹き飛ばせそうな爆発魔術を放ったフェリの口から不満が漏れる。

 その魔術はたしかに一切を吹き飛ばした。お陰で鮮やかな赤いドラゴンの鱗が表面に出てきている。


「思いっきり魔力を練った爆発魔術なのに、表面の汚れを吹き飛ばしただけで傷一つつかない存在なんて理不尽以外の何物でもない」


 フェリの言っていることはトールも今まさに実感している。


「水砲!」

「おお、そこ気持ちがええのぉ。もう何発か撃ってくれんかのう」


 左腕を筒状に形状変化させ、魔力で形状維持した水の砲弾を音速に近い速さで発射する。

 これもトールが考案した攻撃魔術なのだが、ドラゴンにとっては表面の汚れを洗い流してマッサージする程度のものらしい。

 他にも盾をぶつけて岩を砕いたり、剣技を用いて伸びるに伸びた草を刈ったりしている。



 そうやって二日かけてドラゴンの洗体すると、赤竜の雄々しい姿が顕になった。年老いてもドラゴン、その見目に圧倒される。


「ありがとうね。なんだか体が軽くなったようだよ」


 ドラゴンの言葉に一仕事終えた妖精の地図の面々は喜んでいたが、魔力の流れが見えるトールはその言葉が世辞であることが分かる。表面がきれいになった程度では魔力の流れは改善されておらず、いつ朽ち落ちてもおかしくないほど弱々しい。

 そんなことはドラゴンも分かった上で先の提案なのだろう。ひとしきり喜ぶ人間の姿を眺めたドラゴンは、トールの名を呼んだ。


「トールよ、この様なきれいな姿で最後を迎えられることに感謝する。この年寄の魂を好きに使うがよい」


 そう言うとドラゴンは頭をトールの前まで差し出した。

 この程度の動作すらドラゴンにとっては無理をしているのだろう。それを感じられたトールは優しくドラゴンの鼻先に手を置いた。


「我が魂、未来、夢、全てを汝に託す」

「ドラゴンさんの魂、未来、夢、全て受け取ります…… ソウルイーター!」


 自然と言葉が紡がれた。そして、ソウルイーターを発動させた。

 瞬間、普通のソウルイーターとは違いとてつもない存在自分の中に入ってきたのが感じられた。ともすれば体を乗っ取られそうなものだったが、次第にその存在感が薄れていく。


「トール、大丈夫か?」


 終始見守っていた妖精の地図が駆け寄ってきた。


「うん、大丈夫。すごく強い魂だけど体を乗っ取ったりする気は無いようだけど、自分の魂と馴染むのに少し時間がかかりそう。だけどお陰で儀式はうまくいくよ」


「乗っ取るって…… そうか、そんな危険もあったのか。周囲の警戒は私たちが引き受けるから調子が戻るまで休んでてくれ」

「ありがとう。まだドラゴンの魔力があたりに漂っているから大丈夫とは思うけど、一応気をつけて」


 トールの言葉にオルカは片腕を振って答えるとメンバーをつれて離れていった。


 座り込みドラゴンにより掛かると自然に瞼が降りてきた。



(スター、シューター、マモル、スカイ、エンノシタのスライムたち元気にしているかな? 旅に出るって言ってたけど、どこらへん旅しているんだろう?

 初めて会えた人がツリルさん達で本当に良かった。そういえばその時に会った妖精の靴の人たちとオルカさんたち妖精の地図は名前が似てるけど関わりがあるのかな?

 オーカさんをはじめ集落の人たちいい人たちだったな。それだけに本当に申し訳ないことをした。せめてウルくんだけは幸せな人生を歩んでほしい。

 エメラルダ…… 君と出会えてよかった。君が居たからここまで来られたんだ。最後までよろしくな)


 次々と出会った人たちや出来事が浮かび上がってくる。


(いろんな魂を取り込んでまるで錬金術師の物語に出てくる合成獣キメラだな。でも、最弱な俺でもその合成獣のような魂キメラ・ソウルお陰でここまで来られた)


 顔も分からない勝手に魂を吸収しただけの人たちや戦うことになった魔物たちも今、自分の中にある。そう思うとその全てに、この世界に感謝の念を抱いた。

 


「おい、そろそろ起きろ!」


 思い出に浸っているところを外部からの声で現実に引き戻された。

 目を開けると盾も鎧もボロボロのオルカが目に飛び込んだ。


「そろそろやばい」


 周りを見れれば異形の魔物が複数体、こちらを遠巻きに取り囲んでいる。

 どうやらドラゴンの魔力が薄くなったことで魔物が集まったようだ。魔力がなくなればドラゴンの遺体目当てに襲いかかってくるだろう。

 しかし、今まで妖精の地図が守ってくれたお陰でしっかりと休めて、今のトールは万全の状態である。


「今から魂の融合儀式を始めます。儀式中の護衛は不要なので、妖精の地図は自衛に集中してください。領域展開!」


 トールの体を中心に二メートルほどの魔力領域が展開されると、領域内が輝き出すほど魔力が高濃度になっていく。

 そして、トールの肉体も光と魔力に分解されていく。


「Kisyasyasyasya」


蛇型の異形魔物が高濃度魔力を取り込もうと飛びかかった。


「トール!」


 隠れていた妖精の地図が思わず声を出すような状況だったが、すぐにそれが無用の心配だったことが明らかになる。

 襲いかかった魔物が魔力領域に侵入した瞬間に魔物の体は光と魔力に分解され、領域に入り切らなかった尻尾の部分だけがぽとりと落ちた。

 魔力領域の魔力はさらに濃度を増し、やがて光で中の様子が見えなくなった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 輝く世界の中、トールは不思議な感覚を味わっていた。


