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おかしな転生 短編集  作者: 古流 望


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14/18

「新人たちの一日」  ~3巻発売&10万ポイント達成記念短編~

 モルテールン家の家人の朝は、まだ夜も明けきらないうちから始まる。


 「ジョアン、朝だぞ~」

 「もうちょっと、あと少し寝かせてくれぇ」

 「飯抜きになっても知らないからね。先に行くよ」

 「うぇ~い」


 朝、共同宿舎となっている部屋から一日が始まった。

 モルテールン家の従士は、望めば家を借りられるし、お屋敷の部屋を借りることも出来る。だが、正式に従士となっていない訓練中の新人は、軍人独特の共同生活に慣れる意味合いや、連帯感を高める意義から、同じ部屋で寝起きする。

 無論男女は別の部屋になっているが、一日の大半を共同で過ごすという意味は変わらない。


 朝ごはんが終われば、早速訓練が始まる。


 「全員、集合!!」


 新人教育担当のグラサージュが、大声を出す。

 腹の底から響くようにして出る大きな音は、軍人らしいものである。


 「それでは、組手から。二人組になれ」


 従士とは、全員が軍人である。

 後方担当として、官僚的な事務仕事をする者も多いが、いざとなれば全員が戦士。

 それだけに、モルテールン家では何をおいてもまず武力を鍛えることにしている。モルテールン家の従士全員が全員、今でも定期的な訓練をしているし、個々に鍛錬もしていた。

 新人にも最低限の力量を叩きこむため、朝一番からたっぷりと体を虐める。元々幼少期から鍛えていた面々と、元村人の新人とで、かなり個人差がある部分だ。


 「ビオ!! 何だそのへっぴり腰は。コローナも遠慮せずに叩きのめせ!!」

 「はい!!」

 「バッチも、昨日教えたことを忘れたか? 手だけではなく腰で殴れ」

 「は、はい!!」


 全員入り混じっての徒手格闘の訓練が終われば、剣や弓や槍といった武器を持った白兵戦の訓練。それが終われば、複数人対複数人の連携訓練。更にその後は、一対多や座った体勢から始める格闘戦等の、本番を想定した不正規戦闘の訓練。

 朝から昼までみっちりと体を動かせば、終わるころには全員汗だくになる。


 「ホント、しんどいよ」

 「きっついわぁ。これが毎日続くとか、地獄だな」

 「ふん、軟弱者。戦場ではこんなものではないのだ。ただでさえ惰弱なお前たちは、今の倍でもぬるいぐらいだ」

 「うわぁコロちゃんきっついこと言うわぁ。俺も頑張ってるっしょ?」

 「頑張り方が足らん。それに、コロちゃんなどと舐めた呼び方をするな。玉を潰すぞ!!」


 昼の休憩で、皆疲れている。

 にもかかわらず、姿勢を崩さないのはコローナ=ミル=ハースキヴィ。元婚約者を叩きのめしたという逸話があるように、彼女自身相当に鍛え上げられている。

 軍人としての訓練を既に受けてきた人間からすれば、今の基礎体力作りや基礎訓練は生ぬるく感じていた。


 質実剛健、勇猛無比を(ほまれ)とするハースキヴィ家の英才。

 だが、こんな彼女も、午後になれば優等生から劣等生に早変わり。


 「いいか、つまり民政の基本は人心を安定させることにあり、軍事的成功も大局的見地から見た場合には政治的な失策となることがある。例えば有名な42年のクラインメッツ伯爵の行軍が良い例だな。進軍速度を重んじ、敵軍の裏をかく奇襲的な行軍は、補給の大部分を現地調達に頼るものだった。軍事的に見るならば敵軍を敗走せしめた功績があるが、占領地の非協力的姿勢を産み、その後の進軍をより一層困難なものにした」


 午後からは、座学が主体になる。

 従士とは、軍事単位としての貴族家を構成する一員であると同時に、政治集団としての貴族家の一員でもある。

 軍学的な戦術や戦略の講義もあれば、政治的な実務についての特訓も行われるのだ。

 小所帯であるモルテールン家のような家は、全員がオールラウンダーで有る事を求められる。自分の得意なことのみをこなせばいい、適材適所というような、大貴族家臣団の運用とはまるきり違う。


 「……うぅ」

 「おい、コロちゃんが今日も倒れたぞ」

 「これぐらいのことでだらしないですね。ほとんど一般常識でしょう」


 バッチレー=モーレットなどは、小さい時から勉学が得意であったこともあり、モルテールン家流のスパルタ教育にも早々に慣れた。

 対し、体を動かす方が得意だと豪語していた者ほど、じっと座って徹底的に教え込まれる座学には苦労する。


 「よし、今日はこれまで」

 「「ありがとうございました!!」」


 丸一日、体も頭も酷使する研修。

 今日一日も無事に終えたと、新人たちは夕食をとる。

 その頃には、辺りは既に暗くなっていた。


 「くぁああ、これが一日の唯一の楽しみだわ」

 「分かる。実家に居た時よりも、美味しいし」


 夕食のメニューは、軍家らしく量がたっぷりある。メニューは毎日変わり映えしないが、時折ペイスの試作デザートが付くこともあった。

 体が資本という原則を掲げるだけに、好きなだけ食べてよいとお代わり自由。しかも、専任の料理人が雇われており、調味料もたっぷり使われていて味も良いときた。

 厳しい研修の中で、唯一楽しめることが食事なのだ。


 「ようお前ら」

 「あ、シイツさん」

 「こんばんは。従士長も食事ですか?」


 食事の場に、軽く片手をあげて愛嬌を見せながらやってきたのは従士長シイツ。


 「食事中のところ悪いんだがな。お前ら、今からちょっと手伝え」

 「何をです?」


 研修中の新人が、食事の手を止めた。


 「捜しものを手伝って欲しいのよ。それで人手が要ってな」

 「探し物? 貴重品か何かですか?」

 「ん、うちにとって無くちゃならねえって意味じゃ貴重だが……逃げ出したのよ」

 「逃げ出した? 生き物ですか?」

 「生き物っちゃあ生き物だな。人によっちゃ化け物って呼ぶが」

 「化け物!? 人を食うような?」

 「人をくったことは有るか? 有るような気がするな。まあ何でもいいが、さっさと行くぞ」

 「従士長。一体、何を探すんです?」


 新人たちは、一様におどろおどろしい怪物を想像した。

 一人は毛むくじゃらの巨大蜘蛛のようなものを想像し、ある一人は一つ目の大男を想像する。

 もっとも、一人も正解は居なかったが。


 「捜すのはな。うちの坊だ」

 「はぁ?!」

 「急にチーズが要るとかなんとか言って飛び出しやがったのよ。こんな遅くに何考えてんだって話だ。とりあえず、どこに行ったか探さねえとな」


 モルテールン家の新人研修。

 もっとも大変なことは訓練でも勉強でもなく、ペイスの非常識に慣れることだった。


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