*** 76 犯罪者たちの捕獲 ***
ぷんすか怒っているタマちゃんは、それでもお刺身とササミ肉を食べ始めた。
「あ、そうだ。
アレ試してみようかな」
「アレってなんにゃ?」
「なあストレーくん、君は物を外に出すときに、任意の場所に出せるんだよね」
(はい)
「そしたらさ、今収納庫の中に少し冷めた穀物粥ってあるかな」
(ございますが?)
「それさ、直接俺の胃の中に出すことって出来るかい?」
(えっ……)
「もちろん少しずつだけど。
そうだな、50グラムずつ5回ぐらいに分けて」
(あ、あの…… 胃の位置がよくわかりませんので……)
「シスくん、君は地球でいろんな情報を取得して来たんだろ。
それで人体解剖図を見ながら、俺の胃の中にマーカーを登録してくれないか」
(は、はい……)
「ストレーくんも、マーカーがあれば出せるんじゃないか?」
(は、はい…… たぶん大丈夫かと。
ですがなに分、初めてのことでございまして……)
「大丈夫だよ。
ここはダンジョン領域になってるから、万が一へんなところに出して俺が死んでもリポップされるから」
「にゃあダイチ、なんでそんなことするんにゃ?」
「いや、もしそんなことが出来るようになったらさ、戦闘中や行動中でも栄養補給が出来るようになるじゃない。
それに、天気が悪いときに外なんかで食事をするのが便利になるし。
あ、そうだ、ついでにスポドリも50ccずつ3回頼むよ」
(ストレーくん、一緒にネコ缶の中身も混ぜてやるにゃ……)
(た、タマさま…… お、お許しください……)
「ん? なんか言った?」
「な、なんにも言ってないにゃ!」
「そう。
それじゃあ試してみてよ」
(は、はい……)
「お! なんか腹に入って来た!」
「ど、どんな感じにゃ?」
「うーん、確かにこれで栄養も水分も補給出来たんだろうけどさ。
なんか食事の満足感は無いし、喉の渇きも収まらないし……
本当に非常時だけかな……」
「よかったにゃ。
ダンジョン村の食事が自動胃転移ににゃるところにゃった……」
「はは、まさか……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからしばらくして。
(ダイチさま、エルバ村とアルバ村の孤児奴隷たちを特定致しました。
たった今、全員が仕事を終えて住処に帰って来たようでございます)
「こんな時間まで働かせていたのかよ……
何歳ぐらいの子たちが何人いるんだ?」
(5歳から12歳ぐらいまでの子が合わせて6人でございます)
「それじゃあ、その場でクリーンの魔法と治癒系光魔法をかけてやってから、ミミとピピたちのところに転移させてくれ。
あいつらなら仲良くやってくれるだろう。
良子さんにも連絡を頼む」
(はい)
「それから両方の村のトイレにもダンジョン村の汚穢を転移させておくように」
(畏まりました)
「ふわぁ、さすがにちょっと眠くなって来たか」
(あの、ダイチさま。
商人ギルドと傭兵ギルドの連中が襲撃をかけてきた際には、わたくしが対処させて頂きますので、お休みになられたらいかがでしょうか)
「いや、今からストレーくんの中の部屋に行って、風呂に入ってからひと眠りすることにするよ。
そうすればここでは時間は経たないからな。
牢への転移はシスくんに頼むにしても、あいつらへの対処は俺自身がしたいから」
(畏まりました)
時間停止収納空間で充分に休んだ大地は、また料理自慢亭に戻って来た。
「さて、それじゃあこれからの計画でも考えるとするか……」
そうして現地時間夜9時ごろ。
「お、どうやらお客さんのお出ましかな」
「どうやらそうみたいにゃね」
「ちょっと『聴覚強化』で聞いてみるか」
『さて、あのガキをぶち殺してお宝を頂くとするか』
『すぐに殺すなよ。
痛めつけてお宝の隠し場所を吐かせてからだ』
『へい……』
『それにしても馬鹿なガキだよな。
あんなお宝を俺たちに見せびらかすとはよ』
『だから馬鹿ほど早死にするんだな』
『よし、ここだ。
お前たちは裏口に回れ、俺たちは正面から入る』
『へい!』
「ストレー、こいつらを収納しろ…… 現行犯逮捕だ」
(はい)
「最初に来たのは商業ギルドだったか……
シス、商業ギルド内の監視も頼む」
(はい)
それから30分後。
『さてと、あの生意気なガキをぶち殺してアイテムボックスを持って帰るだけの簡単なお仕事か』
『すぐに殺すんじゃねぇぞ。
アイテムボックスを隠してるかもしれねえから、拷問して在処を吐かせてからだ』
『拷問は俺にやらせてくれ。
あのガキ、徹底的に痛めつけてやる……』
『ははは、お前ぇはあのガキにのされてたからなぁ』
『う、うるせえっ! あれはちょっと油断してただけだ!』
「ストレー、こいつらも宿への侵入を試みたら収納だ」
(はい)
また30分後。
(ダイチさま、宿屋ギルドから男たちが3人ほど出て来てこの建物に近づいて来ています。
なにやら大量の荷物を抱えていますが……
あ、薪と油ですね。種火も持っています)
「よし、『聴覚強化』……」
『へへ、これで『料理自慢亭』もおしまいだな』
『ああ、宿屋ギルドに逆らうとどうなるか、見せしめが要るからな』
『ムッシュの野郎をぶち殺してから火をつけやすか?
