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*** 28 実戦鍛錬 ***

 


 大地とタマちゃんは1階層に移動した。

 大地の目の前にはスライムが1体いる。

 戦闘形態になっているために、体が大きくなって色も少し黒っぽくなっていた。


(最初はレベル5の『鑑定』を常時発動して観察してみるか)



 *****************


 名 前:――

 出 身:アルス

 種 族:スライム族

 年 齢:1歳

 総合レベル:1


 *****************



「よし、かかって来い!」



 その場でふるふるしていたスライムが跳ね始めた。

 数回その場で跳ねた後、急に大地に向かって飛んで来る。


(まずは受け止めてみよう……)


 大地の胸に当たったスライムは、いったん身を引いてまたその場で跳ねている。


(ほう、HPが0.2減ったか……)



 その後も大地はスライムの体当たりを全て受けた。


(へー、当たった場所によってダメージが違うんだ……

 胸や肩は0.2だけど、頭部は1.0か……

 なるほどね)



「もっとどんどん攻撃して来い!」



 大地のHPが合計で5減ったとき、スライムが淡く光った。


(お、これってひょっとして……)




 *****************


 名 前:――

 出 身:アルス

 種 族:スライム族

 年 齢:1歳 

 総合レベル:2


 *****************



(やはりレベルアップか……

 あ、攻撃スピードも速くなって、1発のダメージも重くなってる……)



 大地はまたスライムの攻撃を受け続けた。


 大地のHPが15減った後、またスライムが淡く光って総合レベルが3になった。

 攻撃がさらに速く重くなる。


「今度は俺も何度かお前の攻撃を防ぐぞ」



 大地はスライムの攻撃を手で払ってみた。


(お、これパリィの訓練にちょうどいいな……

 もう少し続けて受けてみよう……

 そうか、パリィしてもHPは0.1減るんだ。

 よほど上手に受け流せば減らないみたいだけど……)



 やがて大地のHPの残りが1になった。

 頭の中でアラームが鳴り始めている。


(ダンジョン内での戦闘って、致命傷を受けて死ぬんじゃなくってポイント制なんだ……

 これなら痛くなくって死ぬのも楽かも。

 でもさ、やっぱりなんか死ぬのはちょっと怖いよな……)


 大地の視界の隅にエリクサーを持ったタマちゃんが見えた。


(はは、タマちゃんも少し不安だったのかな。

 それじゃあまあダンジョンシステムと神さまの加護を信じて1回死んでみますか……)



 スライムの攻撃がみぞおちに入ると、大地の体が白い粒子に包まれた。

 同時に意識が薄れていく。

 大地の意識が戻ったときには、時間停止収納部屋のベッドの上にいた。

 傍らにはもちろんタマちゃんがいる。



「やあタマちゃん、俺って死んだんだよね」


「そうにゃ……」


「死んでからどれぐらい気絶してたのかな?」


「ほんの10秒ぐらいにゃ。

 ところで気分はどうにゃ?」


「うん、爽快だよ。

 ダメージも残ってないみたいだし。

 あ、HPも全回復してて、上限も1上がってる!」


「実戦だとHPも上がりやすいにゃ……」


「これはいい鍛錬だなぁ」


「見ている方はちょっとツライけどにゃ……」


「まあ許してよ。

 ダンジョンの外で死なないためなんだから」


「うにゃ……」




 大地は1階層の部屋に戻ってイタイ子に告げた。


「次はレベル1のスライムを3体出してくれ」


「のじゃー!」


(い、今のって『らじゃー!』って言ったつもりなのか???)




 大地はスライム3体の体当たりを全て受けた。


 HPが16ほど減ってスライムが3体ともレベル2に上がると、次は体当たりを手で払ってパリイの訓練をする。

 その後はまた攻撃を避けずに受けまくってHPをゼロにした。



 大地は収納部屋で目を覚ますと、水分を補給しながら菓子パンを食べた。


(やっぱりHPを失うとお腹が減るんだな……

 それにしても、こうして小休止している間は、ダンジョンの時間は止まってるのか。

 はは、イタイ子やモンスターたちには、まるで死んだ俺がすぐに復活して戻って来て戦うように見えるんだろうな……)




 こうしてその日、大地は戦い続けた。


 死んだ回数は実に35回。

 HPが20増えるころには10体いるスライムたちのレベルも、全員が3になっていた。

 アルスの現地時間で18時になると鍛錬を終了し、皆でモンスター村に戻り、そこで大地は収納庫にあったありったけのジュースと菓子パンを配った。



「な、なんだこれは……」


「こんな旨い物があったのか……」


「こ、この味は何と言えばいいのか……」


「ああそれな、それは『甘い』っていう味だよ」


「『甘い』…… 初めて食べ申す……」



「お父ちゃんこれ美味しいね」


「よく味わって食べるんだよ」


「うん♪」



「あー、そこのゴーレムくん」


「はい……」


「そこの小さいゴーレムは君の子供か?」


「はい」


「なんか一口パンを齧っただけで顔をしかめてるんだけど、やっぱりゴーレムにとってはパンはマズイのかな?」


「も、申し訳もございませぬ……」


「いや、ぜんぜん構わないから気にするな。

 ところでゴーレム族にとってのご馳走ってなんなんだ?」


「あ、あの…… 主に岩石でありますが、中でも金属資源の鉱物が含まれたものがご馳走でございます」


「そうか。収納くん」


(はい)


「収納部屋に鉄鉱石があったと思うんだけど、100キロばかりここに出してくれないかな」


(はい)



「なあゴーレム、これはどうだ?」


「こ、こここ、これは…… 鉄を含む石っ!

