第17話:修行へ
遊具広場が完成してから数日が経つ。
オレの作った遊具は連日、村の子どもたちに人気だった。
「ねえ、見てよ! マリアのパパより、高いところに登ったよ!」
「ボクもだよ、マリアのパパ!」
ロープ昇りをマスターした子どもたちは、嬉しそうに見せつけてくる。
最初は怖がっていたのに、すごい成長の早さだ。
「マリアも上手く、のぼれるようになったよ、パパ!」
なんとマリアまで、綱のぼりをマスターしていた。
顔に泥をつけながらも、笑顔で楽しんでいる。
こうして見るとマリアは運動神経がいいのかもしれない。
父親であるオレに似たのかもしれない。
これは密かに嬉しいことである。
よし。
今度また新たな遊具を増設して、バリエーションを増やしてやらないとな。
マリアの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
「遊ぶのもいいが、ちゃんと勉強もしておくんだぞ、マリア」
「うん、パパ!」
子どもは遊ぶのが仕事だが、将来のために勉強も大切。
一日のスケジュールを守るように、マリアに伝えておく。
ちなみにマリアたち村の子どもたちの一日のスケジュールは、次のような感じである。
――――◇――――
早朝:日の出と共に起床
↓
午前中は家の仕事を手伝う
↓
昼ご飯を家で食べる
↓
昼ご飯を食べたら、遊びの時間
↓
沢山遊んだら、勉強の時間。エリザベスに国語と算数を習う。
↓
勉強のあとは家の手伝いや、自由時間。
↓
夕ご飯を食べて、家の内職の手伝い。機織りや工芸品造りなど。伝統文化も学ぶ。
↓
早めに寝る。
――――◇――――
こんな感じのスケジュールだ。
こうして見ると気がついたかもしれないが、以前に比べて時間に余裕がある。
子どもたちが自由に遊べるようになったのだ。
これは村の生産性が向上した恩恵である。
最近は牛により、村の重労働が楽になった。
また村の青年団が闘気を開花して、格段に頼りになっていた。
そして何よりオレとエリザベスの存在がある。
王国にも数人しかいないレベルの覇気術使い。
その労働力は凄まじく、村には以前とは比べものにならないほど余裕が出来てきた。
これらのお蔭で、子どもたちの労働の時間が、格段に減らせることができたのだ。
「マリアちゃんが来てから、毎日が楽しいね!」
「そうだね! マリアちゃんと、マリアちゃんのパパが来てから、楽しいことばかりだね!」
「ご飯の量も増えて、幸せだよね!」
子どもたちが喜んでいるように、村の生活レベルは明らかに向上している。
オレが戻って来た時は、貧しさでガリガリの子どもも少なくなかった。
辺境の村の暮らしは苦しいのである。
だが今では食べ物に困る子どもはいなくない。
牛の飼育と森林の農地開墾による、食料の安定供給。
誰もが腹いっぱい食べられる村になっていた。
こうして笑顔があふれる村になったのだ。
「さて、オレも遊んでばかりいられないな。村長の家に行くとするか」
今日は久しぶりに呼び出しがあった。
どんな用件があるのであろうか。
オレは村長の家に向かうのであった。
◇
村長から村周辺での問題について相談される。
「なんだと、ジイさん。村の鉱山に、得体のしれない獣がいるだと?」
「ああ、そうじゃ。鉱夫のジョージが見たんじゃ」
この村の外れには、小さな鉱山があった。
鉱山といっても岩山にあった洞窟を、切り開いた簡易的なもの。
生産量も少なく、昔から村で使う鉄を使う分だけ掘っていたのだ。
「鉱山か……それはまずいな、ジイさん」
「ああ、そうじゃ」
鉱山が使えないとなれば、村での生活に支障が出てくる。
鉄はいろんな道具の材料となる。
鍋や包丁などの調理道具。
鎌や鍬などの農機具。
斧や鉈などの伐採道具など。
金属はあらゆる村の必需品に使われているのだ。
とにかく獣について、情報集をしておく必要がある。
「どんな獣か聞いているのか、ジイさん?」
「ジョージ話だと、細長くて大きい影を見たという……“シュルシュル”という鳴き声を聞いて、怖くて逃げてきたじゃと」
なるほど。
鉱山の中は薄暗い。
足場の悪い鉱山の中で、そんな不気味な獣を見たら、誰でも逃げ出す。
逃げてきたジョージの判断は、間違っていない。
「よし。そいつの退治は任せておけ、ジイさん」
「おお、やってくれるのか、オードル⁉」
「ああ、金属は村の生活でも大事だからな」
最近はマリアも食事を、上手く作れるようになってきた。
お陰で新しい調理鍋も、欲しいと思っていたところだった。
マリアの美味しい料理を食べるために、獣ごときで断念するわけにいかない。
「じゃあ。鉱山に行ってくる」
「ああ、頼んだぞ、オードル!」
