19 グレイの想い
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:グレイ
「ご主人はまだ起きてないのか?」
「まだ眠っておるよ。アイシャが程よく暖かいからな…」
「そうか… 腹が減ってきたんだがご主人が起きない事には無理だな」
「ふふっ」
「なんだ?」
「いやなに、主に拾われてから食う物に困らなくなって贅沢な体になってしまったと思ってな」
「まぁな、ご主人の出すハンバーガーはとても旨い。なによりも量の制限が無いから毎回満足するまで食べられる、奴隷に落とされてから初めての事だな」
ここはダンジョンの中だが、ご主人が使うステッキによって結界が張られ、安全地帯が構築されている。ダンジョンアタックにおいて最も重要な食べ物と、ゆっくり休められる空間をこうも簡単に作り出す事の出来るご主人はある意味怖ろしい人間だ。
確かにこの世界の人間とは思えないほど戦闘慣れをしていなく、1人で放り出すとあっという間に危機に身を晒されてしまうだろう。思わずそう思ってしまうほど危機に鈍感であり、すぐに騙されるのではないかと思うほどお人好しなのだ。
まぁ嫌いではないがな。
「ところでグレイよ、そなた気付いておるか? ハンバーガーにて得られるバフの効果がおかしい事に」
「ああ、さすがに鈍っているとはいえ自分の体だ、それくらい気付いているさ」
「そうか… 確か聞いた話では全てのステータスが3%アップするとの事だったが、体感3%どころではないと感じるのだ」
うむ、クローディアの言う事は間違っていない。俺も話を聞いた時は3%程度なら誤差だと思ったくらいだ… が、今日1日ダンジョンで戦ってみて感じたのは、10%くらい増えているんじゃないかと思うほど体が良く動いたのだ。
「これは私の予想じゃが… もしかすると違う種類のハンバーガーを食べる事によって重複しているんじゃないかと思っておる。ポテトフライやオニオンフライの効果はともかく、新しく増えたシェイクの効果もバフに加算されているのではないかと」
「なるほど、確かにそう考えれば合点のいく話ではあるな。つまりご主人のレベルが上がり、出せるハンバーガーが増えれば増える程我らは強くなれるという事になるな」
「時間制限があるがな」
「その程度であればいくらでも調整が効くだろう、効果が切れる前に次のハンバーガーを食べればいいのだ」
「まぁそうなんじゃが… ところで今の体調はどうじゃ?」
「む? 特に問題は無いが… なぜだ?」
「昨日の夕食で食べたきりじゃから、すでにバフは切れているはずなんじゃが…」
「むむ!? そういわれてみれば確かに、バフが効いている時と大して変わらん感じに思えるな」
言われて気付いたが、確かにバフは切れているはずなのに効果が残っているかのような気がするな。
「多分じゃが、同じ種類のハンバーガーを複数食べたら効果時間も加算されているとか… 思わんか? そなたは昨日の夕食でかなり食べておったじゃろう?」
「確かに…」
「これはアレじゃな、鈍った体をほぐすのは当然じゃがもっと深い階層に行っても問題は無いと思わんか? 私とグレイだけでも30階層くらいまでは余裕だと思うのじゃが」
「ふむ… ご主人はただ戦闘に慣れてもらい、効果的に癒しを振りまいてくれれば十分だしアイシャはただ若いだけで種族的に弱いという事は無いからな… ご主人が起きたら進言してみよう」
「そうじゃの。しかし… 私達はある意味幸運なのかもしれんな。奴隷に落とされた経緯は私もグレイも変わらんと思うが、ここにきて主に拾われた。異世界の食事に奴隷だというのに話を聞いてくれ、こちらの意見を求めてくる…」
「ああ、奴隷だというのに対等に扱ってくれるからな。しかも腹一杯にさせて武器まで与えるとは普通の主人であればやらぬ事だ」
「ただ主の言う事は確かに理にかなっておる。飯を食べて装備もしっかりしていれば十分に働けるからな、しかし世の奴隷持ちはそうは考えない… 目先の損失に目が行き、高い金を払って買ったであろう奴隷を使い捨てのように扱う。ほんに馬鹿じゃと思っておったが、同じ考えを持つ主に恵まれた。
受けた恩は必ず返すのがエルフの流儀、ここは一つ主の寿命が尽きるまで世話を焼いてやろうかの」
「それは我らオーガとて同じ事。まぁ我らの寿命を考えれば、人間であるご主人の寿命が尽きるまで付き合っても時間は残るからな… 個人的な復讐はそれからゆっくりとやれば良い。それまでじっくりと鍛えさせてもらう」
「まぁの、私達が鍛えて強くなれば、それだけ主は安全になる。もう数日も経てばアイシャも使えるようになるじゃろうし大丈夫じゃろ」
まぁアイシャはな… ご主人の事がすっかり気に入ったようだし、言われなくても同じ事を考えるだろう。俺は俺で好きな戦いを続けていけば、それがご主人の役に立つというのだからむしろ望むところ… これからは本当に楽しくなりそうだな、ご主人の出すハンバーガーも含めて…
しかしダンジョンは良い… 地上と違って獲物を探す手間が省けるからな。衰えていた感覚や闘争心、いろんなものが蘇ってくるようだ。今のご主人と一緒であればこうして戦闘する事には困らないだろう… なんせご主人のレベルを上げなければいけないのだからな。まぁただレベルが上がったからと言って、どんな奴にも負けないというわけではない。レベルによって基本的な能力は上がっても、戦闘する上で重要なのはスキルの方だからな… しかしまぁご主人は争いごとに自分から首を突っ込む事は無いだろう。万が一敵対する何者かに襲われたとしても、俺達で排除していけばいいだけの事だ。
ま、流れ矢なんかが来るかもしれないから、それらを回避できるだけのレベルがあればいいさ。
しかし… そろそろ朝飯を食いたいところだな、早く起きてくれないだろうか。
 




