第95話:攻略の糸口
ドズン、ドズンと、巨大な石の足音が地下大空洞の空気を激しく揺らしていた。
「左の支柱側へ引き込め! 巨腕の振りを誘導するぞ!」
バルドの怒号が、吹き荒れる風圧を切り裂く。レオンは全身から汗を飛び散らせながら地を強く蹴り、ゴーレムを左へ誘い込むように間合いを測った。
「言われなくても分かってる! だが、巨腕の振りがデカすぎて安易に踏み込めねぇ!」
前線の二人は、決してゴーレムを圧倒しているわけではなかった。振り下ろされる岩の巨腕を紙一重でかわし、支柱や中央装置へ攻撃が及ばないよう、退路を確保しながら間合いを維持するだけで精一杯だ。
その激しい攻防の最中、壁際を滑るように移動していたシィが、ゴーレムの肩から腕にかけての動きを鋭く見極める。
「……次。右腕を振り下ろした直後、肩が一瞬止まりかける……! ガルド、行ける!」
シィの合図が響いた瞬間、ガルドが低く身を構え、壁際から飛び出そうとした。だが――
――ズドォン!!
ゴーレムが不規則な踏み込みを見せ、打ち砕かれた石畳の破片が散弾のように舞い散った。凄まじい衝撃と風圧が進路を塞ぎ、ガルドは咄嗟に身をひねって壁際へ退避する。足元を滑らせながら、どうにか巨腕の直撃を免れた。
「チッ……一筋縄じゃいかねぇな!」
「あきらめんな、次で行くぞ!」
バルドが大剣の柄を握り直し、レオンへと鋭い視線を送る。
レオンは力強く頷いた。今度は、ただ攻撃を避けるだけではない。ゴーレムの振り下ろしを利用し、ガルドが接近できる一瞬を作り出す。
レオンはあえてゴーレムの攻撃範囲の際まで踏み込み、頭上から襲いかかる岩の巨腕に、大剣の広い腹を絶妙な角度で打ち当てた。
――ズズンッ!!
真正面から受け止めるのではなく、刃の側面で力を受け流す。巨腕の軌道がわずかに横へ逸れ、勢いを殺しきれなかったゴーレムの巨躯が前へと傾いた。
その拍子に、右肩が支柱の陰から大きく姿を現す。
一瞬だけ生まれた、絶妙な隙。
「今だ、ガルド!」
「おうよっ!」
ガルドは壁際を強く蹴り、巨腕が振り下ろされた直後の隙を突いて右肩へと一気に駆け寄った。
低く身を沈めたまま装甲の隙間へ手先を滑り込ませ、目打ちの先端で内部の物理構造を慎重に探る。指先に伝わる硬い感触。そして、金属に触れた瞬間に返ってきた冷たい音。
「……なんだありゃ!? 関節の接合部に、本来の石組みとは違う金属部材が噛み込んでやがる!」
ガルドが声を張り上げた。
古代の石造構造の中に、後から取り付けられたような不自然な金属部材。ガルドは目打ちの先端で引っかかりを確かめようとしたが、部材は深く噛み込んでいる。短い接近時間では、その内部構造や安全な取り外し方までは見極められなかった。
その間にも、ミリスとリゼリアは干渉針を手に、中央装置の様子を凝視していた。
「確認します……! ゴーレムの肩関節の動きが止まりかけた瞬間、中央装置の魔力にも変化が現れました!」
ミリスが干渉針の振れ幅を見つめ、声を張り上げる。
リゼリアが観測結果を確かめながら、真剣な面持ちで続けた。
「ええ、記録にも同じ傾向が出ているわ。肩関節に噛み込んだ金属部材が、この変化に関係している可能性はある。ただ、直接のつながりはまだ確認できていない」
彼女は一度言葉を切り、中央装置へ視線を向けた。
「偶然と片付けるには気になる一致ね。ただし、中央装置から直接魔力が伝わっているのか、どのような経路を通っているのかまでは、まだ分からないわ」
ガルドが発見した、肩関節に噛み込んだ不自然な金属部材。
そして、ミリスとリゼリアが観測した、ゴーレムの動作停止と中央装置の魔力変動との時間的な重なり。
報告を聞いた俺の頭の中で、別々に集められた情報が少しずつ形を結び始めていた。
(……肩関節に噛み込んだ金属部材。動きが止まりかける瞬間に起きる、中央装置の魔力変化……。
まだ、部材の役割も魔力との関係も分からない。だが、関節の構造と魔力の変化を合わせて調べれば、守護ゴーレムを止める手掛かりが見つかるかもしれない……!)
単に異物を発見しただけではない。次に何を確かめるべきか、その方向が見え始めていた。
それこそが、俺たちが手に入れた『攻略の糸口』だった。
「みんな! 次に調べるべきことが見えたぞ! ガルドが見つけた関節の部材と、中央装置の魔力変化……この二つを関連づけて調べるんだ!」
俺の声に、仲間たちの表情が引き締まる。
だが、その直後――
――ゴォォォン!!
ゴーレムの頭部にある黄色い光芒が激しく明滅した。
ゴーレムはガルドの動きを追うように巨躯をひねり、振り下ろしたばかりの巨腕を大きく振り戻す。先ほどまでとは異なる軌道で、ガルドがいる壁際へと岩の拳が迫った。
「ガルド、引け!!」
バルドの叫びと同時に、壁際から躍り出たシィがガルドの服を掴んだ。
「っ、何を――!」
「しゃがんで!」
シィはガルドを引き倒すようにして、その場から一気に引き離した。
――ズドォォォン!!
直後、二人が直前までいた石畳が粉々に砕け散った。凄まじい石屑の煙が舞い上がり、壁面にまで細かな破片が叩きつけられる。
瓦礫の上に転がり込んだガルドは、息を荒げながらも素早く身を起こした。顔を上げたその口元は、先ほどまでの焦りを押し殺すように、きつく引き締められていた。
「……助かった、シィ。外し方も構造も、まだこれからだ。だが、狙うべき場所ははっきりしたぜ!」
シィは短く頷き、再びゴーレムとの距離を測る。
体勢を立て直す古代の守護者。そして、不気味な黄色の光芒を強める中央装置。
八人は互いに頷き合い、さらなる緊張感の中で次の行動へと意識を研ぎ澄ませた。




