アフターエピソード4:オードル傭兵団 vs 戦鬼オードル(前編)
オードル一家が帝国に引っ越してきたから、月日が経つ。
帝都での暮らしは順調に進んでいた。
マリアは帝国大学に、毎日楽しそうに通っていた。
興味がある分野の研究室に入り、熱心に研究に励んでいる。
上位学園に通うニースも順調。
毎日、マリアと楽しそうに学園へ登下校していた。
上位学園のクラスメイトであるクラウディア、いつの間にかニースも仲良しになっていた。
マリアを含めた三人で、いつも楽しそうにランチしている。
他の三人も順調。
リリィは帝都のパン屋での修行の毎日。
家の家事もしながら、充実した日々を過ごしている。
エリザベスも帝国騎士団で、修行の日々に励んでいる。
猛者ぞろいの帝国騎士団の中でも、今では上位ランクに食い込むようになっていた。
噂によると“剣姫エリザベス親衛隊”なる信者が、帝国軍の中でも密かに出来ているという。
最後にフェン。
相変わらず元気だ。
そして相変わらず食いしん坊。
どこにいってもマイペースな日々。
もしかしたら我が家の中では、コイツが一番の大物なのかもしれない。
◇
そしてオレも元気にしていた。
数日前から帝都を離れて、今は帝国内の国境最前線に来ている。
目の前に広がるのは、草木が所々生い茂る荒野。
この先がオレの今回の場所だ。
「さて、あそこの砦だな」
荒野の向こうに見えるのは、小さな砦。
夕暮れ前ということもあり、夕飯の準備の煙が上がっている。
「はぁ……はぁ……ようやく、追いついたわ、オードル」
少し遅れて到着したエリザベスが、息を整える。
今回も勝手に付いてきたのだ。
「あれが連中の……オードル傭兵団がいる砦なの?」
「ああ、そうらしいな」
今回の目的は、オードル傭兵団の元部下たちに会うこと。
連中とは前回のバーモンド領の戦いの時も、ちゃんと挨拶ができなかった。
だから帝都を少し離れて、元部下の顔を見にきたのだ。
ちなみマリアたちの警護は、フェンが見ている。
あともう一人、別の者に警護を頼んできた。
何か面倒なことがあっても、対応してくれるプロ。
だからオレは安心して帝都を離れてきたのだ。
「ねぇ、オードル。前回より傭兵団の規模が、小さくなっていない? あの雰囲気だと?」
エリザベスが不思議に思うのも無理はない。
前回のバーモンド領に侵攻してきた時、オードル傭兵団はかなりの大規模だった。
だが砦には三分の一程度に、規模が縮小しているのだ。
「そうだな。おそらく選定したのかもしれないな」
オレが消えロキが団長代理になってから、オードル傭兵団は規模を拡大していった。
戦力的に増加したが、結果として質が低下していた。
だから魔女との戦いの後に、大幅な部隊編成があったのであろう。
昔のように少数精鋭に戻ったのだ。
こうして遠目に見ているだけで、部隊の質が向上しているのが分かる。
「なるほど、そういうことね。じゃあ、さっさと行きましょう。皆に会いに行くんでしょ?」
「そうだな。だが普通に会いに行っても、“面白く”ない」
元団長であるオレが身分を明かしていけば、誰もが歓迎してくれるであろう。
だが果たして、それは正解とはいえるのか?
傭兵には、傭兵らしい荒い再会が美徳とされているのだ。
「ん? そうだ……武装」
名案が思い付いた。
女鍛冶師ヘパリスに貰った、左腕の腕輪の魔道具。
起動して変化させる。
「えっ⁉ 急に完全武装して、どうしたの? それに、その格好って⁉」
エリザベスが目を見開いて、驚くのも無理はない。
魔道具を展開して、オレが完全武装状態になっていたのだ。
顔まで隠す、黒銀色の全身鎧。
両手に巨大なハンマーを装備。
形もかなり禍々しく、どう見て“悪い奴”にしか見えないのだろう。
「オレはこれから“挨拶”にいってくる。少し危ないから、エリザベスはここで見ていろ」
「あ、挨拶って……もしかして……?」
「ああ、そうだ。傭兵流の挨拶。今のアイツ等の腕を知るには、これが一番だ。じゃあな」
エリザベスに説明して、一気に駆け出す。
向かうは、オードル傭兵団が根城にしている砦。
一直線に砦に向かって駆けていく。
完全武装の巨漢による突撃。
明らかに不審人物だ。
さて、ここから、どう反応してくるかな?
