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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第一部:世界の管理、始めました。
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英雄サイド ー 高柳:遅蒔きの青春。


 俺は、必死で逃げる。

 今日はゆっくり出来る休日だというのに、なんでこんな厄介事が起きるんだ。

 今日は厄日だ厄日。

 一度ファントム様にお願いして、厄払いして貰った方がいいかも知れない。


 通りの十字路を右に曲がり、追ってくる相手の視界から消えただろうことを確信しながら、脇の路地へと滑り込み物陰に身を隠す。

 通りでは、俺の名前を呼びながら駆け抜けていく、軽い足音が響いた。


 その足音が遠ざかっていくのを確認して、俺はやっと物陰から身を起こした。

 遠ざかっていた足音が、俺を見失ったと気付いたのか止まった。

 このまま此処に居ると見つかりかねないと考え、物音を立てないように注意しながら、路地を更に奥へと進んでいった。


 薄暗い路地を、一切足音を立てずに小走りで駆けていく。

 これでも、皇国士官学校最年少主席卒業者だ。

 足音を消しながら如何に速く移動するかなど、熟知している。


 生前最後の勤務は最前線での小隊指揮だったが、それ以前は都市内での巡回警備に特殊部隊での活動、後方の事務仕事などの一通りの仕事は体験していた。

 この足音を消す技術は、特殊部隊に居た頃に得たものだ。




 突然、前方のT字路右折先に気配を感じて、気配を消して立ち止まる。

 相手もほぼ同時にこちらに気付いた様子で、一瞬で気配が消えた。


 これは相当な手練だ。

 こうなると、気配を消したのは間違いだったかも知れない。

 相手に自分が同等以上の技量を持っていると、報せてしまったのと同義なのだから。


 路地裏に入り込むような、実力のある存在。

 そんな物は今も昔も決まって一つだ。

 邪神の手先。

 それが潜伏してると考えていいだろう。


 残念ながら、現在休暇中の身だった故に武装は一切所持していない。

 それでも徒手空拳で相応以上に戦えるように訓練は積んである。


 こちらから出向くか。

 相手が来るのを待つか。


 いや、あちらとこちらでは前提条件が違うのだ。

 こちらは逃がしてはならないが、相手は逃げてもいいのだ。

 それに気付いた直後、俺は前に倒れるように身を屈めながら、T字路へと飛び出した。

 相手の蹴りを喰らわないように、ある程度右方の角から距離を置きながらだ。


 視界の端で同様に前傾姿勢で突っ込んでくる何かが見えた。

 相手も自分と同じことを考えたらしい。


 即座に俺は地を蹴り踏ん張って止まり、相手を正面に見据える。

 こうして俺は、邪神の手先と正面切って相対することと……な、り?



