13.閉じ込めてしまえたら
携帯をゆっくりとたたんで息をつく。ふいに人の声の途絶えた部屋は、時計の音がやけに良く響く。
クロが『クロ』の言葉に反応したのは、飼い主である黒峰創の名前を聞きつけたと思ったのだろう。結局期待していたようなオシャレなカタカタの名ではなかったが、『ガク』の方がずっとセンスがある。
外はまだ明るいが、陽の光がオレンジ色になっている。外の風が涼しくなる時間だ。黒峰さんを待つ間、目的がうっかり外へ出てしまわないよう、一階の窓を閉めておこうとリビングへ降りた。リビングには夕日の鮮やかなオレンジが差し込んでいた。ソファの上に座る姿は、そのオレンジを切り取った様にくっきりと浮かび上がって見える。エジプトの壁画を思わせる凛とした横顔は見つめていると、どこか儚げに見えた。
窓を閉めるだけの事なのに、少しでも音を立てれば何かが壊れてしまいそうで、私はゆっくりと窓に近寄った。手をそえ、少し力を入れると、庭に面した吐き出しの窓は、重く音を立てながらサッシの上をすべった。
窓を端まですべらせて、ふとふり返ると、こちらをながめて、不思議そうに首をかしげているオレンジの猫。夕日の光を受けてオレンジ色に照らし出され、その後ろで影が長く伸びてソファから床へと降りている。後ろ手に、金具を上に上げるだけの鍵を掛けながら、光も閉じ込めてしまえたらと何となく思った。




