69 やる気? あるんだけど…
誤字報告いつもありがとうございます。
狩りが終わり、夕食を食べ終えてまったりタイム… グレイは金棒のお手入れを始めてアイシャは寝床で転がり出すいつもの風景。
「そうじゃ主よ、文字を覚えたいと言っておったがなかなか機会が訪れないのじゃが… 覚える気はあるのかの?」
「おお? そういえばほどほどに忙しかったからやる時間が無かったな。というか地上でゆっくりなんかしてないだろ」
「それもそうじゃが… やる気があるのであれば今からでもどうかと思ってのぅ」
「んー、まぁいつまでも文字が読めないのは悔しいからね… 少しずつでもやっていくか」
「うむ」
なぜか突然始まった勉強会、グレイは邪魔になるからと隅っこに移動して武器のお手入れを再開し、アイシャは困ったような顔をしながらグレイの背後へと隠れてしまった… つまり勉強は嫌いって事なんだろう。まぁそんな年頃なのかもしれないな… 俺もそうだったし。
しかしまぁ読み書きが必要な場面で毎度毎度クローディアとコソコソするのもなんだしな、象形文字ほど難解とも思えないから頑張ってみるか。
「ここがこうしてこうなるのじゃ!」
「ほほぅ! これはアレだな、日本で言うところのローマ字とよく似た感じの文字列だな。母音が決まっていて各頭文字に当てはめていくと… あかさたなで考えると覚えやすいかもしれないな」
ローマ字方式だと分かれば後は暗記だな! 母音さえ理解してしまえば後はなんとかなりそうな感じだし、1時間ほど書き綴りをすればイケるかもしれない!
「ふむ、さすがは主じゃの。これほど短時間である程度理解してしまうとは」
「まぁ俺の国の言葉は俺の国だけしか使われてない特殊なものだったからね、外国の者と会話するためには最初に国際標準といわれている言葉を覚える必要があったんだよ。つまり言葉を覚えるための勉強の仕方を知っているって事だね」
「なるほど… この世界では皆が同じ言葉を使っておるから勉強の仕方なんぞ覚える必要が無いからの、全く世の中は広いのぅ」
「まぁとっかかりは掴めたよ、ありがとうね。後は何度か自分で書いてみたり依頼表を読み取ってみたりと試してみるよ」
「うむ。ただ文字が汚くて読みにくかったり別の文字に見えてしまう場合もあるからの、そこには注意が必要じゃな」
「そりゃそうだな、それはどこの言葉でも同じだろうさ」
よしよし、仕組みさえ分かってしまえば後は反復するのみ! 現状ダンジョンの中だから練習できそうなものは無いけど戻ったら色々と見てみるか。
しかしアレだな… グレイ達を運んでいた奴隷商人の馬車から持ち出してきたゴワゴワの紙っぽいのと羽ペンのような物、まさかこんな所で役に立つとは! 普通であれば余計な荷物は処分するんだろうけど、俺のスキルのゴミ箱がこれほど使えるとは… 物は使いようとはよく言ったもんだな。
書くところが無くなるまで自分の名前やらグレイ達の名前やらを一心不乱に書き綴る… うん、なんかもういつでも実践投入できんじゃね? 知らない文字を最初に書く時ってついついミミズが這ったようなよれよれになりがちだけど、かなりスムーズに書けるようになってきてる。いいねいいね。
なんとなく充実感を覚えながらグレイの方を見てみる… するとアイシャ、もう寝てしまっているようだ! まぁ寝る子は育つというし、子供の頃は昼寝とかもして寝る時間は多かったもんな… まぁアイシャを子供扱いをするつもりはないけど無理をさせるつもりもないからね。
「よし、ひと段落着いたしそろそろ寝ようか」
「承知したぞご主人。今回は潜れる期間が短いからな、明日も朝から働かせてもらおう」
「まぁほどほどにね」
SIDE:冒険者ギルドリャンシャン支部、ギルドマスター
「おいっ! そろそろマズいぞ!」
「落ち着いてくださいギルマス」
「これが落ち着いていられるか! ミスリルを納品されるのは有難い事だがこのままでは金庫が空になってしまうんだぞ、毎回片道1ヶ月かけて集金してたらそのうち払えなくなってしまうぞ!」
そう、ミスリルの納品を頼んだのは俺だしそれを最前線に送ると言ったのも俺だ。誰が悪いのかと冷静に考えれば俺しかいないんだが今はそんな事を言ってる場合じゃねぇ!
ギルドの金庫にある金が底をつきそうなんだ! ヒビキ達だけを相手にしているわけじゃないからある程度の予算はいつでも入れておかなくちゃいけないんだが、ミスリルの単価が高すぎて毎回大金が消えていくのだ。
「それじゃこうしたらどうでしょう… ナイトグリーン支部に渡す前に王都支部を経由させるのです。王都支部に一度立て替えさせて資金をこっちに回してもらい、こっちはこっちでミスリルの回収だけをメインで担う事にすれば我々職員の負担も減るし良いのではないかと」
「うーむ、現状それしか手はないか。しかしそれをすると王都支部の連中に中抜きをされてしまうんだがなぁ…」
「それは仕方のない事でしょう、王都支部だって素通りさせてしまっては労力だけの負担になってしまうので」
「ぐぬ、そこは仕方がないのか。間に何かを挟んでしまえばそうなることは明白、最悪我々支部は赤字を出さなければ良い事だが… ミスリルを流して儲けが無いのももったいなくないか?」
「だから通常の買い取り価格の他に輸送費を上乗せし、単価のかさ増しをすれば利益は出ると思います。まぁそれをやるとナイトグリーン支部だけが割を食う羽目になりますがね」
「それは一向に構わん! 奴らはギルド本部からも余計に予算が出ているし、周辺各国からの支援もあるからな。安全な王都支部の連中に儲けさせるのは心の底から腹立つが、今後も安定してミスリルを受け取るにはそうするしかないか。とりあえずそれで話を進めてくれ、もしも他にも良い案を考え付いたらすぐに報告をしろ! 以上で会議を終了する!」
ふぅ、やはり我が支部だけでは回せないか。
それしか手はないと言え、安全な場所で商人や貴族を相手にしてるだけの王都支部に1枚噛ませるのは正直気に食わん… 早く他に良い手がないか模索せねばいかんな。
手っ取り早く売り捌くのであれば商業ギルドに回せばいいんだが、あの連中は金儲けが最優先だからナイトグリーン支部にミスリルを送ったりはしないだろうから始末に負えないのだ。やはり冒険者ギルド内部だけでどうにかしないとな。
「はぁ、またコカトリスの肉が食いてぇな、商売抜きで置いていってくれないだろうか」
自分の知らないところでコカトリスの肉を、職員たちが食べている事に気づいていないギルドマスターはぼそりと愚痴をこぼすのだった。