「体がないのに自由に動けるって変な感じだな。もしかして幽霊とかこんな感じなのかな?」

「何くだらないこと言ってるの?」


 聞き慣れた声がすぐ隣から聞こえてきた。

 そちらに意識を向けると今まで声だけの存在だった彼女がそこにいた。


「ティア、こうして会うのははじめてだね」

「そうね。と言っても姿形のない魂だけの状態だけどね」

「それでもずっと面と向かってお礼を言いたかったんだ。今までありがとう」

「私は私の目的のためにやっていたことだから、別にそんなの必要なよ」

「それでも、これが最初で最後だから…… ありがとう」

「わかった。その言葉、受け取るわ。そろそろ魔力も溜まってきたから行くよ!」

「ああ、これからもよろしくな」


 最初で最後の言葉をかわした二つの魂はやがて一つに重なり合う。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 煌々と輝く魔力領域が次第に小さくなっていく。そして、人の形に変わると輝きもなくなっていき、最終的には一人の男として収まった。

 形になったのはたった状態だったが、男として顕現した途端に操り人形の紐が切れるがごとく力無く崩れ落ちた。


「おい、大丈夫か?」


 妖精の地図の男たちは崩れ落ちる男に駆け寄るとその体を支え、女性陣は荷物から羽織れるものを取り出して全裸の男に羽織らせた。


「悪い。心配かけたが、もう大丈夫だ。ただ、着替えをくれると有り難い」


 男のお言葉に女性陣がトールの着替えを荷物から引っ張り出した。

 それを受け取った男は影でいそいそと着替えると、きちんとした姿で妖精の地図の前に立った。


「君はトールなのか?」


 はじめに言葉を発したのはオルカだった。儀式前と後とでは姿形が全く異なっているのだから当然の質問だろう。


「違うよ。もとはトールだっただろうけど、今は魂が融合して別の存在になっているからな。そうだな、とりあえず『トールティア』とでも名乗っておこうかな」


 トールティアは軽く答えた。そして、答えた際も変化にフェリが気がついた。


「あなた、普通に言葉を話せるの」

「ん? ああ、トールの時に人間の魂を結構な数吸収していたし、ドラゴンの婆さんがかなりの知識を持っていたからな」


 トールティアがペラペラとこの世界の言語で喋って説明をする。しかし、気になることは他にもある。


「なら、トールの時に交わした契約はどうなるんだ?」

「それならしっかりと覚えているから安心ていいよ。トールの約束を守る、妹を救うっていう想いはしっかりと受け継いでいるから」


 トールティアの言葉を聞いて妖精の地図の面々に安堵の表情が浮かぶ。それは妖精の地図にとっては国が救われたことと同意なのだから当然だ。


「まずはドラゴンの婆さんとの約束を果たさないとな。ここまで大きく魔力が動いたから跡取りがすぐにでもやってくるだろうから、存分に戦えるように場所を整えておこうかな」


 トールティアがそう話すとドラゴンの遺体を魔力膜で包み浮かせて端に移動させ、さらに巨木を引っこ抜き広場を作った。

 その光景に魔術師のフェリは言葉を失う。ドラゴンの洗体の時に嫌というほどドラゴンの鱗の強靭さや魔力に対する抵抗味わったのだから、目の前で起きていることに唖然となっている。


「あーそうそう、相手次第だけどもしかしたら君たちにも戦ってもらうこもしれないから、準備だけはしといて」

「どういうことだ?」

「婆さんとの約束は後継者に世界の広さを知らしめることだ。それで、自分より圧倒的に強いものがいること実感させるのもアリと思うけど、逆に自分より弱い存在に負けるという経験もアリだと思うんだ」

「それは君が判断するということなのか?」

「そうだね。一応トールだった時の記憶もある程度引き継いでいるから判断を間違えることはないよ。それにたとえ間違っていてもきちんと支援するから安心していいよ」


 オルカはトールとは違うトールティアの軽薄さに不信感はあるものの、彼が放つ異様な存在感が言葉に妙な説得力を持たせているのも確かだ。

 オルカはメンバーに目配せをして答えた。


「分かった。万全な状態にしておく」


 トールティアは場を整え、妖精の地図はボロボロになった装備を交換したりしていく。

 こうしていると森の奥から轟音とともにこの森を管理する後継者と思われる魔物が飛び出してきた。

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