*** 29 穀物粥 ***
翌朝、大地は身支度を整えると小型の寸胴に配合飼料と水を入れた。
「それじゃあタマちゃん、『浸透』の魔法をお願い出来るかな」
「はいにゃ」
「おお-、すげぇ!
穀物がみるみる水を吸っていってるよ」
さてと、それじゃあ試しにこれを料理してみるかな。
この熱の魔道具を使えば煮ることも出来るわけね。
そうか、水分を熱して茹でるっていうよりも、水も含めた材料全体に熱を加えてるのか。
はは、電子レンジみたいだなぁ。
それじゃあスキル『料理Lv5』発動。
なになに、なんか頭の中に浮かんで来てるぞ。
そうか、『とんこつ味』と『醤油味』と『味噌味』のレシピがあるのか。
それじゃあまず醤油味で。
(何人分作りますか?)
はは、そんなことも聞いて来てくれるんだ。
さすがは『料理Lv5』だ。
まあ、多めに作ってここに置いておけばいいか。
「それじゃあ10人分で」
(畏まりました。
それではそこの小型寸胴をお使いください)
ふーん、出汁は昆布か鰹節か。
じゃあすぐ用意出来る昆布で……
まず別の寸胴に水を張って、昆布を固く絞った布巾でよく拭いて……
ああ、昆布は水の状態から入れるのね。
おお、昆布の横に数字が出て刻々と減ってるわ。
すげぇな『料理Lv5』、湯通しする時間まで教えてくれるんだ。
じゃあその間に他の材料や調味料を用意してと……
キャベツやニンジンやタマネギも入れるのか。
「タマネギはいらないにゃ」
「はいはい、玉ねぎ抜きね。ニンジンは?」
「少しならいいにゃ……」
「了解」
えーっと、キャベツは4分の1、ニンジンは1本ね。
醤油はこれぐらい、味醂はこれぐらい、塩もこれぐらいか……
すごいなこれ、計量カップも要らないのか。
えーっと、ブイヨンも味〇素も少し入れるんだ。
後は胡椒少量に隠し味で味噌少々ね。
それから……
よし、昆布を取り出したら配合飼料を入れて21分30秒茹でると。
その間、アク取りは小まめに……
よし出来た!
「ねえねえタマちゃん、味見してみようよ」
「うにゃ……」
「おお! これけっこう美味いぞ!
さすがは『料理Lv5』だ!」
「うぅぅぅぅ……」
「た、タマちゃんどうしたの?」
「こ、コーノスケが作ったのと、まったくおんなじ味にゃぁ……」
「そ、そうか……」
「美味しいにゃ……
またときどき作って欲しいにゃ……」
「うん……」
翌日の族長会。
「みな揃ってるな。それではまずシスくん」
(はい)
「地表ダンジョンはどうなった?」
(作業はすべて完了しております)
「そうか、問題は無かったか?」
(最初は多少手間取りましたが、慣れれば簡単でした。
なにしろダンジョンと認識するだけで、あとは何もしないで済むのですから)
「そうか、それはなによりだ。
それで、このダンジョンの周りの大森林は、東西南北どれぐらいに広がっていたんだ?」
(はい、南北はどちらの方向にも500キロほど、西方向も500キロほどですが、東には1500キロほど広がっていました。
森の外の広さから言って、このダンジョンは大陸のほぼ中央に位置していると思われます)
「そんなに広い森林なのか……」
(それにしても東にだけそんなに広がっているのか。
それって偏西風のせいかな?)
