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おかしな転生 短編集  作者: 古流 望


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13/18

「あの日の英雄」  ~3巻発売&10万ポイント達成記念短編~

 絶望は人を殺す。


 人が人として生きていくのに、ただ心臓が動いているだけの状態を生きているとは言わない。

 明日を信じ、よりよい未来を信じ、幸せを求める心こそ、生きていく原動力たりえる。

 ならば、希望もなく、未来を信じられず、不幸しか見えない状況を生み出す、絶望という名の悪魔は人を殺すと言えるのではないか。


 今、千人にも満たぬ人々に襲い掛かっているのもまた、この悪魔であった。


 「酷いありさまだ」


 そう呟いたのは神王国第一王子カリソン。

 父親である国王が急死したことに端を発する内乱で追い詰められ、今や王都の警備部隊を中心とした僅かな手勢を従えるのみ。

 敵軍は万を超え、自分たちを包囲せんとする動きを見せていた。夜が明ければ、自分たちの命運は絶たれるだろう。

 部下たちは、最後の最後に密集体形で突撃し、敵の指揮官を倒すことに活路を持っているが、分厚い兵の壁に阻まれている現状。そう簡単に出来ることではないと、誰もが分かっている。


 「殿下、どちらへ?」

 「少し、見回りに行ってくる」

 「いけません。御身に何かあれば……」

 「この状況で、不利のタネが一つ二つ増えようが大して変わるまい。俺の最後の我儘と思ってくれ。お前たちも今までご苦労だった」


 長年付き従ってくれた者たちを置き、一人で歩くカリソン。

 自分が居れば、彼らは逃げ出すことが出来ない。絶望的な状況で、逃げ出すことを悪いこととは思わない。彼らにだって守りたいものがあるだろうし、生きたい理由もあるだろう。

 自分が席を外すことで、一人でも生きながらえるチャンスを与える。それぐらいしか出来ないと思ったのだ。


 そんな中で出会ったのが、カセロールと名乗る男だった。


 カセロールは、カリソンを見つけると、意見具申の許可を求めてきたのだ。

 カリソンが不思議に思ったのは、準騎士と思しきその男の目に、絶望が無いことだった。


 悪魔の手を逃れているものが居る。

 それが酷く不自然に思えたのだ。


 「その(ほう)、何故そうやって落ち着いて居るのか」


 意見具申の許可を出すよりも先に、王子は尋ねていた。


 「勝つ手だてを知っているからにございます」


 明確な意思表示だった。

 数にして絶望的なまでの差がある敵に囲まれていながら、勝つと断言する。それが、凡百の人間から聞かされたことであれば妄言と切って捨てる意見。

 しかし、カリソンは先を促した。

 目の前の男が、凡人とは思えなかったからだ。


 「(わたくし)めは、転移の魔法が使えます。ことここに至っては指揮官を直接打ち取るより他に勝つ道はなく、私が敵陣へ奇襲をかけ、必ずや敵指揮官を打ち取ってまいります。殿下には、その御許可を願いたく、意見具申を申し出た次第です」

 「ほう、魔法が使えるのか。敵も厚遇する魔法使いなどは、とっくに逃げ出していたと思ったがな」


 魔法使いは、戦争のみならず平時でも使い道は多いし、有用な魔法使いなどは数も限られる。降伏を申し出たならば、忠誠と引き換えに命を助ける戦時取引はありふれていた。


 「殿下の御為に、この命は既に捨てておりますれば」

 「そうか……ならばお前の意見を採択しよう。どうせ明日までの命だ。好きにやれ。もしも上手くいったなら、俺の誇りにかけても報いる」

 「ありがとうございます」

 「ただ、一つだけ命じておく。これは最優先の命令として、絶対に守れ」

 「はっ」


 王子殿下からの勅命。

 カセロールは、臣下の礼を取ってその命令を待った。

 下されたのは、たった一言。


 「死ぬな」


 万感の思いの込められた命令を胸に、カセロールは歴史に残る偉業を成し遂げるのだった。



◇◇◇◇◇



 「却下だ。こんなもの、許可できるか、馬鹿者」

 「しかし陛下。モルテールン卿の武勇伝は民衆も望むものにございますれば……」


 王宮の一室で言い合う主従。

 議論の源は、王家お抱えの劇団による演劇の台本について。

 カリソン王子とカセロール準騎士の出会いの一幕を劇にしたいと、台本と共に要望が上がったのを議論していたのだ。


 「駄目だ。第一、なんだこのセリフ。クサ過ぎる。これを劇にしたというなら、俺は恥ずかしさのあまり碌に見れんではないか。王が見れぬ劇など、許可出来るわけが無い」

 「さようですか……事実に即していないというのであれば、書き直しを指示しましょう。では、失礼します」


 そういって台本を置いたまま出て行った部下を見やるカリソン。

 部下が離れたのを確認し、台本をチラリと眺めながら呟く。


 「……事実だから書き直すのだ。馬鹿者め」


 国王の顔は、耳の先まで赤くなっていた。


カセロールの大戦の頃のお話、というリクエストより。

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王さまの事だから、家来に任せず「良かろう、ならば、俺も行くぞ」したんじゃ無いか?
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