*** 30 製材作業 ***
2時間後、ダンジョン入り口前広場にはさまざまな木が500本並んでいた。
(ダイチさま、これでよろしかったでしょうか)
「おおシスくん、ご苦労さま。たいへんだったろ」
(いえいえ、ダンジョン内の作業でございますので、さほどに労力は必要ではございません)
「それじゃあこれから俺が木を分類していくから、果樹は植えて役に立ちそうな木は材木や薪にしよう。
それじゃあ端から順番に見て行くか」
『鑑定Lv5』『植物学Lv5』常時発動。
<リンゴもどきの木。やや小さいが地球のリンゴに似た実が生る>
「おっ、この木は多めに欲しいな。
シス君、この木が生えてた場所は記録してるか?」
(はい)
「そこは現地住民の果樹園とかじゃないよな」
(不明です)
「そうか、それじゃあその一帯を半径100メートルの範囲でダンジョン化してくれ。
それでもしヒューマノイドの気配が無かったら、これと同じ木を100本ほど採取しておいて欲しい。
あまり隣り合った木は採取せずに、少し離れた木を集めてくれ」
(畏まりました)
「このリンゴもどきの木はどこに植えようかなぁ」
(あの、川向こうの森林を伐採してその果樹園というものをお作りになられたらいかがでしょうか?)
「いいなそれ。
それじゃあ川向こうを500メートル四方ほどダンジョン化して、木を根ごと5本ばかり持って来てくれるか」
(はい)
間もなく直径2メートルほどの2種類の木が届けられた。
<クヌギもどきの木:地球のクヌギに酷似。建材や薪や木炭原料として最適>
「おお、これいいな。
それにしてもクヌギって、こんなに太く大きくなったっけか?」
(あの、たぶんではございますが、ダンジョンから出るマナによって大型化したと思われます)
「なるほどな。
っていうことは、果樹を植えても良く育つかもしれないっていうことか」
(はい)
<ヒノキもどきの木。地球のヒノキに酷似>
「ほほー、こいつは建材だな。
それにしてもデカイわ。
それじゃあ果樹園ダンジョン予定地の木を全部除去しよう。
あ、因みにダンジョン内に『時間停止の収納庫』って作れるのか?」
(い、いえ、作ったことはございませんが……)
「ジャッジ君」
(はい)
「ダンジョン内に時間停止収納庫を作れるか?」
(はい可能です)
「いくらだ?」
(100メートル四方につき1000ダンジョンポイントで如何でしょうか)
「よし、それ作ろう。
シス君、100メートル四方の果樹用の時間停止収納庫を作っておいてくれ。
あと、食料保存用の100メートル四方の時間停止収納部屋も1つ。
そうだな、木材乾燥用の普通の部屋も100メートル四方で1つ作ろう」
(は、はい)
「おーい、モンスターたち、集まってくれるか」
「「「 お待たせしました 」」」
「これから俺は、あの川向こうの森を開墾して、代わりに果樹園を作ろうと思う」
「かじゅえん…… ですか?」
「そうだ。旨い実をつける木をたくさん植えてみたい。
タマちゃん、リンゴや柿や梨やみかんって持ってる?」
「あちしの収納庫に300個ぐらいは入ってるにゃ」
「すまないけど、それ出してもらえるかな。
あとで淳さんに言って、季節ごとに大量に買い足しておこう」
「うにゃ」
みんなの前に段ボール箱に入った果物が大量に出て来た。
「よーしみんな、ひとり1個ずつ取ってくれ」
皆、珍しそうに果物を眺めたり匂いを嗅いだりしている。
「全員に行き渡ったかな。
それじゃあ喰っていいぞ。
あ、ゴーレムは無理しなくていいからな
おいおい、それはみかんって言って、皮を剥いて食べるものだぞ!」
「な、なんだこれは……」
「旨い……」
「こ、こんな旨い木の実があったのか……」
「どうだ旨いだろう。
でもそれらの木の実は旨いだけじゃあなくって、栄養があるから体にもいいんだ。
ということで、俺がこれから作ろうと考えている果樹園とは、それらの木の実を大量に得るために、果物を生やす木をたくさん植えた場所のことなんだ。
実が生るのは1年に1回だけど、時間停止の収納部屋があるから、上手くいけば1年中そうした木の実が食べられるようになるぞ」
(はは、みんな気合の入った顔になってるわ……)
「それじゃあ、これから俺と戦うスライム族とケイブバット族以外は、シスくんを手伝ってやってくれ。
シスくんが川向こうの森の木をここに転移させてくれるから、きみたちはその木の枝を払って根の部分を切り落として欲しい。
シスくん、まずはクヌギとヒノキをあと5本ずつ転移させて来てくれるか。
根の周りの土はその場に落としてきてくれ」
(畏まりました)
「あの…… マスターさま……」
「おお、ハーピー族の族長か。どうした?」
「あの…… わたくしどもはあまり力が無いので、木を切ったりすることではお役に立てないんですが……
ですが、わたくしは『風魔法』が使えますので、枝を落とすのに魔法を使ってもよろしいでしょうか……」
「もちろん構わんが、ついでに誰かを切り刻んだりしないように気をつけろよ」
「は、はい」
「もっとも入り口前広場はダンジョンにしてあるから、死んでもリポップされるか。
でもまあ気をつけろ」
「か、畏まりました」
「それなら、まずそこにある木の先を川の方に向けてくれ。
ハーピー族の族長、川に向かって枝払いを頼む」
「はい」
「おおー、見事なウインドカッターだ。
みるみる枝が落ちて行くじゃないか!
