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黒き獣と赤の少女  作者: 竜胆 梓
二章 《流れ星》
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0 -ある少女の些細な悪戯心-

 深い森の緑に紛れるよう、その少女は高い枝に腰掛け、周囲に目を向けていた。

 この辺り――クルヴィ山脈周辺ではまず見かけることのない碧と翠で色鮮やかに染め上げられた民族衣装を身に纏う、年の頃はおそらく十代半ばだろう少女。腰に巻いた茶色い飾り布といい、たっぷりとした白いズボンといい、その姿は見る者にどことなく踊り子のような印象を与える。

 だが一分の隙もなく肌を隠す服や、少女が居る場所がそんな印象を打ち消し、もしその姿を見た者がいたなら、場違いでちぐはぐな印象を受けることだろう。

 少女が居る場所は村や町の近く、などではなく深い森のただ中だ。周辺には人口が百人にも満たないような小村しかなく、そんな小村すらもここからでは一日歩いてようやくたどり着けるかどうかといったところだ。

 こんな場所へ人が訪れる理由は多くない。日々の糧を得るためか、人の輪の中に暮らせないためか、それとももっと別の、明確な目的があってのことか――


 ふと、少女は目を細める。衣服と同じく、この辺りではまず目にすることのない氷のように澄んだ色調の髪と目。誰もが振り返るような美貌ではないにしろ、目鼻立ちは整っている部類に入る訳で、十二分に可愛らしいと言えるだろう。

 一房だけ伸ばした氷色の髪を風に遊ばせながら、少女は視線を前方にいる二人の背中に向けた。

 一人は背が高く長い黒髪の青年、もう一人は青年の胸くらいで赤い髪を短く刈った子供。

 遠目にもある程度の武装をしていることはわかるが、その武器は剣であり、猟師が好む弓を持っていない。勿論、見えないところに持っているという可能性は十分にあるし、取り回しや獲物の種類によっては弓で狙うよりも直接切り結んだ方が効率がいい、そんな獲物が居るのかも知れない。なので一概に猟師ではないと決めつけることはできないのだけれど。

 だとしても、子供を連れての遠出にはいささか無謀であると言わざるを得ないし、そもそも元よりここは猟師達も寄りつかないような場所。例えここ三年ほど不作が続いているとは言っても、危険を冒してこんな場所まで獲物を求めて足を伸ばすとは考えづらい。


(――となると、可能性は)


 二人に意識を向けたまま、少女は視線を動かす。その視線が止まったのは、むき出しになった岩肌に走る亀裂。人一人がようやく通れるかどうかといった亀裂の手前には、粗末な鎧に身を包んだ中年くらいの男が二人、移動する気配もなく雑談に興じている。

 彼等はここを拠点に猟を行う猟師――などではなく、質の悪い者達。典型的な「人の輪の内に居られなくなった者」達であり、こんな場所に居るのは街からも村からも離れたこんな場所ならば、街道などを巡回する兵士達に出くわすこともないだろうし、なにより人に発見される可能性が低いからだろう。

 もっとも、彼等が狩りを行うためには少々どころかかなり不便なのだが、そこはリスクとリターンを秤にかけた結果、と言うものだろう。もしくは単に、これから旅人が激減する冬になるため活動を控えるつもりで冬籠もりにでも来たのだろう。そう、まるで熊のように。

 少女の視線の先にい居る二人は、先程から亀裂の方に意識を向けている。その行動が意味することは二つに一つ。


 彼等に友好的な用があるか、そうではない用件があるのか――


 前者であるのなら、少女は躊躇する理由がない。いっそことは単純だ。

 しかし後者であるのならば、その内容によっては少々面倒なことになるな――そんなことを考えながら、少女はしばし、逡巡するように首を傾げ、逡巡し、


(――まあ、なるようになる、か)


 と、悩んだ割には至極あっさり切り捨てる。

 これ以上は、考えていたって意味はない。確認あるのみ、悩むよりは行動を――そんなことを体現するように、少女はそれまで腰掛けていた枝から飛び降りると、落ち葉の降り積もった地面に音もなく着地。

 そのまま足音一つ立てず、気配を殺し目的の場所に向かう。舗装された街中でもあるまいに、道など無い森の中には落ち葉が山のように折り重なっている場所もあれば背の低い植物も茂っているにも関わらず、だ。

 こんな場所で気配と音を完全に殺して行動するなど、見た目以上に労力を使っているはず。にも関わらず、少女の顔は涼しいもの。踊り子めいた異国の民族衣装も相まって、その姿はさながら現実離れした存在――そう、まるで森の中での活動に長けた森の民エルフ小妖精フェアリーだと言われても納得してしまうほど、その足取りは自然で無駄がない。

 完璧に気配を殺した少女の接近に、元々亀裂の方へ気を裂いている黒と赤の二人組が気付くことはない。

 そのまま気取られることもなく、少女は口元にまるで悪戯小僧のよう楽しげな笑みを浮かべたまま、実に自然に――それこそ勝手知ったる場所を散歩でもするかのような足取りで二人の背後に近付き、



「――ね、こんな所で何やってるの?」



 問いを、投げた。

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