十二 そんな事ある!?
俺は、授業から解放されて休み時間になると、机の上に突っ伏した。
数学は苦手だ。真面目……つか真面目に受けないと付いていけないので、授業中に居眠りや余所事を考えるのは稀なんだけど、その分、疲労が大きい。
うげー、疲れた……。
そうしてうつらうつらしながら消耗した脳味噌を次の時間に備えて休めていると、ふと馴染みの深い、とても食欲を唆る匂いが漂ってきた。
そう、具体的に言うと、塩っぱい物に合う、日本人に馴染みの深い、純白炊き立てのアレだ。
気の所為かと思ってはみたんだが、どうも香りは強くなってきている。俺は机から顔を上げて周りを見渡した。
その匂いの元凶は、まさかと言うか、やはりと言うか空からだった。
「お、い。なに、してんだよ……?」
「ん?本を読んでいるが?」
そうじゃねーよ!!と、クラスの大半の人間の心中は一致した事であろう。同意である。
確かに空は、本を読んでいるが。
「ちげーよ!そこにある、炊・飯・器!は何だって聞いてんだよ!」
俺は、美味しそうな匂いと共に、もくもくと元気良く蒸気を出す炊飯器を指差して叫んだ。魂の叫びだった。
その後に、そもそも何で休み時間に米を炊きながら、悠長に本を読んでいられるんだー、と頭を抱えた。
忙しいぜ。
「これな、最新式で、10分で米が炊けるんだ。凄いだろ」
「知らねーよ!?」
って、もしかしてあれか!?
この前買ったあの本に載っていたのか!?
「そうか。……ところで、悩みがあるなら、聞くぞ……?」
「誰のせいでしょうかねえぇぇぇぇ!?」
生まれて間もない頃から──らしい──一緒にいる俺ですら、空の考えている事が、全く理解出来ない時が多々ある、というのは前に言った通りだ。
だが今回は群を抜き過ぎていてどうしたら良いのか全く分からん!!
最近慣れてきた、女性らしい膨らみを持った胸に手を当てて、心の中で落ち着け、落ち着け、と繰り返す。
「もしかして……海も腹が減ったのか。珍しいな。ちょっと食べるか?」
「ちげぇぇぇぇぇ!!」
まぁ無駄だった。
そんな馬鹿話をしていると、廊下がバタバタと騒がしくなり──そもそも蒸気が盛大に出ているせいで、他クラスからの野次馬も増えている──消火器を片手に持った体育の男子教師が勢い良く飛び込んで来た。
「おい、窓から煙が出てるって聞いたぞ!皆、大丈夫っ……か……?」
教室に入って目に入った光景に、先生の思考が止まった。そりゃそうだよな。分かる。
「俺は夢でも見ているのか……これは、常軌を逸した光景だな……」
「蒸気だけにですか?先生、親父臭いですよ?」
すかさず俺は突っ込みを入れた。
「取り敢えず、藤岡、細谷、職員室に来い」
「先生、もうすぐ炊けるんですよ」
「なんで俺まで!?」
「職員室に、来い」
「「……はい」」
この後、俺達がめちゃめちゃ絞られたのは言うまでもない。……いや、ほんとなんで俺まで?
余談になるが、後日電気ケトルとカップラーメンを持って来て、「これなら問題ないだろう」とドヤ顔をする空の姿があった。
もちろん、今度は事前に叩いて止めた。
俺は決心した。空に弁当を作って持ってきてやろうと。
そして、早弁用の弁当を作ってくる代わりに、突拍子も無い早弁を止めるよう、固く、固く約束をさせた。
今更ながら、君の名は。を観てきました。
元に戻るとはいえTSモノだと思うのですが、ニッチなジャンルが一般受けしているのに驚きです。
内容は非常に面白かったです!
TSとして見るなら元に戻ってしまうのが残念です(笑)




