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ゲーム人生ぷらすリアル人生  作者: 小倉桜
番外編 夏休み!
38/100

プール編

 それは、突然の訪問により起こった。


「プールに行こう、ヒロ」

「はー……」


 合宿を終え、"オルゲ"も終わった次の日の出来事だった。

 いきなりサユに、プールに行こうと誘われたのは。


「合宿の時に海行ったじゃん」

「海とプールは別物」

「それはそうかもだけどさぁ……」


 ゲーマーのサユが出掛けようと誘ってくるなんて思わなくて、ずっとごろごろしてようと思ってたんだけどなぁ……。

 まさかのお誘いだ。


「にぃ」

「あ、乃愛のあ


 乃愛が階段を降りてきた。

 麦わら帽子を被り、Tシャツにショートパンツの格好だ。


「友達の家行ってくるね」

「おう。あんまり遅くなるなよー」

「わかってるー。にぃもサユねぇと出かけるなら遅くならないでねー」

「おっけー」


 乃愛が家を出て行った。

 しっかり者だし、特に心配することもないだろう。


「さぁ行こう」

「あっ」


 しまった……。乃愛への返事のせいで行くことが確定になってしまった……。


「でも、乃愛が……」

「出かけたよ」

「うぐっ……」


 ……くそう。


「わかったよ……」

「よし、四十秒で支度しな」

「もっと感情込めようよ」

「いーち、にーい」

「ちょ!」


 あんまりだー!



※※※



 しっかりと準備をして、電車やバスを使って市民プールに辿り着いた。

 夏休みなだけあって結構な人がいる。


 それにしても……。


「「暑い……」」


 サユとばっちりハモった。

 引きこもり気味なゲーマーにこの日差しはきつい。


「なんでプールに行こうなんて言い出したんだよ……」

「だって、ヒロと二人で外で遊びたかった……」

「ほかに呼んでねぇのかよ!」

「いると思った?ねぇねぇいると思った?」

「うぜぇ……」


 サユと二人なのか。

 別に問題はないけど、これじゃあデートみたいじゃないか。

 いやいや、俺は何を考えてるんだ!


「どうしたの、ヒロ」

「なんでもない!行こう!」

「急に元気……」


 ものすごく怪しまれているが気にせずに行こうではないか!