さすがだな」
「あ、ありがとうございます……」
「よし、それじゃあみんなでその木を回転させるんだ。
反対側の枝も払いたいからな。
そっとだぞ、木が急に回転して潰されないように、全員が同じ方向から押して回すんだ。
そうだ! 上手いぞ。
それじゃあハーピー族族長、こっち側も枝払いを頼む」
「はい!」
「同じようにもう一本も枝払いしてくれ。
ハーピーの族長が疲れたら、みんなでこの斧や鉈を使って枝落としをする。
まず根を落とそうか。
これだけ太い木だと根っこより上の部分を切るのは大変だから、最初は斧を使って根の部分を落として行くぞ。
この斧を使うんだが、使い方はわかるか?」
モンスターたちが首を横に振っている。
(まあ、みんな今まで木を切ったことなんか無かっただろうからなぁ)
「それじゃあ俺がやってみるからよく見ていてくれ。
こんな風に両手でしっかり握って刃を切りたい部分に対して垂直に当てるんだ。
そうだな、最初はこの細い木を2本処理して、それを土台にしよう。
上に乗せた木を切るときに動かないように、土台の木には斧で切り込みを入れておくか。
それじゃあまずは大柄な種族の族長たちでこの木の根を落としてくれ。
そうだ、上手いぞ」
「あの、マスター殿、戦闘形態になってもよろしいか?」
「ん?」
「い、いえ、もちろん叛意があるわけではござらぬ!
その方がより力が出ると思いましての」
「もちろん構わんぞ。
わはははは、すげぇ力だ!
根がみるみる落ちて行ってるぜ!
さすがだわ。
でもあんまり無理しないでいいぞ。疲れたら部下と交代してくれ。
根が落ちたら反対側の木が細くなってるところも落とすんだ」
「「 はい! 」」
「それじゃあ他のみんなは枝を細かくするぞ。
まずは鉈を使って大きな枝から落としていくんだ。
こんなふうに。
小柄な種族は枝から葉を落としてくれ。
シスくん、ここに葉を溜めておく穴を開けてくれるか?」
(はい)
「葉が落ちたら、今度は鋸でこんなふうに枝を短くしていくんだ。
枝をあの竈に入れて燃やせるぐらいの大きさにするんだぞ」
「「「「 はい 」」」」
「それから、次は切り落とした根を斧で割ったり鉈で小さくしていってくれ。
これも竈で燃やす薪にするから、竈の中に入る大きさにするんだ。
出来た薪はだいたいでいいから大きさごとに分けて、その辺りに積み重ねてな。
シスくんはある程度薪が溜まったらダンジョン内の部屋に転移させておいてくれるか」
(はい)
「そうそう、川向こうの果樹園予定地の隅に、直径5メートル、深さも5メートルぐらいの穴をいくつか掘って、溜まった葉は後でそこに転移させよう。
穴がいっぱいになったら軽く土を被せて水を撒いて、腐葉土を作ってみようか」
(畏まりました)
それにしても、これだけ人手、い、いやモン手があるとラクだなぁ。
みんなが慣れてくれば、かなりの勢いで開墾が進むわ。
しかもパワー系のモンスターや、手先が器用そうなモンスターもいるし。
あとは作業を教えてやればいいのか。
でも、仕事をして貰いながら、その仕事が旨い食事に結びつくってわかってもらえれば、もっとモチベーションが上がるだろうな。
その辺りが俺の役割なんだろう……
(ふふ、なんかダイチ楽しそうにゃ……
それにしても、見事な行動力と判断力と統率力にゃあ。
さすがはコーノスケの孫だけのことはあるにゃ……)
(な、なんじゃこの男は……
貴重なダンジョンポイントを湯水のように使いおって……
それにモンスターたちが皆すっかり従順になっておる……
しかもなにやら楽しそうじゃ。
やはり皆、仕事が出来たのが嬉しいのかのう……)
「それじゃあみんな、俺はあちこちから持って来た木の選別をしてるからな。
今の調子でそのクヌギとヒノキの木の枝と根を落としておいてくれ。
なにか分からないことがあったら聞きに来るように」
「「「「 はい! 」」」」