夏祭り編
サユと一緒にプールに行ってから一週間が過ぎた頃。
月からLI〇Eが来た。
『大翔くん、今週の日曜日は空いてますか?空いていたら、一緒に夏祭りでもいかがですか?お返事待ってます』
という内容だ。
乃愛も行くって言ってたし、全然問題ないな。
『空いてるよー』
『じゃあ行こうね!?約束だよ!?あと、桜雪ちゃんは?』
『つい一週間前に二人でプールに行ったんだけど、それ以来自分の家か俺の家にしか現れなくなった』
『二人きりでプールに行ったんだ……ふーん……。じゃあ、誘わなくても大丈夫だね!』
『無理にでも引っ張って行こうか?』
『ううん!大丈夫!二人で行こ?』
なんかだんだんと返信が速くなってきたな。
俺は、わかったと返信して、スマホをベッドに置いた。
ごはん、作らないと。
※※※
そして、日曜日。
夜に行く約束をしていたので、もう辺りは暗くなり始めている。
会場近くが集合場所なので、そこまで急ぐ。
まだ月は来ていないようだ。
乃愛は昼から友達と出かけてしまったので、もしかしたら出会うかもしれない。
辺りを見回してみると、カップルもしくは男の子一人でいるというのが目に入った。
きっと彼女を待っているのだろう。
「大翔くんっ。お待たせっ」
そんなことを考えていたら、聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「月、久しぶ……り……?」
振り向いたら、そこには浴衣を着た綺麗な女の子が立っていた。
綺麗な藍色に花柄のデザインで、帯の色は黄色。
髪型はサイドにゆるくまとめられていて、今日は赤いシュシュを使っている。
いつもとはまったく異なる月がそこにいた。
「ど、どう……?似合う……かな?」
「あ、う、うん……すごく似合ってるよ……」
「よかった」
顔を真っ赤に染めていた月は安堵の表情を見せた。
「それにしても、二週間振りだね」
「そ、そうだね……合宿以来だっけ?」
「うん」
そうか……二週間も会ってなかったっけか……。
「でも、L〇NEしてたからあんまり久々って感じはしないかな」
「たしかに」
なんか毎日のように連絡取ってたしね。
「桜雪ちゃんは何してるの?」
「さぁ?」
「あれ?何も言わないで来たの?」
「言う必要もないしね」
その時、俺のスマホから音が鳴った。
「誰から?」
「噂をすればだね」
「桜雪ちゃん?」
「うん」
内容はこうだった。
『どこ行った』
「なんか桜雪ちゃん怖いね……」
「文字だけだと怖く見えるよね」
いつもの口調がそのまま文字になるのでちょっと怖い印象がある。
面と向かってだと、ふんわりする感じがあって全然怖くないんだけどね。
『月と祭りに来てるよ』
『なぜ誘わなかった』
『引きこもりを誘っても無駄かと思って』
『ヒロも月も大差ない』
『ごもっともだけど……』
月もここ二週間全然外に出てないらしかったもんなぁ……。
そういう俺も、サユの家か自分の家にしかいなかったし。
あ、電話が来た。
「もしもし?」
『月の浴衣かわいい?』
「えっ、うん……そうだね」
『ちっ』
「えぇ!?」
『まぁこの間プール行ったからいい……』
「なんだって?」
『……なんでもない』
何を言ってるんだ?
『邪魔してごめん』
「ちょ!サユ!?」
切られた……。
「桜雪ちゃん、なんだって?」
「よくわからない」
「?」
「とにかく、いつまでもここで話してても仕方ないし、行こうか」
「そうだねっ」
ちょっと先に見える祭りの光に向かい、俺たちは歩き出した。
※※※
「見てっ、大翔くんっ。わたあめすごいよっ」
「え、あれって祭りで見れるもんなの?」
なんかすごいパフォーマンスしてる人がいるんですけど!?
二本の木の棒を使って、くるくると回し、踊りながらわたあめを作っている。
わたがどんどん吸い込まれていき、最終的に見る、丸っぽいふんわりとした形ができあがっていく。
「実際に見たのは初めてだ」
「私も」
できあがったわたあめを子どもたちに手渡していく。
そして次から次へとまた作る。
周りの屋台の人もこちらを見て、声を上げて盛り上げたりしている。
隣には浴衣の女の子もいるし、なんか今更ドキドキしてきた……。
「大翔くん、たこ焼き食べない?」
「いいね」
月がたこ焼きを作っている屋台を指して言った。
「すみません、たこ焼き二つ」
「あいよー!」
「あそこのベンチで食べようか」
「うんっ」
屋台のおじさんからたこ焼きをもらい、近くの空いていたベンチに座る。
ちょっと道からは外れているが、祭りの喧噪は良く聞こえる。
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせて、食べ始める。
熱いけど……やっぱりおいしいな。
「あふっあふいっ」
「大丈夫?」
「はふっはふっ……んく……。おいしい!」
ぱぁっと笑顔を見せる月に思わずドキッとしてしまう。
「こういう雰囲気で食べるたこ焼きってなんかおいしいよね」
「わかるわかる。私はプールでの焼きそばとかも好き」
「わかるな~」
この間食べたしね。
「「ごちそうさまでした」」
たこ焼きの入っていた容器をゴミ箱に捨て、二人でまた歩き出す。
「もうちょっと回る?」
「大翔くんに任せるよ」
「じゃあせっかくだし、ヨーヨー釣りとか金魚釣りとかもやろうか」
「いいねっ」
その時、祭りの喧噪とは違うような声を聞いた。
「月、今何か聞こえなかった?」
「何か聞こえたような気はしたね……」
月は「ん~」と言いながら首を傾げ、あごに指を当てた。
なんか久しぶりに見た気がする……。
サユが転校してきて以来、初めてじゃないか?
