*** 77 ゴンゾ領の混乱 ***
ダンジョン村内刑務所にて。
宿屋ギルド長の場合。
「な、なんだここは……
それになぜわしは裸でこのような狭苦しい部屋にいるのだ……」
(お知らせします。
ここはダンジョン村刑務所です。
あなたは現住建造物等放火教唆と、戦場外複数殺人、並びに複数殺人教唆の罪で逮捕投獄されました。
刑期は終身刑です)
「な、なんだと……」
(日に1回30分の運動と2回の食事は保証されますのでご安心ください)
「わ、わしは宿屋ギルドのギルド長だぞ!
このようなマネをして許されるとでも思っているのか!」
(はい。思っています)
「な、なに……」
(なにしろこの措置は、神界の了承を得た上でのダンジョンマスター様のご指示ですので。
たかがギルド長から見れば雲上人でしょうから、理解出来ないかもしれませんが。
それではごきげんよう)
「…………」
商業ギルド長の場合。
「な、なんだここは……」
(あなたは詐欺、複数殺人教唆、戦場外複数殺人の罪で逮捕投獄されました。
刑期は終身刑です)
「な、ナイフは…… 鉄のナイフはどこへやった!」
(もちろん没収されています。
あのような稚拙な詐欺で、ダンジョンマスターさまから物資を取り上げられるとでも思っていたんですか?)
「な、なんだと……」
(それではごきげんよう……)
「ま、待てっ!
こ、このようなマネをしてタダで済むと思っているのか!
わたしは准男爵領の商業ギルドマスターだぞ!」
(今はただの囚人ですよ?)
「!!!」
(それではさようなら)
傭兵ギルド長の場合。
「なんだここは!
俺の服をどこへやった!」
(あなたは戦場外複数殺人と複数殺人教唆の罪で逮捕投獄されています。
刑期は終身刑です。
念のため申し添えておきますが、罪が重すぎるため保釈も恩赦もありえませんのであしからず)
「バカめ!
俺の下には荒くれ傭兵どもが15人もいるんだぞ!
お前たちはそ奴ら全員を相手にするというのか!」
(あの、その方たちも全員がこの刑務所に収監されていますが?)
「!!!」
(ですから、いくら待っても誰も助けに来ませんよ。
それに、もしゴンゾの街に戻っても傭兵ギルドの倉庫は賠償金の支払いのために空になっていますので、あなたはゴンゾ准男爵に処刑される運命です)
「な、なんだと!」
(ですから、ここに居た方があなたの命は保証されますね)
「…………」
「ねえ、タマちゃん」
「にゃ?」
「やっぱりさ、真正の犯罪者ほど、自分が罪を犯していたっていう意識は無いんだね……」
「にゃ♪」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝の准男爵邸内にて。
「ゲスラーの様子はどうか」
「はっ、昨日と同様でございます」
「そうか……」
「あの、意見を申し上げてもよろしいでしょうか……」
「許す」
「坊ちゃまの症状は『初陣病』に似ております」
「あの初陣の兵士が戦場で苛烈な体験をして心を病んでしまう病気か」
「はい……」
「あれは治らん者も多いそうだな……
もしくは再び戦場に行っても全く戦えずにすぐ殺されてしまうとか……
そうか、それではゴンゾ家の存続のために、廃嫡も考えねばならんか……」
「…………」
「あやつもあと2年で成人だ。
それまでに治らんようならば、子爵閣下邸でのお披露目に出すわけにはいかんの……
それまでに、領兵隊の訓練に参加させて治るかどうか見てみよ」
「はっ」
「ところで護衛の兵は?」
「ようやく目を覚ましたのですが、何を言っているのか判然としません。
坊ちゃまと似たような状態でございます。
ですが尋問を続けた結果、どうやら15歳ほどの少年1人にやられた模様で」
「領民か?」
「いえ、どうも孤児たちと一緒にいた余所者のようです。
また、ようやく地面に降ろすことが出来た衛兵によると、やはり15歳ほどの男が孤児の内の2人と一緒に街に入る際に、衛兵10人の腕を切り落として不可思議な力で宙に浮かべたとのことです」
「同一人物か……
それに衛兵10人の腕を切り落としただと。
銅剣でも持っていたのか?」
「いえ、無手だったと……
さらには衛兵の交代時間に、仲間を降ろそうとしていた衛兵がやはり余所者に襲われて腕を切り落とされ、宙に吊るされたそうで……」
「領兵に命じてそ奴を探させろ。
街内はもちろん、街周辺もだ。
隣領のブルガ准男爵が派遣して来た刺客かもしれん」
「はっ!」
「それから東方面を縄張りにする盗賊共に触れを出せ。
この街から出てビゾルム男爵領に行くものは全て殺せと。
この街の騒ぎを男爵に知られるわけにはいかん」
「ははっ!」
その日の昼過ぎ。
「なにやら街内が騒がしいようだが……
何が起きているのだ」
「はっ。
薪ギルドに街民が集まって騒いでおります」
「なぜだ」
「どうやら薪ギルドの薪が全て無くなっているようで……
今日は共同炊事場でパンを焼く日なのですが、薪が無くパンが焼けないために、街民が薪ギルドに押しかけて騒いでおるのです」
「なぜ木を切って薪にしないのか」
「それが……
倉庫にあった薪も、乾燥場にあった木も、全て盗まれたということだそうです」
「なんだと……
そんな重いものをどうやって盗んだというのだ!」
「不明です」
「ならば多少煙が出るだろうが、すぐに木を切り出して薪にすればよかろう!」
「そ、それが、薪ギルドにあった全ての斧や鋸も無くなっておりまして……」
「なんと!
