2 目覚めた。
暗い。
そこはひたすらに暗く、光など一欠片も無く、ただ闇が渦巻いていた。
俺は、闇の中を漂っていた。
一度意識を取り戻してからは、ずっとこの状況。
纏わりつく闇に身体は重く、指を満足に動かす事すら難しい。
(ああ、もう駄目なんだ……)
そんな絶望が身体を支配する。
身体だけじゃ無い、心も、魂までも闇に囚われ、全てを諦めそうになって……
それは来た時と同じく、唐突に終わった。
(え……?は?え⁉︎)
視界の端から闇が崩れるように消え去っていく。
光がある。その事実に心が躍り、安堵して、気が抜けたのか、俺はまた意識を失った。
◆◇◆
頭に伝わる固い感触に、俺は目を覚ました。
軽く節々が痛む程度で、外傷は無い。服装はあの時の制服そのまんま。腕時計は、デジタル表示が真っ暗になっていた。少し土が付着しているものの、服装には特に問題は無い。
隣を見ると、黒い短髪のガタイの良い少年と、銀がかった黒の長髪が印象的な細身の少女。琥太郎と慧音だ。二人ともまだ眠っているが、特に外傷は見当たらない。幼馴染2人が無事だった事に、安堵する。
周囲はフカフカの落ち葉と苔が積み重なり、鬱蒼と木々が生い茂っている。
「マジかよ、どこの森だ?ここは……。そもそも、あの闇は一体……?」
場所を知るにも時間を知るにも、俺一人では知識が足りないし、探索など、したら必ず迷う。
後は、最悪の可能性も考慮した方が良いか?
(ま、有り得ないけどな、そんなの。)
……兎に角、こいつらを起こさなければ何も始まらないだろう。
そう考えた俺は、早速こいつらを叩き起こしにかか……
…ろうとして。
「おい、貴様ら。そこで何をしている?」
唐突に背後から聞こえた声に、凍りついた。
慌てて振り返ると、そこには不気味な男が立っていた。
銀の長髪に、長身痩躯。不自然な程に白い肌を黒い外套に包み、真紅の目は鋭い眼光を放っている。
「もう一度問おう。貴様ら人間が、何をしている?」
「……俺たちは、気づいたらここで寝ていました。貴方がたに害意はありません。」
「貴様ら、自分が転移者とでも?……そんな嘘を我が信じると思うか?」
「そのトリッパー?とやらが何かは判りませんが……、僕が今言ったことは真実です。嘘偽りはありません。」
男の眼光が急に鋭くなる。うわぁ、睨まれてる!めっちゃ睨まれてる‼︎怖っ!
「……そうか。どうやら真実のようだな。疑って済まなかった。…ただし、この森は我らの領域だ。変な行動は起こすなよ?」
あれ?意外とすんなり?
「……分かりました。大人しくしておきます。」
「感謝する。……そうだな、貴様にこれを授けておこう。きっと貴様の役に立つであろう。」
そう言って、彼は懐から林檎のような実を取り出し、俺に投げた。
「それを食え。貴様なら、その力もモノに出来るであろう。」
「は、はぁ……では、頂きます。」
「それでは、我はこれで失礼する……くれぐれも、変な行動は起こすな。」
そう言って、彼は消えた。
「消えた……。何だったんだ、今の……。」
突如現れたかと思えば、林檎を残していきなり消えた。
……自分の中で確率を増した最悪の可能性を無視するように、俺は2人を起こしにかかった。
◇◇◇
「本っっっトに済まん、刀鵺‼︎」
「ごめん、とーや……マジで、ごめん……!」
「ウンダイジョウブダヨー。チットモオコッテナイヨー。」
うん。こいつら、寝起き最悪だった。すっかり忘れてた。
でもさ?限度ってものがあるよね?まさか起こそうとしたら腹パン×2とか想像して無いわけでして?
「よし!今後の行動だったな⁉︎さあどうしようか?」
パンパンと、琥太郎が手を叩きながら言う。
こいつらの母さん、大変だっただろうな……。
「……話合いの前に、伝えておくことがある。」
そう前置いて、俺は先程の男について話す。
「……その、林檎?ってここにあんのか?」
「ああ、これだよ。……どうかした?」
「……とーや、試しにそれ、食べてみて?」
「俺も慧音に同意する。それを渡されたお前が、食ってみんのが一番だろ。」
「怖いな……。まあ、分かった。」
そう言って、俺はその実にかぶりついた。
◆◇◆
「ああ、これで全部が終わった」
「後は、彼を蘇生するだけ……」
「……っ‼︎魔力が、足りない⁉︎そんな……」
「そうだ。彼に私の力を注げば、きっと……」
「お願い。彼を、助けて。『知識』」
◆◇◆
「がぁ⁉︎……俺は、一体……?」
「とーや‼︎やっと起きた……。大丈夫?何があったの?」
「大丈夫だ……。何か、女の人の、記憶?みたいなのを見ていた。…あの実は、どうなった?」
「お前が一口齧った後、光の粒子みたいになって……お前の体に、吸い込まれていった。お前が気絶したのは、その直後だ。」
「そうか……。一体何だったんだ、あれ……」
「俺らにも、分からん。それでだ。お前が倒れた後、こんな手帳を見つけたんだが……」
琥太郎が差し出した、その手帳には。
「どーもここ、マジの異世界らしいよ……」
ここについての詳しい情報。
ステータス、魔法、スキルetc……の情報を見る度に、
(マジかよぉぉぉ‼︎当たっちまったじゃねえか、最悪の可能性‼︎)
やはりここは異世界だと思い知らされ、俺は涙を流した。




