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クロ  作者: 里見 カラス
12/54

12.電話

 次の日、休日をしっかり満喫しながらも、ふとした瞬間、どうにもなにかひっかかるような気がしていた。


何か忘れてる気がする。そんな予感がしている時は大概その予感は間違ってない。そう思うのだけれど何を忘れたのか思い出せない。


私は良くも悪くも眠ると忘れるタイプだ、嫌なことがあったときなど、眠るとどうでも良くなって便利なのだが、困るのは必要事項まで忘れてしまう事。


 今日は遊びに行ってしまっていたことで、忙しかったせいもあるだろう。


 昼間は友人の美冬と買い物に出掛け、自室のベッドの上には、その日の買い物の成果が所狭しと広げられていた。すでに持っている服と組み合わせて、どうコーディネートするのか検討し、実際に着て鏡の前に立つ。朝から何か忘れている感があったものの、深く考えない私にはあまり意味が無い。


 新しい服の使用法を一通り把握したところで、一息つこうとキッチンへ向かった。


 冷凍庫からミルクアイスを取り出し、かじりながらリビングに目を向けると、ソファの上でじっと座っている黒猫の姿が見えて、ようやく自分が何を忘れていたのか思い出した。クロを探しているかもしれない人に連絡するんだった。


 自室に置いてきた携帯を取りに、再び自室へ戻り、張り紙の写真画像を呼び出して番号を確認する。


 いざ、その番号を押して相手が出るのを待っていると、顔も名前も知らない相手への電話は、思った以上に緊張して呼び出し音がやけに長く感じた。やがて呼出音がふつりと止んで、若い男性の声が聞こえてきた。


「はい。黒峰創くろみねそうの携帯ですが・・・。」


 おそらく、相手の携帯には見覚えの無い私の携帯番号が表示されていたのだろう。そのせいか相手の声は少し、警戒するような声色だった。更に地声なのか、全体的に声のトーンが低く、ぼそぼそとしていて少し怖い。


 慌てて猫を探す張り紙を見た事とよく似た猫を拾った事を伝えると、相手は警戒をといたようで、少しだけ声が和らいだ。


 後頭部の傷の形状、『ガク』君を見つけた日にちと見つけた場所など細かい状況の確認をし、クロがほぼ間違いなく『ガク』であるとわかると、黒峰創は今日にでも引き取りたいとこちらの予定を確認しだした。


 ぼそぼそと喋るわりにせっかちな人だ、聞けば逃げた場所から2.3km程しか離れていないという、人間にはたいした距離ではないが、猫にしてみれば、大変な道のりだっただろう。


 今日はもう外に出る予定も無いし、猫を引き取るくらいならすぐに終わるだろうと考えて、今日中に引き取る事を承諾し、電話を切った。

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