こうして鉱山の謎の獣退治に、オレは出かけるのであった。
◇
「さて、その前に、アイツ等にも声をかけていくか」
鉱山に向かう前に、ある人物の所に寄ることにした。
村長の家から、自宅に寄っていく。
「おっ、いたな。エリザベス、出かけるぞ」
その人物は女騎士エリザベス。
村の仕事を終えて、暇そうにしていたエリザベスに声をかける。
今日は日曜日で学校がない日。
教師役のこいつは、後は村の仕事はないのだ。
「オードルと出かけるだと⁉ デ、デートの誘いか⁉ ああ、もろんだ!」
外出を聞いて、エリザベスは満面の笑みを浮べる。
ここに来てから彼女は、村の中しか出歩いていなかった。
久しぶりの柵の外に出られると、喜んでいるのであろう。
「武装も簡単にしておけ」
「武装だと⁉ デートではなかったのか……」
エリザベスは何やら勘違いしているが、今回は獣退治である。
「当たり前だ。狭い場所にいく。動きやすい装備にしておけ」
「デート、無念……だが、オードルと出かけられるのは、嬉しいぞ! よし、剣と短剣を用意してくる!」
やけに残念そうにしていたが、エリザベスは腕利きの騎士。
気持ちを切り替えて、出かける準備をし始める。
ちなみに鉱山に潜入することは、まだ言わないでおく。
何故ならその前に、もう一人、同行者がいるからだ。
《フェン……どこにいる? 美味い干し肉があるぞ》
《聞こえているワン! 今すぐダッシュで向かうワン!》
もう一人の同行者はフェン。
念話で誘ったら、風のように駆けつけてきた。
エリザベスも準備を終えてきて、全員が勢ぞろいする。
「という訳で、この三人で鉱山に獣退治に向かう」
「鉱山に獣退治だと? 私は問題ない。だがオードル、なぜ子犬のフェンも連れていくのだ?」
フェンが白魔狼であることを、エリザベスはまだ知らない。
見た目は小さな子犬。
不思議に思うのも無理なないであろう。
「という訳だ。フェン、そろそろ、打ち明けてもいいぞ」
『分かったワン! よろしく、エリザベス!』
オレの指示を受けて、フェンが口を開く。
いつもの犬の鳴き声ではなく、共通語である。
「フェ、フェンが喋った⁉」
まさかの普通犬だと思っていたフェンからの、流暢な共通語。
エリザベスは目を見開いて驚く。
「今まだ内緒にしてすまない、エリザベス。実はフェンは上位魔獣の白魔狼族の……」
驚くエリザベスに、フェンの事情を説明する。
フェンは上位魔獣の白魔狼族の子供だと。
両親を黒魔狼族に皆殺しにされた孤児。
大きく強くなるでは村では、白犬として育てていると。
この話はもちろん誰にも聞かれないように、周囲の気配は探知済みである。
「そんな……こんなに幼いのに……家族を皆殺しにされて……なんと可哀想な……フェン……」
オレの話を聞きながら、エリザベスは号泣していた。
いつもは天真爛漫なフェンに、そんな辛い過去があった。
共感して涙を流しているのだ。
「だから、エリザベス。今後もフェンのことを、村のみんなに内緒にしておいてくれるか?」
「ああ、もちろんだ! フェンのことは、このエリザベス・レイモンドに任せておけ!」
共感したエリザベスは、フェンを抱きかかえて誓った。
共に戦う戦士として、仲良く暮らしていくことを。
抱きかかえるついで、フェンのふかふかの背中に顔をうずめている。
「あと今回の鉱山の獣退治は、オレは戦わない。フェンとエリザベスにしてもらう。これは修行の一環としてな」
フェンのことを鍛えると、出会った時に約束をしている。
だから今回の獣退治は、うってつけのタイミング。
エリザベスは同行者ということで、頑張ってもらうことにする。
こいつも丸太相手に斧を振るうだけでは、剣の腕が鈍るであろう。
『修行! やったワン!』
「私も構わない。だがオードル。たかが獣が、我々の相手になるとは思わないが?」
エリザベスの指摘は、もっともである。
2歳児とはいえ、フェンは上位魔獣の白魔狼。
エリザベスも王国でも、数本の指に入る剣の達人。
大型でも普通の獣程度では、この二人には修行にはならないのだ。
「その心配は無用だ。鉱山に入れば分かる」
鉱山の謎の獣の正体には、ある推測があった。
それが当たっていれば、二人のいい修行相手になるのだ。
「さあ、いくぞ」
こうしてオレたち三人は、鉱山に潜入していくのであった。
◇
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今後も頑張って書いていきます。
また途中までの感想や評価などあれば、お気軽にどうぞです。
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ではでは。
作者ハーーナ