※※※



 先に着替えた俺はサユを待っていた。

 ちらりとプールに目をやると、カップルやら親子やら、友達数人のグループやらで集まって楽しく遊んでいる人々が目に入る。


 流れるプールにウォータースライダー……。俺は一生無縁だと思っていたんだがな……。


「ヒロ」

「おっサユ」


 声を掛けられたので振り返ると、サユがいた。

 合宿の時と同じの、上下が分かれているフリフリの黒い水着だ。

 今回は屋内なので、麦わら帽子はない。


「…………」

「ど、どうしたサユ」


 なぜか俺のことをじっと見つめている。


「合宿の時から思ってたんだけど、ヒロ、筋肉はどこに行った」

「…………」


 い、いや……。


「た、たしかに鍛えるのはやめてたよ?で、でもそこら辺の男よりはあると思うんだけど……」

「でも、合宿の時は誰も反応しなかった」

「ほかの男の水着姿を見たことがないのかも!」

「水泳の授業って知ってる?」

「……興味がないとか」

「そんな女の子はほとんどいないと思う」

「…………」


 俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない。


「今も十分かっこいいけど」

「それはずるいと思う!」


 そんな照れもなく言われるとこっちが……。

 ああ……頬が熱い。


「でも、最近筋トレはまた始めたよ」

「そう」


 サユはふわっと微笑んだ。

 その笑みは、心の底から嬉しそうで――


「ほら、遊ぼっ」

「ちょ!引っ張るなって!」


 俺の手首を掴んで流れるプールに早歩きで向かうサユを見ているとなんだか不思議な気分になってきた。


 小さい頃は、俺がいつもこうやって連れまわしたのにな……。

 今はサユもそんなことができるようになって……。


「ヒロ、どうしたの?」

「ううん。なんでもない。ってこら、ちゃんと準備運動はしなきゃだぞ」

「はーい」


 なんだかまるで、二人で子供の頃に戻ったみたいだ。

 習い事をサボって抜け出して、ゲームしたり公園に行ったり。

 その度に怒られて、ゲームも取られたり……。


 そんな日常が続くと思ってたのに、引っ越しちゃうし。

 でも、またこうして遊べていることがとても嬉しくて。


「お先に」

「はやっ!?」


 笑顔でプールに向かうサユも、それはそれは嬉しそうで。


「俺も終わり!」


 目いっぱい遊ぶぞー!



※※※



「ねぇサユ?本当にやるの?」

「ここまで来て怖気づいたのかね大翔ひろとくん」

「そのキャラはなんだね桜雪さゆきさん」


 これ絶対サユも怖がってるだろ!

 この――


 ウォータースライダー!


「ねぇ、サユ?絶対怖いって思ってるでしょ!?やめようって!」

「残念だねヒロ。ここまで来たら、行くしかないんだ……」

「いやいやいやいや!」


 ダメだ、サユが後ろにいるから逃げられない……!


 そのまま、有無を言わさず座らされた。


「行くよ」

「はい……」


 覚悟を決めるか……。


 ふにっ。


 その時、背中に柔らかい感触が走った。

 それと同時に腰に白くて細い手が回される。

 背中にも温かい感触があり、全身で抱き着いてきているということが推測できる。


「もう、離れたくない……」


 サユがぼそっと何かを言ったような気がしたが、俺の耳に入ってくるのはすでに水の音だけだった。


「うわぁ!」

「っ……!」


 そこから先はよく憶えていない。

 気づいた時には、水に叩きつけられていた。


「ぱっ!」

「ぷはっぁ……!」


 俺が水面に上がってからしばらくすると、サユが上がってきた。

 しかし、様子がおかしい。


「ぷはっ……ヒ、ヒロ……!た、助け……ぷは……」

「サユ!!」


 俺は急いでサユを引き上げた。


「大丈夫か!?」

「ごめん……。大丈夫……」

「よかった……」


 そのままプールサイドに座らせる。


「足つったのか」

「うん……。ごめん……」

「なんで謝るんだよ。無事でよかった」


 サユの頭を無意識に撫でる。

 サユは、気持ちよさそうに目を細めた。


「しばらく休んでてね」

「どこ行くの?」



※※※



 ふぅ……すっきりした。


「あれ?」


 トイレを終え、サユのところに戻ろうとすると、サユがいない。

 辺りを見回すと、プールサイドに置かれている椅子のところにサユがいた。

 しかし、何人かの男に囲まれている。


 まさか……。


「なぁなぁ、俺たちと遊ばねぇ?」

「やだ……」

「そんな冷たいこと言わないでさぁ?」


 ナンパか……。

 ちっ。


「サユ!」

「ヒロ……!」

「あぁん?なんだてめぇ!」


 体つきのいいやつが俺を睨みつけてくる。

 ほかのやつはそれほどでもない。

 俺の体から筋肉は減ったけど、こいつくらいなら。


「連れのもんだけど?」

「はっ。お前がかぁ?」

「なんか文句でもあんの?」

「ちっ。えらそうな口利きやがってよぉ……!」


 そう言うと、体つきのいい男が殴りかかってきた。

 俺はその拳を片手で受け止める。

 そのままひねり上げた。


「イテテテテテッ!」

「まだやるか?」

「くそが!」


 そう吐き捨てた男は、捕まってない反対の手を使って肘打ちをしてきた。

 あまりにも急だったため、防げないと判断した俺は、ひねり上げていた手を放す。


「おっと……!」

「ちっ。くそがぁ!」


 もう一度対面する。


「ヒロ、ケンカはダメ……!」

「っ……!」


 そんな時、サユが悲しげな、不安そうな、そんな表情で大きな声を上げた。

 そんなこと言ったってよ……!


