93 元宮廷魔術師団長がやってきたぞ!
誤字報告いつもありがとうございます。
「うおおぉぉぉぉぉ!」
「なんたる事じゃ! この私が毛布に屈するとは!?」
「これはすごいな! いくらでも寝れそうだぞ!」
「フカフカで暖か~い!」
やばいぞこれ! オルトロスの毛布! 適度な重さに素晴らしい手触り、そしてこの保温性! それでいて気密性は低いようで、熱くなりすぎないというまさにチート毛布! まさか毛布にチートを感じてしまうとは恐ろしい… オルトロスでこれならケルベロスの毛皮で毛布を作ったら、一体どんな代物が出来上がってしまうんだ? きっと寝床から出られなくなるに違いないな!
「しかしなんだ、これならダンジョン内での野営であっても疲れは取れそうだな」
「うむ、むしろ寝すぎてしまいそうじゃ。じゃがバリアで作る寝床は冷えるからの、これがあれば快適になるじゃろうな」
「まさか俺のサイズの毛布が手に入るとは… こんな事は初めてだな」
「グレイはでかいからなー、人間用だと小さすぎるから特注して正解だったな」
「ボクもう動けない…」
やばいぞこれ! アイシャがすっぽり包まって動かなくなってしまった!
猫は炬燵で丸くなるとはよく言うけど、キツネもそうなのかな? どちらかというと雪の中でも元気に走り回っているイメージがあったんだけど、今のアイシャを見る限り猫っぽさが全開だな。
とはいえ狐はイヌ科のはずだし、寒い冬でも走り回ったりはするんだろうな。まぁピッタリとついてくる姿はネコ科じゃ考えられない従順さを感じるし、元気いっぱいなところも好ましいところだ。
まぁアレだ… 日本に於いての犬猫の特性が、獣人に適用されるとは思ってないからあまり決めつけるのは良くないだろうな。きっとこれも個性なのだ!
「しかし良い物が手に入ったのぅ、オルトロスの毛皮でこれなのじゃからケルベロスの毛皮で作ればどれほどの…」
「全くだね。俺もそれは思ってしまったよ。毛皮集めは気合を入れないとな! 俺は出来ないけど!」
「そこは俺達に任せればいいのだ、ご主人はミスリルを集めながら待っていればいい。しかし寝具にはさほど興味はなかったのだが、この毛布だけでこれほど快適になるとは思わなかったぞ」
そっかそっか、グレイも眠りの大切さに気付いてしまったか… だけど良い眠りは翌日のコンディションに直結するからね、これからは野営も楽しくなるだろうよ。
コンコン 「すいませ~ん、ヒビキさんにお客さんが見えてますよ~。1階ロビーまで来てくださ~い」
この間延びする話し方は、この宿の主人の奥さんだ。
「お? 俺にお客さん? ギルドの人かな?」
「さて、どうじゃろうな。一応誰か護衛に付いた方が良いじゃろうな。私が行こうか?」
「いや、別にいらないんじゃないか?」
「ダメじゃ! 主に何かあれば大変じゃ!」
「あ、ハイ。じゃあクローディアについてきてもらおうか、グレイじゃ相手を怖がらせてしまいそうだしな」
「それが良いじゃろう。まぁギルド関係者なのであればグレイでも問題は無いのじゃが、誰とも分からん状況では敵対行為と取られる恐れもあるからの… まぁそんな事を言うのは馬鹿な貴族の使いくらいじゃがな」
「じゃあちょっと行ってくるからのんびりしててよ」
「うむ、承知したぞ。まぁ俺が出ていくと敵対行為になるというのは納得がいかないがな」
「何かあれば声を出してください! ボクの耳なら聞こえますから!」
「ああ、頼りにしてるよ」
グレイは複雑そうな顔をし、アイシャは包まった毛布から顔だけ出して声をかけてくる。いい感じでゆるゆるしているが、危険があると分かれば2人共瞬時に戦士になるからな… そういうところはすっかり信用しているよ。
とりあえず部屋から出て、1階ロビーまで移動をしてみる。
ぶっちゃけこの街で知り合いと呼べるのはギルドの人だけだ、それ以外となれば… もしやアレか? 勇者の使いか? 確かに気を付けるようにといわれていたけど、宿に突撃されたんじゃどうしようもないじゃんね… どうしようか。
1階ロビーに着くと、店主の奥さんが角の方にある応接セットのような場所へと案内をしてくれる。そしてそこには1人の中年男性? 中年というにはまだ早いといった感じの男性が座っていたのだった。
「こちらです~。もし飲み物とか必要になりそうでしたら食堂の方に移動をして、注文をお願いしますね~」
「あ、どうも」
しっかりと営業をしつつ去っていく店主の奥さん… うん、さすがにそこら辺はサービスしてくれないのね。しっかりしてるぜ。
そして俺に気づいた来客といわれていた男性が立ち上がり、俺のほうに歩いてきた。
「突然の訪問に応じてくれて感謝する。私の顔は覚えているかもしれないが、ゴーマンレッド王国にて宮廷魔術師団長を務めていて、異世界より人を呼び出す儀式召喚の責任者をやっていたガラハドと申す。爵位を持っていて家名もあったのだが、亡命と同時に捨ててきたのでガラハドと呼んでほしい。
今更こうして顔を合わせられる立場にない事は重々承知している、だが我々魔術師団はあの国王の横暴さに耐えかねて亡命してきたので、敵対する意思はないという事を直接伝えておかねばと思いまかりこした」
「あー、やっぱりそうだったんだね。まぁ顔は正直覚えていなかったけど、ローブに描かれている紋章がゴーマンレッド王国のものだと聞いて気にはなっていたんだよね。ああ、そういえば召喚された時には名乗っていなかったね… 俺はヒビキ、今は冒険者をやっているよ」
「ヒビキ殿… 噂は聞いておりますぞ、この街のダンジョンの最高到達点の達成者だと」
「ああ、それはね… 俺についてきてくれる3人が強いからそんな事になっているんだよ」
よく見るとこの男性… ガラハド氏は結構やつれた顔をしているな。
しかし一国の宮廷魔術師団長なんてエリートが亡命なんて簡単に出来ちゃうの? 聞いた話では80人ほど引き連れてとの事だったけど、そんな事になってたらゴーマンレッド王国は防衛的にまずい事になってるんじゃないの?
「先ほども言ったが我ら魔術師団はすでにゴーマンレッド王国とは一切関係はない、信じてもらえないかもしれないがそれは本当の事なのだ。なのでこちらから敵対行為を取ることは無いとだけ伝えておきたいと思ってな… 聞きたい事があるのならば、知っている事は教えると約束しよう」
「まぁ敵対しないっていうのであれば、俺としては問題は無いんだけど… 一つだけいいかい?」
「何なりと」
実際に召喚に携わった魔術師というのならば知っているはず。呼び出す事は出来るんだから戻す事も出来るんじゃないかって事を… まぁ期待はしないで聞くだけ聞いてみよう!