それとも火をつけるだけですかい?』
『ギルド長には火をつけるだけにしろって言われてるんだ。
ムッシュの野郎は焼け死んでも良し、生き残っても泣き顔が見られるからいいんだとよ』
『へへ、なるほど』
『ところであのマルカとかいうスケはどうしやすか?』
『今日は時間が惜しいからやめとけ。明日攫ってくればいいだろう。
万が一にも、俺たちが火をつけたところを誰かに見られるわけにはいかねぇからな』
『へい』
「現住建造物等放火か…… 重罪だな。
それにしても宿屋ギルドまでかよ。
マジでこの街は腐ってるな……」
「ヒト族の街は酷いにゃねぇ……」
「シスくん、奴らが薪に火をつけたら、宿屋ギルドの中に火のついた薪と油壺ごと転移させてくれ。
同時に風魔法で強風を送り込んでやるように」
(畏まりました)
「はは、逆に宿屋ギルドが火事になるんにゃね♪」
「ああ、放火したのも宿屋ギルド員だしな。
そうだストレーくん、宿屋ギルドに火が回る前に、ギルド長とギルド員たち、それからギルド内の財産をすべて収納しておくように」
(はい)
「シスくん、隣の建物に延焼しないように結界も頼む」
(畏まりました)
そのころ領主館では……
「なんだと!
ゲスラーがまだ館に戻っていないだと!」
「は、2名の護衛ともどもまだお帰りになられていません……」
「なぜこのように遅い時間までわしに知らせなかったのだ!」
「あ、あの……
いつも娼婦たちのいる店に入り浸っていらっしゃったものですから……
ですが、先ほど娼婦たちに聞き取りをしましたところ、今日は来ていないと……」
「ええい!
全ての衛兵と領兵に街内を捜索させろ!」
「そ、それが……」
「まだなにかあるのか!」
「先ほど衛兵に街内の捜索を命じようとしたのですが……
全ての衛兵が街門前に浮かんでおりまして、足場を組んで引っ張ってもびくともしないのであります……」
「なんだと…… ええい! ワシが検分するっ!」
「ははっ!」
「な、なんだあれは…… か、火事だぞ!
どの建物が燃えているというのだ!」
「宿屋ギルドが燃えています!」
「な、なんということだ……」
そのとき。
「おーい、坊ちゃんが見つかったぞー!」
「おお、無事だったか。どこにいた!」
「それが、河原の孤児たちの住処の近くで気を失っておられました」
「なんだと……
孤児共はどこにいる!」
「住処はもぬけの殻でございます!」
「ええい! 領兵は引き続き孤児共を探せっ!
わしは館に帰るっ!」
そして館では……
「ど、どうしたというのだゲスラーは……」
「は、先ほどからこの姿勢のまま……」
「お、何かつぶやいておるぞ……」
「怖いよぅ…… ごめんなさぃ…… 許してぇ……」
「な、何があったというのだ……
護衛たちはどうした!」
「ははっ! 坊ちゃまとおなじような状態でございまして……
こちらは揺すろうが叩こうが目を覚ましません」
「な、何が起こっているんだ……」
そして30分後。
(ダイチさま、商業ギルドで動きがあります)
「音声を聞かせてくれるか」
(はい)
『おかしい……
もう1刻以上も経つのになんで野郎共が帰ってこねぇんだ……』
『拷問に手間取ってやがるんですかね?』
『いや……
まさかあいつら、お宝持って逃げたんじゃねぇだろうな……』
おい! お前ぇら様子を見て来い!』
『へい!』
「ははは、まだ来るんかよ。
ストレー、この建物に侵入しようとしたら、現行犯で収納だ」
(はい)
さらに30分後。
『おかしい……
もう1刻も経つのに野郎共が帰って来ねえ……
まさかあいつら……
おい! お前ぇら様子を見て来いっ!』
「あははは、傭兵ギルドもか……
ストレー、やっぱりこいつらも不法侵入を試みたところで現行犯逮捕な」
(はい)
「テミス、商業ギルドと傭兵ギルドのギルド長も、もう有罪確定でいいな」
(もちろんです)
「それじゃあストレー、両方のギルド長も収納してくれ。
それからギルド内の倉庫の中身も全部収納だ」
(畏まりました)
「それが終わったら、領主館の倉庫の中身を全て収納だな」
(あの、領主一族は収納しなくともよろしいのですか?
それから邸の中の財産は)
「領主はまだ俺に直接の犯罪行為を行っていないからな。
それに邸内の財産と言っても大したものは無いだろうし」
(了解いたしました)
「シスくん、これからはゴンゾ准男爵邸の様子もチェックしておいてくれるか」
(はい)