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荒くれ者

 リザードマン事件から3週間が経過し、フレイア魔法学校も普段と変わらぬ平穏な日々を取り戻していた。

 この時期になるとほとんどの学生は進路が決定しており、気忙しくしているのは一般受験に追い込みをかける一部の生徒だけである。しかしことアルテマ学園の一般入試という意味ではこの制度は形骸化している。素質あるものは事前に学園から調査され推薦枠を設けられるからだ。その為試験は実施するものの、一般受験での合格者は10年に1人というあまりに狭き門であった。

 その為、昨今ではアルテマ学園の一般入試を受ける生徒は片手で数えるほどしかおらず、入学したければ推薦を取れ、というのが常識となっていた。


 今年、フレイア魔法学校へ与えられた推薦枠は2枠。その枠を勝ち取ったのは、全科目トップクラスの成績で主席卒業が決まっているティア。そしてもう1人は実技訓練で常にトップの成績を誇っていたノヴァであった。



「はいっ? 今なんて?」

 

 職員室に呼び出されたイチカは声を裏返しなが聞き直す。


「イチカ=フランツァ。お前にアルテマ学園から推薦状が届いていると言ったんだ」


 担任から告げられた内容はあまりに突飛なものだった。


「いや〜それは間違いじゃないっすかね? だって俺ですよ? 特Aクラスでもなんでもない一般クラスの俺がアルテマ学園から推薦状なんて来るわけないじゃないですか」


 頭をポリポリと掻きながら率直に話す。


「なんだ嫌なのか。イチカ、お前も進学希望だっただろう?」

「それはそうですけど、俺の成績ってクラスでも真ん中くらいですよ? これ新手の入学詐欺とかじゃないですか?」

「まあ疑うのも無理はないか……実は今回の大型リザードマンの一件、あれがアルテマ学園長の耳に入ってな。是非にでも入学して欲しいと強い希望があったのだ」


 担任からのお達しに「あ〜……」と合点がいく。確かにあの大型リザードマンを仕留める学生がいれば学園としても喉から手が出るほど欲しい人材だろう。


「あの、それは前にもお話ししましたけどあのデカいリザードマンを倒したのは俺じゃなくてですね……」

「……そんな事は知っている。ただ結果として推薦を受けているのはお前だ」

「なんですかそりゃ? 本人に口止めされたから黙ってましたけどあのデカブツを倒したのは……!!」


 そこまで言い掛けたところで口を噤む。ギルはこの事は誰にも言わないで欲しいと言っていた。理由は分からないが、それでも本人の断りなくその約束を破るのはフェアではないと思ったからだ。


「……ちょっとその本人に聞いてきます。その推薦状は本来そいつが貰うべきものなんで」


 憮然で話すイチカに担任は嗜めるように伝える。


「イチカ、だから知っていると言ったはずだ。元々あの事件は私の落ち度だ、後悔と感謝しかない。だからこの推薦状をそのまま渡す理由は、お前が今黙った理由と半分は同じだと思って欲しい」


 本人が望んでいない、とでも言いたいのか。そんな事はない。ギルは誰よりも勇者になりたがっていた。噂が伝わりアルテマ学園から推薦が来るという僥倖。ギルには是が非でもこのチャンスをモノにして欲しい。それが命の恩人でもある親友に対してのイチカの思いであった。


「俺なんかをアルテマ学園に入学させたらフレイア魔法学校の信用は地に堕ちちゃいますよ。大丈夫ですよ先生、学園が望む勇者候補の手にこの推薦状は渡りますから」


 そう言って勢いよく職員室から飛び出す。まだギルは教室にいるはずだ。この吉報を少しでも早く届けてやりたい。はやる気持ちを抑えながらそれでも自然と足の運びは軽やかになる。


 ……そしてそのやり取りを職員室外から盗み聞いていたのは、煽りを食って推薦枠を剥奪されたノヴァであった。



「ギルー! すげぇニュースだぞ!」


 昼食休憩を取っていたクラスメート達は一体何事かとイチカを注目する。それほどまでに教室のドアは壊れんばかりの勢いで開けられたのだ。しかし肝心のギルの姿は見当たらない。


「あれ? ギルは?」


 キョロキョロと教室内を見渡しながら呟く。


「ギル君ならさっき購買に行ったよ?」

「マジか〜タイミング悪ぃなぁ」

「イチカ君そんなに慌ててどう……あっ……」


 クラスメートの一人が怯えた表情を見せる。


「ん? どした?」


 その怯えた視線はイチカの後方へ向いていた。それに気づいたイチカはその場で訝しげに振り返る。


 ガアァァン!


 硬い鈍器で殴られたような衝撃がイチカの顔面を襲い、机と椅子を数脚巻き込みながらそのまま数メートル先の窓際まで吹っ飛ばされる。


「っ!?」

「きゃああぁぁ!!」


 女生徒の悲鳴、激痛。突然の事に状況整理が追いつかない。しかしへたり込みながらも腫れ上がった顔を上に向けた瞬間、この痛みが誰によって発生したものであるかを理解する。


「よぉ、Cクラスのイチカだっけか。初めまして、だよなぁ。お前のせいでアルテマ学園からめでたく推薦を取り消された特Aのノヴァ様だ」


 大柄な体躯の男はイチカもよく知っていた。成績は優秀だが粗暴な男……学校内では知らぬ者はいない実力者、ノヴァ=グランチャリオ。目の前のその男は明らかに激昂していた。


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