32 ギルドでのアレコレ
誤字報告いつもありがとうございます。
ヒビキ達がダンジョンから帰還する2日前、冒険者ギルドではひと騒動が起きていた。
「おい! みんな聞いてくれよ。奴隷を3人も連れた坊ちゃんがいただろう? あいつの連れていたオーガの奴隷に俺達のチームメンバーがやられちまったんだよ!」
「20階層で狩りをしていたら突然ドロップの魔石を寄こせと脅してきたらしくてな、抵抗したら殴られたというんだ…。その殴られたメンバーは大怪我をしてな、教会で治療をしなければいけないほどだった。あいつらが戻ってきたら俺達の面子にかけて治療費や慰謝料の交渉するつもりだから静かに聞いていてくれ」
赤い髪の男と青い髪の男が大きな声でギルド内にいる冒険者達に話しかける。
「受付の嬢ちゃんもそのつもりでいてくれ、もちろん証人はたくさんいるぜ」
「ああ、だがこれは俺達のやり方で交渉するからギルドは余計な口を出すんじゃねーぞ。冒険者同士のいざこざは、本人同士で解決するもんだろ?」
「ちょっと待ってください。ダンジョン内で怪我をするほど暴力を振るったというのであれば、ギルドとしても口を挟まざるを得ませんよ。事と次第によっては冒険者証を剥奪する事になりますからね」
「だからそれが余計な事だって言ってんだよ! 自分達で片を付けるってんだから黙って見ていろや!」
「とりあえず俺達はもう行くが、あいつらが戻ってきたらまた来るぜ」
「ああ、ダンジョンの出入り口にはうちの者を張らせておくからな…。くれぐれも余計な口出しをして逃げられたりしないように頼むぜ」
そう言って2人はギルドを出ていった。
「今の話本当だと思う?」
「いや、間違いなく嘘だよね。だってあの4人組…40階層付近の魔物の魔石を持って来ていたのよ? 今更20階層で狩る訳がないし、20階層の魔物の魔石になんて興味すらないかもしれないわ」
「そうよね…。それにあの人達の素行の悪さは有名だし、ギルドマスターがいないからって調子に乗っているんだわ」
ギルドの受付嬢たちは怪訝そうな顔で話し合う。
「とりあえずどうすんだ? おれはその坊ちゃんとかいう奴を見た事無いんだが、そんな事をしそうな奴だったか?」
「いいえ、多分どこか貴族の出自だと思うけど態度は横柄じゃないし、連れていた奴隷達も大人しくしていたわ」
「うんうん。奴隷なのに身綺麗にしていて臭くなかったから、毎日ちゃんとお手入れされていたと思う。そういった事にお金を使える人が20階層程度の魔石を奪いような真似は…ねぇ?」
「ふむ。じゃあとりあえず俺達は静観する事にしておくぜ、あいつらはいつだってせこい真似ばかりしている連中だからな…。ギルマスにも早く戻ってくるよう連絡をした方が良いかもな」
「分かりました。それでは皆さん、今後起こるであろう荒事には不干渉でお願いします!」
「「「おうっ!」」」
何かが始まろうとしていたが、元々信用の無い連中だったようだ。
そしてその2日後、ダンジョン出入り口にヒビキ達の姿が現れたのだった。
SIDE:ヒビキ
お日様だー! やっぱり地上は良いね!
ダンジョン探索も悪くは無いんだけどやる事が無いからなぁ…もう45階層を過ぎたあたりから敵の攻撃とか目で追えなくなっているんだよね。なのですでに戦闘の参加や試し撃ちなどもダメだと言われている。というか、グレイやアイシャの動きも速すぎてねぇ。
「ご主人様、なんか変な感じがするです」
「変な感じ? 具体的には?」
「たくさんの冒険者がこっちを見てるんです、その中に敵意も感じます」
「ほほぅ…」
敵意ねぇ…アイシャはそういった事にはすごく敏感だから間違いではないと思うけど、しかしなんで敵意? この街には実質宿屋くらいしか利用していないし、その間誰とも関わってないはずだ。あ、ギルドは別としてね。
「ご主人よ、アイシャの言う通りだ。何やら遠巻きにこちらを監視しているような気配がするな」
「うむ、どうやら面倒事がやってきたかもしれないの。どうするのじゃ?」
「どうするって?」
「襲ってきた場合の対処じゃ。反撃しても良いのかという事じゃな」
「ああなるほど、じゃあ反撃は許可。だけどなるべく怪我などさせないよう手加減してやってくれ」
「ふん、なかなか難しい事を言うご主人だな。だがそれが命令だというならば従おう」
「とりあえず何が起きているのかわからんからギルドで確認してみよう、どうせ魔石の換金もしなきゃだしね」
うん、確かに言われてみれば視線は感じるね。しかも遠巻きにして…嫌な感じだ。しかし何というかアレだな…この視線の感じはサークルの先輩方と同じ感じがするな。こう人を侮っているというか馬鹿にしているというか…一番嫌いなタイプの雰囲気だ。気分が悪くなるね…得体の知れない雰囲気ってのは。
ギルドに到着し、中に入るとあからさまに空気が変わるのを感じた。ざわめいていた喧騒がピタッと止み、顔こそこっちに向けないけど目だけが俺達を追っているような…。いや、何をしたいのか知らないが俺に気づかれるようじゃダメだろ! まぁいいや、ここで気にしたって何も解決はしないだろう。まずは受付に行って魔石の換金だな。
ササっと移動して受付に着くと、グレイとアイシャの背負っていた鞄を受け付け台の上におろす。
「じゃあこれの換金をよろしく」」
「拝見します…」
んん? 受付嬢もなんか微妙な顔をしているな…。これじゃ聞いても教えてくれないパターンなのか?
「おう待ってたぜ! よくもうちの若いもんをやってくれやがったな? 治療費と慰謝料で3000万ゴールドをキッチリ払ってもらおうか!」
「は? 何の話だ?」
「しらばっくれてんじゃねーぞコラァ! こっちには証人がたくさんいるんだ、言い逃れなんて出来やしねーぞ!」
「いや、そもそもあんたらはどこの誰だ? そしていつどこで何があって、そしてその若いもんって誰の事だよ?」
「てめぇ口答えする気だな? せっかく金で解決してやろうと思ってたが、どうやらボコられたいようだな? てめぇの奴隷がうちの若いもんを殴って魔石を奪っていったんだろう? 見ていたやつはたくさんいるんだからな!」
「ん? うちの奴隷が殴っただって? どこでの話だ?」
「ああ? そんなの20階層に決まってんじゃねーか! どうせお前らもそこら辺でしか狩れないんだろう?」
なんだこの茶番は…?今時のヤクザだってもっと知性的な悪さをするっていうのに、これじゃただの駄々っ子じゃないか。
 




