3.避けると思って・・・
「・・・・・。」
起き上がる様子も無い。
「っ!」
やっと我に返って水を止め、猫に駆け寄った、言い訳にしかならないがまさか当たるとは思っていなかった。
「ごめんっ、ホントごめん!」
抱え上げると異常に軽い、体はもともと汚れていたらしく、濡れてドロドロになっていた。
もともと弱っていた猫にさらに水をかけて気絶させてしまったのだ。痛ましい姿にさらに罪悪感が募る。首にかけていたハンドタオルで猫をくるみ、体を洗うために浴室に駆け込んだ。少しでも力を入れれば壊れてしまいそうな猫の体、ぬるま湯をかけて少しづつ泥を落としながらお腹に手をあてると小さな体の体温を感じて少しほっとした。
体を洗い終えて、ドライヤーで低めの温風をあてているとシーツ類を干し終わった母が脱衣場に顔を出した、当然事情を聞かれ、正直に弱った猫に水をかけたことを告げて、至極真っ当なお叱りを頂いた。返す言葉も無い。
一通りの小言を言い終えた母は猫を労わるように撫でて首をかしげた、子猫だと思っていたらしい。確かに線は細いものの、成人した猫のようだった、毛はだいぶ乾いて濡れ羽色のなめらかな毛並みがわかるようになっていた、まだ若い猫だと思う。成人した猫がこんなふうに行き倒れるのは珍しい、野良として生きられない猫なら子猫のうちに死んでしまう。
そして気になることがもう一つ、猫の後頭部に毛の生えていない箇所があった。毛をかき分けなければ分からないが、その部分だけ白く筋になっている。母親見せると傷などを縫った跡ではないかと言う。
そうなると猫はどこかで飼われていた可能性が出てくる、大切に飼われていた箱入り猫が迷子になったのかもしれない。とにかくこの猫は野良としては生きられなかったようだ。
「責任もって飼いなさい。」
母にそう言われ、即座にしまったと頭の中でつぶやいた。飼いましょうではなく、゛飼いなさい。゛それは飼う際の食事やトイレなどの面倒を全て見るようにという意味で、金銭的にもこちら持ちだということだった。
「・・・・・。」
迷子になったのは私の責任ではないが弱った猫に水をかけてしまった手前、断れず渋々頷いた。
せっかく稼いだアルバイト代が減る、命に変えられないことは分かっているがどうしてもそう考えてしまう。
猫はタオルの上で何も知らずに眠っている、頭を包み込むようになでるとあたたかな熱が返ってくる、本当に箱入りだったのだろう、なでる度に心地いいつややかな毛並み。泥を落としてやるだけで見違えるようにきれいな猫になった。全身、夕刻の空へ滑り込む闇のような濡れ羽色、やや痩せ気味だがシャープなボディライン、顔は他の野良猫に比べて少し小さめでどこか凛々しい。
そんなタイプの猫が無防備に眠る姿にため息をついた。
バイト代は主に買い物や買い食いなどに使われていた、それを思うとこの使い道はずっと有意義かもしれない。
指でそっと耳をつつくと、まるで耳だけが驚いた様に小さくふるえて、思わず笑がこぼれた。