「……なんだ、俺か。」


「こっちがなんだだ。驚かすなよ、俺。」



 そこに居たのは、別の俺だった。


 そりゃあ俺と同等以上の技量を持ってて、俺と同じような行動を取るわけだ。

 緊張して損した気分である。



「ったく。なんでこんな所に居るんだ?」


「それを言ったらお前だって、なんで此処にいるんだ。」



 互いに沈黙。

 空間を静寂が支配する。



「……お前も逃げてきたのか?」


「……お前も、か。」



 どうやらこいつも俺と同じで、アレから逃げてきたらしい。

 逃げるという行動も、逃げる先も一緒。

 更には逃げた先で何かに遭遇した時も同じ行動をしているとなると、本当に俺がもう一人存在することを今更ながら実感する。

 実際にはもう一人どころか、もっと大量に居るのだが。




 取り敢えず追手は来てないようなので、近況報告ついでに二人で話すことにした。

 少し服が汚れるが、近くに落ちてた木箱二つにそれぞれ座る。



「それにしても。軍務中なら仕方ないけど、休日まで詰め寄ってくるのはやめて欲しいよなぁ。」


「それは俺も思う。逃げたら追いかけるとか、あいつら猛獣かよ。」


「案外そうなのかも知れないのが怖いなぁ……。」



 俺たち二人は、俺を追いかけてきたアレについて話し合う。

 本当に、折角の休日だというのに、何故アレは俺を追いかけるのか。

 全く理解が出来ない。



「あの女たち、目が恐いんだよな。」


「大和撫子たれ。とまでは言わないが、もうちょっとなんか、落ち着いて欲しいというか。取り敢えず追いかけては欲しくない。」


「ははは。それは分かる気がするな。女性なら家族の紹介か、それが無理でも恋文から始めるのが筋ってもんだろうに。」



 そう。俺たちを追いかけていたのは街の女性達なのだ。


 男の美醜はイマイチ分からないが、どうやら俺たちは世間一般の基準で言えば美男子らしい。

 俺達としても女性から言い寄られるのは嫌ではないのだが、如何せん俺達は女性慣れしていない。


 一番身近な女性は母親で、姉は歳が離れていたので物心がつく頃には他家に嫁入りしていた。

 家が名家だったこともあり、名家の子どもが通う幼年学校でも、女子の姿は一切なし。

 その後は特別優秀ということで飛び級で士官学校へと入学し、卒業して軍人になってから死ぬまでずっと、男社会で生きてきたわけだ。


 島国だった故郷には余裕がなかったこともあり、俺のような才能がある奴らは全員掻き集められて前線に送られたので、そこでも女性との出会いはなし。

 一時期後方に戻った時も、休日は訓練と自主学習をしていて街に遊びに行くこともなかった。


 まぁ、要するに。

 俺は女性と一切関わることなく生きてきたのだ。



「恋文かぁ。エーリッヒ=F中尉に俺もそう言ったら、考えが古いって言われたよ。」


「エーリッヒ中尉が?クロード中尉じゃなくて?」


「そう、エーリッヒ中尉が。あと、お見合いも古いんだってさ。」


「お見合いもかぁ……。エーリッヒ中尉も俺らの側なはずだけど、エーリッヒ中尉でも恋文やお見合いは古いって言うのかぁ。」



 俺達が生きていた時代は、邪神侵攻の初期の頃である。

 国が違うこともあって、俺達の常識はどこか古臭く、ズレてる所があるらしい。


 因みに英雄となった後に調べたのだが、島国では邪神の侵略に耐えきれず、俺達の故郷は比較的早期に滅びてしまったそうだ。

 そう聞くと悲しくはあるが、どうせこの世界の殆どの国は滅びてるので自分たちだけが嘆く訳にもいかない。




 それにしても、恋文もお見合いも古いのか。

 エーリッヒ中尉は俺たちと同じく女性に対して……その、ちょっと奥手なタイプだ。

 だから俺たちの意見に理解を示してくれると思っていたのだが……。

 どうやらそんなエーリッヒ中尉から見ても恋文もお見合いも古いらしい。



「昔、学校の先輩が貰ってた恋文を盗み見た時。あれほどドキドキしたことはなかったよなぁ。」


「そうそう。自分宛じゃないのが悲しく思えるぐらいドキドキしたよなぁ。」



 俺たちは、恋文に対してある種の憧れがあった。

 あの、相手を思い遣る気持ちと、読んでる側が気恥ずかしくなるような情熱的な文章。

 あれを読んだ時、女性とはこういう存在なのかと、心に芽生えたときめきと共に理解したものだ。



「その、エーリッヒ=F中尉は、代わりに何が良いって言ってた?」


「男だったら自分から行けだってさ。何でも、軟派が良いらしいよ。」


「軟派ぁ!?あのエーリッヒ中尉がそんな事言ったのか!」


「エーリッヒ=F中尉はそう言ってた。まぁ、俺はちょっと軟派なんてする勇気はないけど。」


「俺もそんな度胸はないかなぁ。」



 軟派なんて、軽い男が一夜のお供を探して行うものだと思っていた。

 実際に当時の部下や同期の一部がそういったことをしていたとも聞いてはいた。

 名家に産まれ、軍人としての教育を受けてきた俺たちからすると、どう考えてもそんなの可怪しいとしか思えない。


 だが、恋文もお見合いも今となっては古い慣習となってしまったらしい。

 それならば、女性たちが奥ゆかしく恋文を持ってこないのにも納得がいく。

 きっと追いかけてきていた女性たちは、俺達が軟派をしてこないのに痺れを切らしたか何かだったのだろう。



「でも、それが今の慣習ならなぁ。」


「だな。他の俺らにも教えておいてやるか。」



 戦場で妬みから仲間に殺された俺も、まだ十七歳なのだ。

 当然、慣れてなくて照れてしまうが、女性に対して歳相応の興味はある。

 英雄の身ではあるが、折角比較的平和な時代に生き返ったのだ。

 いつかは結婚も、出来たらいいなぁと考えている。




 俺達は、遅れてやってきた青春を謳歌するように、その後も話しを続けた。

 今後は、女性とどう接すればいいのかという話を。

 時に下らないことを言ったり、からかってみたり。

 互いに笑いながら話をする。


 今俺達は、邪神との戦いで失われてしまった青春を取り戻すように、楽しく暮らしている。


 手に入るはずがなかった、輝かしい未来を思い描きながらも。



 英雄サイド三話連続でした。

 予約更新は成功しただろうか……。


 明日以降はまた、書き溜めが尽きるまで一日1~2回更新に戻ります。

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