「ところで森の中にヒューマノイドの集落はあったか?」
(2つほど見つけましたが、どちらも完全に朽ち果てておりまして、無人でございます)
「なあ、なんで神界はこんな辺鄙なところにダンジョンを作ったんだろうな?」
(あの…… 推測でございますが、よろしいでしょうか……)
「もちろんいいぞ」
(500年前にこのダンジョンが出来たときには、確か周囲の森はこれほどまでに深くはなかったはずでございます。
せいぜい半径数十キロでございました)
「それがなんでこんな超大森林になっちまったんだ?」
(どうやらこのダンジョンから漏れ出るマナが、木の生育を促したようなのです)
「なるほど……
だからやっぱり偏西風に乗ってマナが広がり、東側の森林の方が大きくなったんだな」
(あの……
偏西風とは何でございましょうか……)
「この場所は星の中でも北半球の中緯度地方になるから、風は基本的に西から東に吹いてるんだよ」
(あの……)
「まあわからない言葉もいっぱいあるだろうけど、そのうち地球のネットも見せてあげるから、そこで勉強してくれ」
(はい……)
「ところで、森の中にヒューマノイドの街はあったのか?」
(いえ、街の痕跡はございましたが、すべて無人になっています。
大森林の周辺部には、それなりに集落らしきものもございましたが)
「そうか、鉄の斧が無くって青銅の斧や鋸だと木を切るのも大変だったわけだ」
(しかも、どうやら森の中の獣がやはりマナの影響で大型化、凶暴化しておるようです。
押し寄せて来る木々とこれら獣に押されて、ヒューマノイドは居住地を放棄していったのではないでしょうか)
「ということは森の外にはヒューマノイドたちの姿も見られたんだな」
(何分にも幅1メートルの地表ダンジョンでございますので、それほどの数は確認出来ておりませんが、それでも10か所ほどのヒューマノイド集落を発見しております)
「そうか。ご苦労さんだったな」
(ありがとうございます。
あの、ところで途中に生えていた木はどういたしましょうか)
「ん?
あ、そうか! ダンジョン内だから自由に転移出来るのか!」
(はい……
ですが…… その……)
「どうした?」
(木を伐採するのに1本当たり1ダンジョンポイント、この地まで転移させるのにさらに1ダンジョンポイントがかかるのです……)
「それはシスくんの稼働エネルギーになるのか?」
(い、いえ、わたくしの可動エネルギーは神界から与えられております。
このポイントは、ダンジョンとして伐採や転移という仕事をするためのものでございます)
「そうか。
ダンジョンは中にいる者の行為によってエネルギーを得るんだから、ダンジョンに仕事をさせるときにはポイントも必要になるのか」
(はい)
「ところで、伐採じゃあなくって根の周りの土ごと掘り起こすことは出来るか?」
(は、はい。それも同じ1ポイントでございます)
「それじゃあ君は柿やリンゴや梨なんかの果実の生る木はわかるかな?」
(いえ、申し訳ございません……
ダンジョンで作られたものではございませんので……)
「そうか……」
(ですが、見本を見せて頂けたら、以降は見分けることが出来ると思います)
「なるほどな。
それじゃあ地表ダンジョンに生えている木を、根の周りの土ごと500本ばかり転移させて来てくれるか。
なるべくいろいろな種類で人里から離れた木を頼む。
ダンジョンの入り口前広場もダンジョンにして、そこに並べてくれ」
(畏まりました)
「そうか、果樹じゃなくっても普通の木であれば材木や薪にも出来るか……
よし、後で道具を持ってくるから、今日は俺と戦う者以外のみんなで枝や根を落として貰おう。
妖精族」
「はいマスターさま」
「『乾燥の魔道具』って作れるか?」
「あの…… 『乾燥』の魔法を見せて頂いて、あと材料と魔石があれば……」
「材料はなにが要る?」
「木を少々頂ければ……」
「それならいくらでも使っていいぞ。
タマちゃんは『乾燥』の魔法を使えるかい?」
「使えるにゃ。
でもレベル8だとカラカラになってひび割れるから、レベル5にするかにゃ」
「じゃああとで妖精さんたちに見せてあげて」
「うにゃ」
「それじゃあ俺は収納部屋に行って、斧や鉈や大鋸を持って来よう。
あ、そうだ。
みんな、奥さんたちを連れてダンジョン前広場に集合するように言ってくれ。
料理の準備もしよう」
おー、いろんな種族の女性と子供たちが集まって来たか。
でもさ…… それにしてもさ……
戦闘形態じゃあなくって通常形態だと、みんなかなりヒト型に近いんだよな……
肌の色も白かったり淡いベージュ色や薄緑色だったりするけど、そんなに違和感は無いんだよ。
それがまたみんなおっぱい剥き出しなんだよなぁ……
中には15歳ぐらいに見える女の子もいるし……
うーん、なんでこんなところで精神修養しなきゃならないんだ俺は……
「そ、それじゃあ奥さんたち、まずは竈を作ろうか。
あ、竈ってわかるか?」
みんなふるふると首を横に振っている。
ついでにナニかも振れている。
ナニがとは言わないが……
「し、シスくんはわかるか?」
(申し訳ございません……)
「そうか……
あ、そういえば淳さんの『卒業レポート』に確か竈の作り方と絵が載ってたな!
