85 タケノ・コノサト、ダンジョンに入る
誤字報告いつもありがとうございます。
100階層転移陣の部屋でのんびりと夕食を取り、帰還は明日にする予定なのでバリアで寝床を構築。今回は魔物の出ない場所なので壁は無しにした。そして早速それぞれがケルベロスの毛皮を敷いてその上に座り込む。
「これは良いの、野営が楽しくなりそうじゃ」
「宿に泊まる時だってベッドに敷けば良いんだよ、それだけで今までとは違った寝心地になると思うよ」
「そうじゃな。ベッドも悪くはないんじゃが、この手触りを知ってしまうとどうにものぅ」
クローディアはしみじみとそう語る。
まぁ宿に限らずこの世界の人はベッドに頓着しなさそうだから、それこそ王侯貴族でもないとベッドに金をかけたりはしないんだろうな。しかしこれで睡眠の質が大幅アップは間違いなしだ! あまりの心地良さに寝坊してしまわないかそっちの方が不安になる。特に野営中はね… バリアで全周囲っているとはいえ魔物がうろついているのに熟睡はさすがにね…
夕食後、明日の帰還までは自由行動をせがまれて許可したら… なんと1時間おきにケルベロスをやっつけにちょいちょいボス部屋に行くとの事、なんとも元気な事だ。
そして今回あまり目立たなかったアイシャも戦闘を試してみるとの事で、リポップまでの間に武器の手入れを始めている。
「クローディア、一応ホワイトヒールステッキを預けておく。まぁだからといって無茶はしないようにな」
「任せておくのじゃ。やはり100階層のボスだけあってこのダンジョンでは最高の経験値があるじゃろうからな、次からはまたミスリルを狩るじゃろうし今の内にレベル上げじゃ」
「寝不足にならんようにね…」
やる気は満々のようだし好きにやらせよう。俺は… そうだな、毛皮の感触を堪能しているか!
SIDE:ナイトグリーン王国騎士団、第1部隊隊長タケノ・コノサト
「よし、準備は良いか!」
「「「はいっ!」」」
「うむ、ではこれよりリャンシャンダンジョンの視察に入る。魔物の質は他のダンジョンと変わらんそうだが気を抜くなよ!」
「大丈夫ですって隊長。何といってもFランクの冒険者が最高到達点を保持しているダンジョンでしょう? 俺達のように最前線で活動していた部隊で攻めればすぐですよ。しかし、この田舎冒険者どものレベルが知れますよね」
「だから油断はするなと言っているだろうが! 相手が誰であれ、我ら勇者様に付き従う第1部隊が恥を晒すわけにはいかんのだぞ」
全くこいつらは… まぁ確かに、いくらオーガとエルフに獣人がいるからといっても所詮力を発揮できない奴隷だ、そんな奴隷を連れた冒険者がイケたというのであれば、気力も体力も万全な俺達に行けないはずはない。
ギルドマスターめ… 俺達に80階層の到達はできないなどといった失言を謝罪させてやる。
「よし、では出陣だ! 今日は視察だけだから10階層を目安に戻ってくる予定だ、行くぞ!」
早速二つの部隊でダンジョンへと侵入する。ダンジョンの出現する魔物は世界中にあるすべてのダンジョンでほぼ共通しているというのが常識だ、10階層くらいであれば夕方前には到達するだろう。
俺達の部隊もナイトグリーン王国にあるダンジョンには研修でよく言っていたからな、ゴブリンやコボルドなんかを相手に後れを取る訳がない。だからあくまでも視察という体でダンジョン入りしたのだが… どうやらその認識は間違っていたようだ。
「クソッ、まだ階段は見つからないのか? というかギルドで地図は売っていなかったのか?」
「すいません隊長、売っていたと思いますが購入はしていませんでした。どこのダンジョンも同じだと聞いていたもので」
「この馬鹿が! 出てくる魔物が同じというだけで、マップまで同じな訳がないだろう! しかもなんだ? このダンジョンはやたらと広く感じるが」
「はい、先ほどの6階層辺りから広がっていると思われます」
「ふむ… これは入手する情報が不足していたと言わざるを得んな。だがまぁ良い、視察のつもりだったから水も食料もほとんど持って来ていないから急ぐぞ!」
「はいっ!」
まずいな… 出てくる魔物は問題ない。所詮低級の魔物だから危険はないが、地図も持たずにダンジョンに入ってしまった事による精神的な不安が隊員たちの士気を大きく下げてしまっている。後は日帰りのつもりだったので水と食料の量だ… 夕方までなら確かに持つだろうが、このペースでは今日中に戻るという事は困難だと誰でも分かるだろう。すでに昼を過ぎて結構経っているのにまだ7階層にいるんだからな。
しかしこの失態は隊長である俺のせいだな… ギルドマスターに煽られて平常心を失い、入る前に確認してなければいけない事を怠ったからだ。
とりあえず隊員たちの士気をあげないといけないな、この階層程度の魔物にやられる事は無いだろうが、無駄な精神疲労は明日からの行動に支障が出てしまう。
「ちゃんと隊列を組め、こんなレベルの魔物にやられる俺達ではない、予定通り今日は視察なのだから緊張感を保ったまま速やかに進むぞ!」
「そうですね… 戻ったら地図を買わないといけませんね」
「うむ。しかしまぁナイトグリーン王国からの移動中に戦闘はなかったしな、久しぶりだからといって油断はするなよ?」
「もちろんです!」
まぁ伊達に魔境にて戦闘を重ねていたわけではないからな、ただ今日は見知らぬダンジョンにて発生したトラブルが原因の士気低下だからこのミスを次に活かせればいい。
「戻ったら酒だな」
「あ、良いですねぇ! お供しますよ!」
「仕方ない、ミスして酒など本来はあり得ないんだが今回は特別だ、俺が奢ってやろう」
「おおおおお! じゃあ急ぎましょう!」
ふっ、どうやら士気は戻ったようだな。単純な連中だが、その単純さが今回良い方に傾いたという事だな。
ま、どちらにせよまずは戻らなくてはいけない。戦闘は負けなくても道に迷うというのは案外クルからな… 急がなくては。
我ら部隊は精鋭だ、全員がダブルスキルの攻撃特化であり、平均レベルと進む事の出来る階層が同等だという冒険者の常識には当てはまらない。たとえ狩場が80階層だろうと勝てるはずだからこんな所で躓く訳にはいかないのだ!