 さ、最高のご馳走でありまする……」


「そうか、それはよかった。

 それじゃあ、その鉄鉱石は全部ゴーレム族に渡すから好きに喰っていいぞ」


「あ、ありがとうございます……」



 ゴーレム族の族長は、子供たちのために拳で鉄鉱石を砕いて小さくしていた。



「お父ちゃん、この石美味しいね♪」


「それを食べればお前の体ももっと大きく硬くなるぞ」


「わぁーい♪」




「他にパンを喰えない種族はいるか?」


 みんなふるふると首を横に振っている。


「それじゃあ俺は一旦地球に戻る。

 明日は朝8時から族長会だから遅れるなよ」


「「「「「 へい! 」」」」」



 収納庫に入って地球に転移した大地は淳に連絡して注文をした。


「ええ、果汁系のジュースを1万リットルぐらい用意しておいてください。

 はい、業務用の大型缶に入ったものでかまいません。


 それから菓子パンも甘い物中心に1万個ほど。

 もちろん1度の納入でなくとも構いません。

 淳さんの収納袋に溜めておいてください。


 それから鉄鉱石なんかの各種鉱石も100トンほど。

 ええ、時間がかかっても構いませんよ。


 あ、それからですね。

 それなりに高級な柔らかいソファセットを2つと、コーヒーのドリップセット、それからコーヒー豆に日本茶も多めに。

 ついでに日本茶用の茶器セットもお願いします。

 ええ、それほどは急ぎません。


 それではよろしくお願いいたします」




 時間がもったいないのですぐに収納部屋に戻る。


「そうそうタマちゃん。

 モンスターたちってマナさえあれば生きていけるけど、それでもやっぱり普通の食事で栄養も摂った方がいいよね」


「うにゃ、その方がいいにゃ」


「それでさ、なんか安くて栄養のある食材って無いかな?

 なんせ500体近くもいるし。

 じいちゃんはどんなものをモンスターたちに食べさせてあげてたの?」


「ふふ、そこにある袋の中身にゃ」


「えっ…… この袋、『配合飼料:養豚、肥育用』って書いてあるんだけど……」


「そうにゃ、それが日本で手に入る値段当たり栄養価が最も高い食料にゃ」


「そ、それってモンスターたちに食べさせても大丈夫なのかな?」


「家畜にヘンなものを食べさせると、食肉に大きな影響が出るにゃ。

 だからヒューマノイドに害になるようなモノは入っていにゃいにゃ」


「ほ、本当だ……

 原材料は、トウモロコシ、コーリャン、ふすま、大豆粕、菜種粕、米粉、魚粉、ビール粕、パンくず、おからだって……」


「普通はそれらの原料を砕いて捏ねて乾燥させたペレットで売られているんにゃけどにゃ。

 コーノスケは原材料をそのまま混ぜたものをシズタに作らせて買ってたのにゃ」


「で、でもこれさ。

 料理にしたとして味はどうなのかな……」


「それは『料理スキル』の出番にゃ。

 コーノスケはそのために『料理』のスキルをLv8まで取ってたのにゃよ」


「そ、そうか……

 それじゃあ今日は、この配合飼料を水に漬けておこう。

 明日柔らかくなったところで料理してみるか……

 あ、時間経過が無いから水につけても無意味なんだ……」


「明日あちしが『浸透』の魔法で水を浸みさせて柔らかくするから大丈夫にゃ」


「それじゃあよろしくね」


「にゃ」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 そのころアルスの中央大陸ダンジョンでは……


 皆が地球産の珍味を堪能しているモンスター村から、ダンジョンコア分位体のじゃロリが一人抜け出してダンジョンの外に出ていた。


 そのまま入り口のある岩山を昇って、頂上の岩に座り、そうして中天に差し掛かろうとしていた月を見ながら思っていたのだ。



(のう、初代ダンジョンマスターさまよ、いやさ父上よ……

 妾はどうすればいいのかのう……


 新任のダンジョンマスターは、どうやら今までの奴らとは全く違うようなのじゃ。

 ダンジョンの外に出てヒューマノイドのクニグニを調べるためと言って、猛烈な勢いでモンスターたちと戦っておる。


 戦いに敗れて死んだとしても、モンスターと同様ダンジョン内にリポップされるように神界に依頼したそうなのじゃ。


 おかげで奴もモンスターたちも、信じられぬ勢いでレベルやステータスが上がっておる。



 もしもあのとき……


 父上が下界にダンジョンを知らしめてくると言って、外に出て行ったとき……


 同じように神界に依頼して父上もモンスターと戦ってレベルを上げていたとしたら……


 いや、言うまい。

 あのときは妾も父上もそのようなことは全く思いつかなんだ……



 そうか……


 あやつが言っていた通り、『考える』ということはやはり重要なことなのかもしれぬの……


 妾もこれからは少し考えてみるとするか……



 それにしても父上よ。


 もう一度だけでも『花』と呼んでもらって『肩車』もしてもらいたかった……のう……



 コア分位体の目に映る月が歪んだ。


 そして膝を抱えて座る分位体のその膝には、ぽたぽたと涙のしずくがいつまでもいつまでも落ちていた……





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