52 お散歩終了
誤字報告いつもありがとうございます。
よし、一度休憩にしようか。軽くショックを受けたけどアイシャは運動能力に特化した獣人であり、その中でも特に希少種族の狐人族だ。詳しい事は分からないけどきっとすごい種族なんだろう! アイシャは若くてもその血を引く… いや、純血種なんだろうね多分。
「アイシャ、ちょっとおやつにしようか」
「おやつですか!?」
ふっふっふ、アイシャを釣るのは3人の中では一番容易いからな… まぁやる気になれば3人とも簡単に釣れるんだけど、おやつだけで気を引けるのでやはりアイシャが一番簡単だ。
「昼飯は戻って食べるから軽くな」
「はいっ! じゃあアップルカスタードパイとソフトクリームサンデーのストロベリーで!」
「はいよ、承り~」
クローディア曰く、この世界においての甘味は蜂蜜を使ったものと果物を使ったものが一般的で、それでも高価な嗜好品だとの事だ。砂糖もあるそうだけど胡椒と同等の価値が付けられており、それなりに裕福な貴族でもない限りそうそう手に入れる事ができないんだとさ… ちなみに胡椒は、地球世界での中世くらいと同じくらいの価値観のようで、少量にもかかわらず金貨が飛び交うものだそうだ。
手ごろな岩に腰を掛けて休憩をとる、アイシャはすでにアップルカスタードパイに夢中だ… 良い笑顔で黙々と食べているね。
そういえばアイシャも良く笑うようになったよな、3人の中で一番暗かったからなぁアイシャは。まぁそう考えればグレイもクローディアも表情はずっと良くなっているし、色々と満喫できているんだと思うよ。
さて、実際に走ってみてある程度のスペックは分かった気がする。思ったよりもすごいって事が良く分かったんだ。後はこれらを使いこなしていくって事が重要なんだろうけど… どうしようかねぇ、アイシャと組み手でもしてみるか? もちろんアイシャには全力で手加減してもらわないと瞬殺されてしまって訓練にならないだろうけど、咄嗟に動けるようになるには体に覚えさせないといけないからな。まぁアイシャならきっと上手に手加減してくれると思う、グレイよりもずっと上手に…
「よし、休憩が終わったらちょっとだけ手合わせしようか。もちろん俺は戦闘技術なんて持ち合わせていないから手加減してもらわないとダメだけど」
「手合わせ? ご主人様と戦うの? 嫌です!」
「いやいや、ただの練習だよ。アイシャは避けるとか受けるとかしてもらって、俺の動き方で悪いところを教えてほしいんだ」
「むー、避けるだけで良いんなら…」
あれぇ? グレイとは結構な頻度で訓練しているはずなんだけどなー、でもやっぱりグレイと比べたら俺なんかはワンパンで沈むだろうから嫌なのかもしれないな。
改めてアイシャと向かい合い、腰を落として構えているアイシャを見る。太い尻尾がゆらゆらと揺れていて気になるが、ここで黙っていても仕方がないので先手を打とう。小柄な子に向かって19歳の男性が向かっていくなんて絵面はひどいんだろうけど、幸運にもギャラリーはいないから気にしなくて済むな。
さて… 記憶にある総合格闘技の試合を思い出してみる。ジャブで牽制しつつローキックで動きを鈍らせ、タックルで倒して関節技をって、地面が酷くてグラウンドは無理だな… 攻めてる俺の方が怪我しそうだ。じゃあどうするか、ローキックまでは同じだとして決め技はやはりストレートパンチかハイキックかって感じかな? まぁまず当たる事は無いんだろうけどね。
思い切って間合いを詰めて自分なりの最速でローキックを放ってみる。
パシッ!
「うぇ?」
俺の最速ローキックは、なんと片手で受け止められてそのまま掴まれた。ヤバイ、倒される? そう思って掴まれた足を引き抜こうと力を入れるとあっさりと引き抜ける… いや、引き抜いたじゃなくてアイシャに放されたんだね。
引き抜いた足が地面に触れるよりも速くアイシャが詰め寄ってくる… マジで速いな!? 一応見えるけど対応なんて出来ないぞコレ。
「とー!」
可愛らしい掛け声とともに背後をあっさり取られ、そのままおんぶの姿勢になる感じで飛びつかれた… 細い腕がするりと俺の首に回ってきた! これはスリーパーホールドか? 締められる!
慌ててその腕を振り払おうとするが、両腕でがっちりとホールドされてしまった。ちなみに両足は俺の胴体をしっかりと挟み込んでいる… はい負けですねー、先手を打っておきながら瞬殺されてしまったよ。
「ギュー」
「いやぁすごいな、速いのは知っていたけどこれほどとは」
「ボクはグレイよりも速く動けるよ! でもまだ攻撃が軽いとか言われて全然勝てないけど」
「まぁ実際アイシャは体が軽いからな… こうして背負っていても全然負担にならないくらいだし」
「じゃあこのまま街に帰ろう! ご主人様の背中に乗ったまま」
「そうするか…」
結局アイシャにじゃれつかれただけのような気もするが、地力の差というか勝てるビジョンが存在しないねコレ。まぁそういう事が良く分かったと思っておくか。
アイシャはおんぶのまま降りようとしないので、マラソンくらいの速度で街に戻る事にした。途中で全力疾走とかやったもんだから、結構街から離れてしまっているがそれほど時間もかからずに戻れるだろう。
それにしてもアレだな、想像以上に体が動く事。反射神経とかどうなってるんだと疑問に思うが、レベルのある世界だからそういうもんだと割り切るしかないんだろうな。しかしこうして寄生のようにレベルが上げられていくが、逐一自身のスペックについては把握しておかないといけないんだろうな。
気がつくと高レベルに足を踏み入れていて、きちんと自身の能力値をアップデートしていく事を日課としよう。アイシャ達3人は日々戦闘をしているから、レベルアップによるステータスの変化にも敏感だろうし、その都度対応しているから平気なんだろう。俺も出来る限りそうしていこうかな。
短い時間だったけど色々と知る事ができて良かったよ。
予定通り昼飯前に町に戻ってきたが、それでもアイシャは俺の背中から降りようとしなかったのでそのまま宿まで行く事にする。普段寝る時はアイシャが湯たんぽ代わりにして雑魚寝しているせいか、慣れているから割と平静を保っていられるが、よくよく考えたら見た目が幼女のアイシャを背負っているなんてアウトなんじゃね? 外から見れば…