せっかく銅斧や銅鋸をギルドに独占させて、上納金を集めさせていたというのに!
その道具を全て失ったというのか!」
「はい、それに薪ギルドのギルド員たちもすべて手を切り落とされているために、例え道具があってもしばらく使い物になりません」
「なんということだ……
誰がそのようなことを……」
「やはり15歳ほどに見える余所者にやられたそうです」
「ま、まさか上納金も盗まれたのか!」
「はい……」
「ええい!
昨日焼け落ちた宿屋ギルドの上納金はどうなっている!」
「そ、それが……
敷地内にあった倉庫は焼けなかったのですが、倉庫の中は空になっていたそうで……」
「な、なんだと……
子爵閣下への上納金納付期限まであと40日しかないのだぞ!
そ、そうだ。
農業ギルドと商業ギルドと傭兵ギルドと盗賊団に査察に入れ!
上納金の準備状況を調べるのだ!」
「ははっ!」
その日の夜。
「じ、准男爵閣下にご報告申し上げたく……」
「許す」
「農業ギルドの上納金貯蓄状況は、大不作のために30%ほどしか無いそうです……」
「30日後までに100%上納出来なかった場合には、ギルド長は縛り首だと伝えろ」
「はっ。
そ、それから商業ギルドは、ギルド長を始めとしたギルド員が全員行方不明になっておりまして、上納準備倉庫の中も空になっておりました。
傭兵ギルドも同様でございます……」
「な、ななな、なんだと……
そ、それでは上納金準備状況は……」
「は、薪ギルドと商業ギルド、傭兵ギルドと宿屋ギルドはゼロでございます。
現時点では農業ギルドの30%しかございませんので、全体では10%ほどにしかなっておりません。
また、盗賊たちの下には兵を派遣しましたが、帰りは明朝になります」
「なんということだ……
幸いにも蓄えた我がゴンゾ准男爵家の資産があるが……
そ、そうだ!
ね、念のため邸の倉庫も調べよ!」
「はっ!」
「ま、待て!
今から調べると灯りのたいまつの火が燃え移って火事になるかもしれん。
明日早朝より調べよ!」
「ははっ!」
翌朝。
「ゴンゾ准男爵閣下! た、たいへんです!
邸の倉庫の中が空になっておりました!」
「な、なななな、なんだと!
ほ、歩哨は何をしていたっ!」
「そ、それが……
昼も夜も交代で歩哨を置いておりましたが……
盗賊どころか何の物音もしなかったそうであります」
「ええい!
すぐに衛兵隊と領兵隊を下手人の捜索に出せ!」
「あの……
領兵はともかく、衛兵は全員が腕を切られておりまして……」
「腕が無くとも足はあるだろう!」
「は、はっ!」
「よいか! これは我がゴンゾ准男爵領の存亡の危機なのだぞ!
草の根を分けてでも下手人を探し出せっ!」
「ははっ!」
その日の昼頃。
「なんだ、なぜ邸が臭いのだ……
家令をよべ」
「ただいま参りました准男爵閣下」
「おい、何故邸が臭いのだ」
「じ、実は汚穢の匂いがしているのは邸だけではございません。
街中が匂っております」
「なぜだ!」
「街中の便所内より汚穢が溢れ出て来ているのです。
お屋敷の便所からも……」
「街の汚穢役人は何をしておる!」
「そ、それが…… 行方不明でして……」
「ならば孤児どもに汚穢処理を急がせろ!」
「そ、その孤児たちも行方不明でございます」
「孤児共がいないだけでこのような匂いが充満するのか!」
「はい……」
「ええい! 窓を閉めよ!」
「は、はいっ!」
翌日。
「あ、あの……
盗賊団の下に派遣していた領兵が帰還したのですが……」
「上納金はどうなっている!」
「街より西の2つの盗賊団は全員行方不明になっておりました。
隠れ家の中にも何も残っておりません。
また東の盗賊団も、旅人や行商人が激減しているために、上納金は10%しか用意出来ていないと……」
「ええい! どいつもこいつも役立たずめが!」
3日後。
「ま、まだ下手人は見つからんのか……」
「はい……」
「それにしてもおかしいではないか!
金貨や銀貨だけならともかく、薪ギルドの薪や木まで盗まれておるのだぞ!
また、我が邸の倉庫には、小麦の蓄えもあったはずだ!
それだけの品を持ってどこに隠れているというのだ!」
「あの……
傭兵ギルドの下っ端職員の証言なのですが……
その余所者は、ウルフ50頭の死体を入れられるほどの容量の『アイテムボックス』を持っていたそうであります」
「!!!」
「ですから、隠匿や潜伏は容易かと……」
「それならば、余計にくまなく探せ!
それだけの容量の伝説級の品なら、優に10年分の上納金に匹敵するはずだ!」
「ははっ!」
「はは、准男爵サマもだいぶパニくって来てるね」
「うにゃ♪」
「それにしてもさ。
倉庫が空になったのは、配下のギルド長たちの犯罪行為の賠償金支払いのためだって、気づかないのかな?」
「ヒト族の支配階級にとっては、あれぐらいは当たり前のことで、犯罪をさせていたっていう意識はにゃいんじゃにゃいかな?」
「それもそうか……」




