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醒めてみれば空耳❖1


 ワインも日本酒も多少の娯楽にはなるが、ライフラインが整っていた環境に慣れた体には、どうしたって今の状況は退屈の方が上回る。

 酔いも回っていよいよ眠くなってきた。

 俺は欠伸をしながら立ち上がり、瓶に蓋をする。綻陽たんびも酒を飲むつもりはないようで、まだ液体で満たされたグラスを俺に差し出す。

「眠くなってきたから、先に失礼するよ。

 ところで、寝る部屋は決まっているのか?」俺は差し出されたグラスを受け取りながら確認を取る。

「いや、好きな部屋使っていいよ。

 どうせ今日まで使ってた真白まもうさんの部屋は使い物にはならないから、明日片づける」

「わかった。んじゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

 手をひらひらと振って、宴会場を後にする。


 グラスと酒を片づけ、調理場から出る。どうせなら高級な部屋を使おうと思い、エレベーターの方に進もうとして、機能していないことを思い出す。

 再三心に留めていても、今まで当たり前にあった生活の癖が抜けない。となると自分の脚で階段を上らなければならない。俺は少し意地になって階段を登ることにした。

 予想よりも苦痛を強いられる道のりに太ももは早くも悲鳴をあげる。食屍鬼になったからといって肉体面での強靭な体力が付与されるわけではないようで、十階まで登った時に心が折れた。

 身体の傷も全快ではないし、ここより上へは身体が完全回復した時の快方祝いとして取っておこう。

 そしてこのフロアの廊下を眺めて、ロビーに鍵を取りに行かなければ扉は全て施錠されていることに気付いた。

 俺は落胆して踵を返す。と、後ろに伸びる廊下の一室は扉が開いていることを奇跡的に発見した。震災の当時に利用されていたうちの一つだろう。

 その扉は靴ベラが挟まっていたために閉まりきらずにいた。

 中を拝見すると夫婦のものらしい旅の荷物が二つと、開封されたピーナッツの小袋がテーブルに置かれていた。空いた缶ビールが床に転がっているが、カーペットに黴は生えておらず、中身の液体が溢れた形跡もない。もとより飲み干した空き缶だったのだろう。

 財布や貴重品も避難する際に手に持っていったらしく、見あたらない。あったとしても、今の俺にはなんの価値もないが。暇つぶしに部屋に残されたカバンの中を漁ってみた、空気の抜かれた浮き輪や、着替え、タオルなどが見つかった。

 そうだ、半年前は夏だったことを改めて実感する。

 水着はベランダに干されているため、黴はない。カバンとテーブルの上のものを片付けてしまえば、問題なく使用できる。


 俺はベッドに横たわり、目を閉じるとすぐに眠った。

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