じゃあね、おししょーさま
シュターナ家の屋敷に招かれてから、二日後の朝。
アドライトの死と除籍を伝える為に冒険者ギルドを訪れたり、それを受けた受付嬢たちが心の底から彼女の死を悼んでいたり、冒険者たちが悪態を吐きつつどこか寂しそうにしていたりとアドライト関連で様々な事があったドルーカの街。
特に少しの間とはいえアドライトが面倒を見ていた元野盗の三人の亜人族たちは彼女の死に随分とショックを受けていた様だが、だからこそ彼女に代わって街を護るという思いが強く芽生えたらしく、これからは本気で街の、そして住民たちの為に働く様になる筈だとリエナも太鼓判を押していた。
そんな街の変化を二日かけて見守っていた望子は今。
「ふたりとも、じゅんびはできた?」
「はい、問題ありません」
「すぐにでも出立可能である」
「そっか……」
ドルーカの街の出口で、この先も自分と共に同行してくれる事となったレプターとローアを伴い、出立準備を済ませ。
……そして。
「……おわかれだね、おししょーさま」
「あぁ、寂しくなるよ」
「……っ!」
「おっと」
ついに、この時がやってきた。
別れの時が、やってきてしまった。
その事実に耐えられなかったのか、それとも耐えんとしての行動なのかは定かでないが、リエナの胸に飛び込む望子。
「……もし、おししょーさまにあえなかったら、ちからのつかいかたをおそわらなかったら、わたしはなんにもできないままだった。 おおかみさんたちにまもられるだけで、ゆうしゃらしいことなんてなんにもできなかったとおもうの……」
「かもね」
「だから、だから……っ、ほんとうに、ありがとう……!」
「いいんだよ、ミコ。 本当に……よく頑張ったね」
「う、うぅぅ……っ」
名誉の負傷により隻腕となっていたリエナがもう片方の腕で優しく受け止める中、既に涙声になっていた望子はリエナに出逢えた事と、リエナの弟子となれた事への幸運に感謝すると共に、リエナからの称賛によって完全に涙腺が決壊し。
「レプター、ローア。 ミコを──アタシの弟子を頼むよ」
「言われるまでもありません」
「然り。 我輩はミコ嬢の〝オトモダチ〟であるがゆえ」
そんな望子を愛おしそうに片腕で抱き締めつつ、この旅の終わりまで付き添うと決めた二人に望子を託すリエナからの願いにレプターもローアも愚問だとばかりに首を縦に振る。
どうやら、レプターは完全に決心した様だ。
この身がどうなろうと、最期まで望子と共に在らんと。
「ミコ。 これはアタシからの餞別だ、受け取っておくれ」
「え? これって……〝いと〟……?」
その覚悟を見届けたリエナは如何にも満足そうな笑みを浮かべた後、懐から取り出した透き通る様な生糸の束を渡し。
「アタシが作った魔導具の中に〝魔力を糸に変える〟機能を持つものがあってね、それでアタシの魔力を糸にしたんだよ。 これで人形でも作ってくれたら嬉しいけど、どうだい」
「うん……うん……! ぜったい、つくるから……!」
糸車型の魔導具で作った魔力の糸だと語った後、ぬいぐるみ以外にも好きな用途で使ってもいいが出来ればと微笑むリエナの想いを察した望子は、その糸を胸元に抱き寄せる。
必ず、仲間たちのぬいぐるみを作る事を約束しながら。
それから数分、望子の瞳から涙が溢れなくなった辺りで。
「じゃあね、おししょーさま。 また……じゃ、なくて……」
ぬいぐるみ以外の荷物は全てローアの【虚数倉庫】に入れて準備万端となった二人が街に背を向ける中、望子はくるりと振り返って再会を願いかけるも、それは叶わないと悟って訂正しかけたが、当のリエナは何かを察して儚く微笑み。
「それでいいよ、ミコ。 この世に絶対はないんだからさ」
「……っ! またね、おししょーさま!」
「あぁ、また逢おう」
絶対はない、なんて事はないと分かっていながらも湿っぽい別れにはしたくないというお互いの想いが一致したがゆえの再会を願う別れの言葉を以て、ドルーカの街を後にした。
「……アンタの娘は、アンタと同じ本物の勇者だった。 親子二代に亘って力になれたのはアタシの誇りだよ──ユウト」