「子どもの泣き声じゃない……?」
「えっ?」
「ほら」
「……行ってみよう」
月の言葉通りに進んでいくと、俺にも喧噪に紛れる子どもの泣き声が聞こえてきた。
「あの子じゃない?」
「本当だ」
月が指さす方向には、大きな声で泣く、女の子がいた。
祭りの道から外れているので、誰も気づかなかったようだ。
「どうしたの?お父さんとお母さんは?」
月はその女の子に目線を合わせ、そう問いかけた。
なんか既視感が……。
あれ?でもこの子……。
「お父さんかお母さんは一緒じゃないのかな?」
「うわーん!」
泣き止まないな……。
そんな女の子を、月はじっと見つめて、もう一度聞いた。
「お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」
「ぐすっ……お母さんどこか行っちゃった……ぐす……」
「お姉さんが一緒に探してあげようか?」
「ほんとぉ……?」
「うん」
お、泣き止んだ!
って。
「理紗ちゃん?」
「ん……。あ、デパートのお兄ちゃん!」
「え?大翔くん知り合いなの?」
「まぁ……」
サユと一緒にデパートに行ったと時、迷子になっていた理紗ちゃんだった。
そのことを月に説明する。
「そんなことがあったんだ」
「まぁね」
説明しながらも、俺たちは理紗ちゃんのお母さんを探す。
理紗ちゃんは、月と手を繋いで歩いていた。
「♪」
理紗ちゃんがとても嬉しそうにニコニコしている。
「理紗ちゃんはお母さんと来たの?」
「うんっ。たこ焼きとかわたあめとか食べたのー」
月の面倒見の良さがすごくよくわかるな……。
さて、俺も探さないと。
顔は憶えてるから、後は視界にさえ入れば……。
あ、いた!
「月、理紗ちゃん、いたよ!」
「え?どこ?」
「お母さん……?」
「あっちあっち」
理紗ちゃんを肩車してあげると、すぐにお母さんを見つけたようで、にこっと笑顔になった。
「お母さん!」
「あ、理紗!探したのよ!」
理紗ちゃんを降ろしてあげると、すぐに走って行ってしまった。
「あら、あなたはデパートの時の……。またお世話になってしまいましたね」
「いえいえそんな」
理紗ちゃんのお母さんが頭を下げてきた。
一緒に理紗ちゃんも頭を下げてくる。
「本当にありがとうございます」
「ありがとーございます」
「いえいえ大したことじゃないですって!」
「そうですよ!」
何度も言うと、やっと頭を上げてくれた。
「これ以上言うのもお邪魔になるでしょうし、私たちは行きますね。本当にありがとうございました」
「はい。理紗ちゃん、これからは気を付けるんだよ?」
「うんっ。お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう!!」
「うん。またね、理紗ちゃん」
そう言うと、理紗ちゃんたちは去って行った。
「見つかってよかったね」
「だね~」
「まだ回れてないし、もうちょっと回っていかない?」
「おっけー」
月の提案により、もう少し祭りを見ていくことにする。
横を歩く月は、なんだか無理をしているようにも見える。
「月……ちょっときゅうけ――」
「いたっ!」
「月!?」
月がうずくまってしまう。
よく見ると、下駄を履いていたようだ。
「鼻緒が切れちゃってる……。これじゃあ歩くのは難しいだろ」
「大丈夫だよっ。これくらいなら――」
「無理しちゃダメだ」
「っ……。ごめん……。せっかくのお祭りなのに……」
「いや、謝るのは俺の方だ。下駄だって気づかなくて、休憩するか聞いてれば……」
「大翔くんはやっぱり優しいね」
「えっ」
急にそんなことを言う月を、思わず見つめてしまう。
「だって、ちゃんと見ててくれてるもん」
「いや、見てなかったから月がケガを……」
「ううん。気づかなくて当然だよ」
「でも……」
「いいの」
なんだよ。月の方だって優しいじゃないか。
でも、これは俺が悪いよ……。
「ほら」
「え、そんな悪いよ……」
「俺がちゃんと休憩を入れなかったのが悪いんだ。やらせて」
「……わかった。じゃあお言葉に甘えて」
俺は月をおんぶした。
背中に二つの柔らかみが感じられる。
このためじゃないよ!?
「なんか……すごい落ち着くな」
「そう?」
「うん……温かくて、優しい感じ」
そんなものなんだろうか。
俺にはよくわからない。
「うちまで送るよ」
「うん……。ありがとう……」
そのまま俺たちは、特に会話もないまま、だけど気まずいなんてことはなく、月の家に着いた。
「ありがとっ。大翔くんっ」
「いえいえ」
「今日は楽しかったっ」
「俺もだよ。また遊ぼうな」
「うんっ」
ゆっくりと扉まで歩いていく、月を後ろから見守る。
「また学校でね」
「これから引きこもるつもりかよ!?」
サユも月も根は引きこもりだもんね!
「ふふふっ。それはまっ、気分次第かな。それはともかく、またね」
「そうだね……。じゃあ、また」
結局、サユよりも引きこもり気質な月が、外に出ることは、始業式の日までなかったという。