収納くん、部屋の入り口を開けてくれるか?」
(はい)
その場に白い渦が現れた。
大地は渦を潜ってすぐに淳の『卒業レポート』を手にし、それ以外にも各種料理道具や材料を携帯型の収納袋に入れて戻った。
「シスくん、君はこのページに書いてあることは読めるか?」
(はい読めます。
あの、次のページも開いて頂けますか?)
「読むの早いな!」
(システムですので。
あ、はい。理解致しました。
それで、どのタイプの竈に致しましょうか。
石を置いて作る簡易型から粘土を使って作る本格型まであるようでございますが)
「うーん、本当は本格型を作りたいんだけど、粘土を乾かす時間がかかるだろ。
だからとりあえずは両方作って、今日は簡易型を使おうかと思うんだけど」
(あの、この場所は既にダンジョン領域になっておりますので、ご指定頂ければわたくしが土魔法で作れますが)
「おおそうか! 便利だなあ。
それじゃあ、この永久設置型の頑丈なやつを広場の隅に9個作ってくれ。
3つはこの大型寸胴用で、6つは中型寸胴用だ。
まだ薪が無いんで、上面にはこの熱の魔道具を嵌められるような窪みが欲しいな。
あと、寸胴の中身をかき混ぜたりするひとのために、焚口と空気取り入れ口がある場所以外の側面には、踏み台も作ってくれ」
(畏まりました。これでよろしいでしょうか)
「おー、完璧だな。
それじゃあ各竈を5メートルぐらい離して設置してくれ」
(はい)
「それじゃあ奥さんたち、これから夕食用の穀物粥を作る準備をするぞ。
まずは熱の魔道具と大型寸胴を竈に乗せるんだ。
それじゃあそこのミノタウロス族の奥さんたち、同じようにあと2つの竈に魔道具と寸胴を置いてくれるかな」
大柄なミノタウロス族が魔道具と寸胴を慎重に持って竈の上部に置いた。
「そうそう、それからこの袋の中身を寸胴の中に入れてくれるか?」
(袋には『配合飼料、養豚肥育用、20Kg』と書いてあるが、たぶん誰も読めないだろう)
「寸胴が倒れないように誰か押さえててくれ。
ところでシスくんは水魔法は使えるのかな?」
(はい、攻撃魔法は使えませんが、生活魔法でしたら一通り使えます)
「それじゃあ、寸胴内のこの辺りまで水を入れてくれ」
(はい)
「みんな、これは穀物に水を吸わせてるんだ。
そうすれば柔らかくなって食べやすくなるからな」
「あ、あの、マスターさま……」
「ん?」
「その袋の中身、とってもいい匂いがするだども……
少し味見させてもらってもいいだか?」
「はは、そうか。
それじゃあこれ一袋みんなにあげるから、全員で味見してみろ。
でもちょっと硬いぞ」
あー、ボアやブラックホース、ミノタウロスなんかのモンスターたちは美味しそうにポリポリ齧ってるな。
スライムも体の中に取り込んでるし。
でも、他のモンスターは硬くて苦労してるか。
やっぱり茹でて粥にしたほうがいいなぁ。
「この昆布も入れて寸胴には蓋をして置いておくぞ。
次は少しだが野菜を切っておこうか。
体があまり大きくないモンスター族のみんなは、このまな板に野菜を乗せて食べやすい大きさに切ってくれ。
切るのはこの包丁を使ってな」
「不思議な刃物ですね……」
「これはセラミックって言ってな、まあ粘土を焼いて作ったものだ。
今3本しか持ってないんで交代で使うように」
(あの、マスターさま、同じようなものならわたくしが土魔法で作れますが……)
「さすがシステムだな!」
(お褒めに与り恐縮でございます……)
「それじゃあみんなの体の大きさに合わせて各種サイズで作ってくれ」
(はい)
「切った野菜はこのボウルに入れてな。
シスくん、切り終わった野菜はこの時間停止収納袋に入れておくぞ」
(はい)
「朝の作業はこれぐらいだな。
シスくんに夕方5時になったら鐘を鳴らしてもらうから、そのときはまた集合してくれ」
「「「「「 はい 」」」」」