「その女を捕まえろ!」

「は、はい!」

「なっ……!?」

「ひゃっ」


 残りの男二人組が、サユの手を掴んだ。


「はっ。これでお前は手も足も出せまい」


 こいつら……。

 マジで許さねぇ。


「悪いサユ」

「えっ……」

「約束は守れそうにない」

「っ」

「なんだなんだー?じゃ、一方的にやらせてもらうぜー!」


 男がこちらに向かってくる。

 右足、左足、右足、左足。

 今。


「っ!」

「なっ!?」


 俺は男の脇をすり抜け、後ろの二人組の元へ駆け出した。


「おい!そいつ倒せ!」

「ひぃ!?」

「おい!何やってんだ!早くしろ!」


 遅い。


 バシッ。

 俺はサユの右手を掴んでいたやつのみぞおちをそこそこの力で殴った。

 それに驚いたもう一人はサユから手を放し、後ずさってから尻餅をついた。


 サユにこっちに来てもらっていればこんなことにはならなかったのに……。


「てめぇ!!」


 また、怖い思いをさせちゃったな……。


「ぐふっ……!うおおおお……!」


 最後のやつもみぞおちを殴った。


「お、憶えてやがれ……!!」


 それを捨て台詞に、三人組は帰って行った。


「ヒロ!」

「サユ……」

「ケガはない!?」

「うん……大丈夫……。ごめんね……。俺が離れちゃったから……」

「ううん……。いつも守ってくれてありがとう……」

「サユ……」


 今度は俺が撫でられる番だった。

 ……昔は、これもなかったな。



※※※



「どうしてこういうところで食べる焼きそばっておいしいんだろうねー?」

「わふぁふ……もぐもぐ……」

「よく噛んで食べてよ……?」

「ふぁん……むぐっ」


 相変わらずよく食べるなぁ……。

 焼きそば七人分も買ったよこの子?


「そんなに食べて、苦しくならない?」

「ごくん……。いつもより少なめ。大丈夫」

「さいですか」


 これでいつもより少なめ……?


「じゃあいつもうちで食べるの全然足りてないんじゃない?」

「いふぁ?れんふぇんらいひょうふ……」


 いや?全然大丈夫……って言ってるみたいだな。

 胃袋どうなってんだ。


「ごくっ……。どうかした?」

「いや、なにも」

「そう。はむっ」


 かわいいな。


「ごくんっ。ふぅ……食べた……ごちそうさまでした」

「食べる速度は一般的なんだね」

「そりゃ一般人ですから」

「それは微妙だけど……」


 一般人が七人前の焼きそばをぺろりと平らげるかっての。


「また泳ぐか?」

「もち」

「じゃあ次はあっち」

「おー」


 それからもしばらく、俺たちは泳いだりした。


 そして、夕方頃俺たちは最寄り駅に帰ってきていた。

 ここからは歩いて帰るだけだ。


「楽しかった」

「そうだね」


 サユはとても嬉しそうな顔をしていた。


 そういえば、久々に会ってから、二人で外で遊ぶのは今回が初めてだ。

 ……ゲームはかなりやったけど。


「今度は遊園地もいい」

「それは二人では行ったことないな」

「仕方ない。許される環境になかったし、わたしたちも小さかった」

「そう……だね」


 今なら自由ってわけか。


「それなら、今度行こうよ。遊園地」

「ほんと?」

「もちろん。約束だ」

「約束……。あ、でも夏休みはゆっくりしたい」

「人のこと半ば無理やり連れだしといてよくそんなことが言えたな!」

「てへ」


 そのまま、いつも通り会話をしながら家に帰った。

 夕飯も一緒に食べ、お風呂は別々に入り、ゲームもした。


 いつも通りの夜だった。











 余談だけど、今日の夕飯は久々に出前だったんだ……。

 サユの食べたものが、かつ丼とラーメンとチャーハンをそれぞれ二人前だったことはここだけの話だよ?

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