「……何者だ? 止まれ?」
しばらくして、立ちはだかる者たちが現れる。
黒ずみの武装集団。
おそらく砦の周囲に展開していた、哨戒の隠密衆の奴らだ。
「いい反応だな。ロキの教育が行き渡っているな。覇ぁああ!」
感心しながらも隠密衆の連中を、ハンマーで吹き飛ばしていく。
もちろん手加減はして、気絶させただけ。
命の心配はない。
さて、この後はどうなる?
「今の警告音は、何だ⁉」
「おい、見ろ! 敵襲だぁああ!」
「南東から、何者が接近してくるぞぉ!」
ほほう、今の隠密衆が、倒れる直前に煙幕を上げていたのか。
警告の信号。
反応して砦の見張り台が、大きく騒ぎだして。
「いい反応だな。訓練が行き届いているな」
隠密衆と見張り台の見事な連携。
思わず口元が緩む。
「さて、次のコレには、どう反応してくるか?」
荒野にあった岩石を、手に取る。
かなり巨大な岩だが、闘気術を使ったオレに軽いモノだ。
「投ぉおお!」
そのまま一気に、岩石を投擲。
狙うは砦の正面入り口だ。
ヒューーーン、ドッガァアアン!
放物線を描いた投石が、見事に命中。
木っ端みじんに、城門が吹き飛ぶ。
もちろん人員には被害が出ないように、細心の注意でコントロールしている。
城門を一撃で破壊され、傭兵団が大きく動き出す。
「バ、バカな……あの距離から投擲だと⁉」
「そ、それに、こんな巨大な岩を⁉」
「相手は単騎だが普通ではない! “警戒レベル四”……いや“警戒レベル五”の相手だぞ!」
「大隊長たちを呼んでこい!」
「それまで遠距離で、時間を稼ぐぞ!」
今の攻撃を受けて瞬時に、相手の驚異度を判断していた。
情報を共有して、対応を変更している。
「ほほう。これも良い判断だな」
これも思わずニンマリ。
戦場において、時には“尋常ではない敵”にも遭遇する。
そのためオードル傭兵団では、警戒レベルを何段階に分けていた。
中でも“レベル五”は最高位の敵の襲来。
昔のオレの教育が、未だに浸透してくれているのだ。
「さて、ここからどうでてくる?」
元部下たちの好判断に、好奇心が抑えらない。
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!
砦から飛んでくる、雨のおうに矢が飛んでくる。
なかなかの練度だな。
オレは矢を吹き飛ばしながら、砦に突進していく。
「はぁあ……躍ぅう!」
大地を蹴り出し、空中へ飛び駆ける。
ヒューーーン、ズドン!
そのまま一気に、砦の中庭に着地。
武装集団の中に、飛び込んできた。
それによって砦内は更に騒がしくなる。
「ひっ⁉ あの距離を⁉」
「ば、化け物か、こいつ⁉」
「怯むな! 包囲だ! 大隊長たちが来るまで、時間を稼げ!」
砦内の傭兵たちが、一気に攻撃を仕掛けてくる。
塀と櫓の上から、弓矢と槍による遠距離攻撃。
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!
「「「今だ、押し込めぇえ!」」」
直後、全方位から槍による、包囲攻撃してくる。
「いい連携攻撃だ! 覇ぁああああ!」
オレは飛来してくる矢の雨を、ハンマーを振り回し防ぐ。
同時に槍兵も、ハンマーで吹き飛ばしていく。
もちろん全員、気絶させただけ。
だが嬉しさのあまり。打撃にも力が入る。
「今だ!」
「仲間の死を無駄にするな!」
オレの攻撃の隙をついて、第二陣が追撃してくる。
これも見事な連携。
部隊の勝利のために、全員の意思が統一されているのだ。
「見事だな! 覇ぁあああ!」
相手が普通の猛者ななら、今の追撃で勝負は決まっていたであろう。
だが戦場では“予想外の敵”も現れることも、全員に教えてやる。
第二陣もハンマーで吹き飛ばしていく。
さて、次はどんな手でくる?
――――その時であった。“何者か”が到着する。
「お前たち、さがれ」
「「「はっ!」」」
男の指示に従い、安全圏に一兵卒が退いていく。
「ここから先、通さない」
砦の奥から姿を現したのは、巨漢の戦士。
それも普通の巨漢ではない。
まるで山のような体躯と、岩のような筋肉の半裸の戦士だ。
(タルカスか……久しぶりだな)
オレの前に立ちはだかったのは“タルカス”。
「お前、何者だ? 許さない!」
現役時代のオレと唯一、パワーで互角だった大隊長の一人だ。




