177 グリーンウィンドステッキ、トルネードの魔法
誤字報告いつもありがとうございます。
2日後の昼食後、俺達はとうとう83階層への階段に到着した。
俺の記憶にあるリャンシャンダンジョンの83階層… ただただ1本道が続き、その道中ではエンカウントせずに巨大とも言える大部屋へと行き止まる。そして巨大な大部屋には数十ではきかないほどの魔物達がひしめき合い、中に入った俺達に向かって一斉に襲い掛かってきたんだよな。
「さて、モンスターハウスでの作戦なのじゃがな… 一つ提案があるのじゃ」
「む? 作戦など前回と同様で良いのではないか? 俺が多くの魔物を引き寄せ、クローディアが空中にいる魔物達を撃ち落とす。アイシャとシフは俺が漏らした魔物を相手にすれば完璧だろう」
「何を言っておるのじゃ。大体ここに来るまでの間、グレイには最前線で多くの魔物を相手にしてもらっていたじゃろう? 私が一番後ろで大人しくしておったのはここのモンスターハウスで魔法を試したいからなのじゃ! 81、82階層では好きなだけ魔物を倒したのじゃ、ここは私に譲るのが筋ではないか?」
「ぐ…」
ほぅほぅ、確かにずっと暇そうにしていたけど、いつものように前に出て魔物を倒そうとしなかったのはここで暴れるためだったのか!
「しかし試すというが何をするつもりだ? 放水して雷撃などをするというのであれば、今更試す事など無いではないか」
「クックック… 地形への被害が多大になるだろうと主から止められていたトルネードの魔法を試すのじゃ! ダンジョンであれば壊れる心配もないし、83階層のモンスターハウスならば広さも申し分ない… 絶対にここで試そうと決めていたのじゃ!」
あー、あったねぇそんな魔法… 極小規模とはいえトルネードってくらいだから、きっととんでもない事が起きるんじゃないかと思って使うのを止めさせていたんだっけ。
でもアレだな、どれほどのモノなのかはちゃんと把握しておいた方が良いのは確かだ。今後もうトルネードじゃないと打破できないって状況が来るかもしれないからな… こない可能性の方が高いかもしれないけど。
とはいえクローディアのやる気が限界突破しているようで、グレイですらやや引き気味に仕方ないと譲っているほどだ… これは止められないね。
「なに、全てを独り占めしようという訳ではないのじゃ。魔物の中心付近でトルネードを発動させ、その規模や効果、威力を確認した後は前回同様にすればいいじゃろ」
「ふむぅ…。だがそのトルネードという魔法を使ってどれだけの魔物が残るというのだ? ご主人が止める程の魔法なのだろう?」
「主が止めたのはその性質によるものじゃ。実際に竜巻が起これば木は薙ぎ倒され、田畑も荒らし尽くされるじゃろう? じゃから使いどころを考えてからと止められていただけじゃ。それに極小規模との事じゃし、自然に起こる竜巻よりも弱いはずじゃからかなり残るのではないかと予想しておる」
「うむ、そういう事であれば仕方がないな」
そんな話をしながら進んでいたため、気がつくとモンスターハウスへの入り口が見えてきている。うん、いかにもって感じの重厚な扉だね。
「さて… 先ほども言うたがまず私がトルネードを放つのじゃ。その効果範囲や威力などは未検証のため把握ができておらん、私よりも前に出るでないぞ」
「それは理解した、俺もその魔法の威力は気になるしな」
「トルネードの魔法が消滅したらグレイが前に出るがよい、私は対空攻撃を始めるのじゃ」
「うむ。ではクローディアは対空攻撃をしながらご主人の護衛をし、アイシャとシフは俺をスルーしてきた魔物達を頼む」
「承知しました」
「ボクもやるよ! 久々に全開で!」
おお? アイシャの全開という事は、種族特性であるという炎の魔法を絡めた攻撃をするという事だね? あのモフモフの尻尾に炎を纏い、回転しながら周囲に火をまき散らすのは芸術を見ているようで綺麗なんだが、初見だと尻尾が燃えているようにしか見えないから怖いんだよね…
各自、それぞれの武器を確認していざ! モンスターハウスへの扉を開く。
「おうおう、いっぱいおるのぅ」
「そうだな、4~500匹はいそうだな。腕が鳴るな」
「分かっていると思うけど無理はしないようにな? 手傷を負った場合は声を出してくれ、俺がヒールステッキを使うから」
「うむ、その時は頼むぞご主人」
「では… 出陣かの」
クローディアを先頭にモンスターハウスの中へと侵入開始、5メートルほど入っていくと中にいた大量の魔物達が一斉にこちらを向く。これはなかなかの威圧を感じるね。
「よし! では早速喰らうがよいのじゃ、トルネード!」
クローディアがステッキを掲げながら魔法名を叫ぶ。すると前方に一筋の白い線が地上から上に向かって伸び出していく… おおっと思いながら見ているとすぐさま空気が回転を始め、つむじ風を通り越して突然暴風の渦が現れた! これはすげぇ…
地上を歩いていた魔物も空中を飛んでいた魔物もみるみるうちに巻き込まれ、洗濯機の中にある衣類のようにぐるぐると大回転… 渦巻く風が見えるのは大体中心部から半径3メートルくらいかな? しかし、その範囲外にいた魔物達も吸い寄せられるかのように巻き込まれていく。
「おおっ! 見るのじゃ、竜巻の中にいる魔物達が斬り刻まれていくのじゃ!」
「なんと! あれはどういう事なのだ? ただ風に巻かれているのではないのか?」
「恐らくじゃが、あの竜巻の中にはウィンドカッターと同等レベルの真空波が出ておるのじゃろう。これは恐ろしい魔法じゃのぅ」
アレか? よく漫画とかにある竜巻の中でかまいたちが発生したとかなんとかってやつか? あーあー、コカトリスや鳥系の魔物達が根こそぎバラバラになっていく… これは封印確定で良いんじゃないかね?
「おいクローディア、トルネードの威力は分かったからそろそろ止めろ! 魔物が全滅してしまうではないか!」
「む? まぁ仕方ないの」
クローディアが魔法を解除したのだろう、巻き上げられていた魔物達がバラバラになりながら落ちてきている… 何とも形容しがたい光景だ。
「くっ! もう半数以上取られたではないか! もう出るぞ!」
まだ空中を彷徨っている死骸があるにもかかわらず、グレイは魔物目がけて飛び出していく。アイシャとシフもグレイの後に続いて行くが… 残っている魔物達のど真ん中にグレイが飛び込んだため、ほとんどの敵視をグレイが取る事となり瞬く間に取り囲まれてしまった。
「いやいや、大丈夫なのか? あれは」
「大丈夫じゃろう… グレイじゃし」
「しかし飛んでいた魔物は全滅したようだね… トルネードは今後、余程の事がない限り封印って事でいいかい?」
「まぁ仕方ないの… これ程とは私も思っておらんかったのじゃ」




