9章ダイジェスト
コロニー落下より一月前、零夏とガイルがセルファークに帰還した直後。
彩風との戦闘で損傷した心神。拠点であるドリットに向かい飛行している最中、突然奇襲を受ける。
ガイル「あれは、鋭鷹だと!?」
鋭鷹とは、塗装を始めとした飛行に必要ない全てを病的なまでに排除した、記録更新用戦闘機。
所属は現解放領域共栄圏連合王国、旧共和国。つまりガイルが身を寄せる勢力であり、だからこそガイルは驚愕した。
既にミサイルを使い果たしている心神は、嫌が応にもドッグファイトに突入する。スペックの差は歴然としているが、鋭鷹はエンジンを強化されており心神に果敢に挑む。
ガイル「違う、それだけではない」
例え攻撃手段が封じられていようと、第八世代戦闘機の心神と第四世代戦闘機の鋭鷹には越えられない差がある。
それを埋めるほどの何か、それは―――
ガイル「ソフィー、お前か……!」
ソフィー「…………。」
無言でガイルを狙うソフィー。手加減と躊躇いを捨てた彼女の実力は、ガイルと遜色なかった。
ガイル「これ以上邪魔をするなら―――ソフィー!お前を殺す!」
父の殺気にも怯まないソフィー。
ソフィー「やれないわ、そうでしょお父さん。どうせ生き返るならと割り切って私を殺せるなら、お母さんを生き返らせているはずよ」
ガイル(心神が疲弊しているとはいえ、ここまで俺と渡り合うとは……)
次第に追い詰められる心神。
ソフィーは理解していた。ガイルはもう止まらない。最後まで、折れることなどしない。
だからこそ、ソフィーは手加減などしなかった。
ガイルはソフィーの駆る鋭鷹に天使の羽を幻視する。
次の瞬間、心神を鋭鷹の20ミリガトリングが貫く。
ガイル「さすが、それでこそ俺達の可愛い天使―――」
心神墜落、核融合炉が爆発し周囲数キロが吹き飛ぶ。
それを冷めた目で見やるソフィー。
彼女は何も口にせず、無言で空域から離脱した。
数日後、ガイルが孤島のアジトへ満身創痍で到着。
ソフィーに切り捨てられ、行き場を失った彼が無意識に辿り着いたのは妻の気配のある場所だった。
全身火傷で零式より落ちるように降りるガイル。零夏が駆け寄る。
零夏「おい、大丈夫か」
ガイル「はっ、なさけねぇな」
ガーデルマンが診察するも、手遅れと宣告される。
ギイハルトもやってくる。零夏、人払いを指示。三人だけで話す。
零夏「わからねぇよ!どうして、なんでだ!ガイル、どうしてこんなことを始めたんだ!」
零夏はずっと疑問だった。あのバカで粗雑で時々頼もしい男が、なぜ無限に繰り返すことを選んだのかと。
ナスチヤが死んだから?違う、ナスチヤは理由にはなり得まい。
間違いなく、それはガイルの私的なことだ。
ガイル「教えてやる、俺は英雄なんてものじゃない。俺はただの虐殺者だ」
ガイル「俺は、俺は殺してきた、敵だけじゃない……」
ガイル「大戦の頃、沢山の戦争孤児を見てきた。そういう子たちはどうなると思う?」
零夏「どうって……」
ガイル「泥棒、物乞い、奴隷、慰み者、薬漬け、ロクな結末なんてないーー戦争で犠牲になるのはいつだって力ない者だ! 弱者は真っ当に生きる権利もない、ましてや更に力ない者から搾取する犯罪者にすらなる……害悪だ!」
零夏「なっ、本気で言っているのか!?」
あまりの物言いに驚く零夏。だがガイルは前言撤回などしない。
ガイル「本気さ、あの時代には多くの孤児を養う余裕を持つ者などいなかった、国も、民間も。国力が回復するには時間がかかる、復興は遅々と進まない。だから―――殺した」
ガイル「甘さなど救いにはならない、間引きの必要はあった。自然淘汰に頼るより、意図的に調節するほうが効率はいい」
自嘲するガイル。
ガイル「馬鹿みたいだろ。なにが英雄だ」
ガイル「戦場にいた頃は小さな犠牲と割り切れた。だが、その小さな犠牲こそが俺を苛んだ」
ガイル「娘を抱き上げる度に思い出した、あの時、俺はどうしようもなく加害者だったって!」
ガイル「実を言うとよ、もうナスチヤの声も思い出せないんだ……大好きだって覚えてるのに、誰よりも愛してるのに……なあ、レーカだったか。ナスチヤは、今の俺を許してくれるかな……」
零夏「許すわけ、ねぇだろ!ナスチヤは優しい人だったけど、怒ったらすっげーおっかねぇんだぞ!」
ガイル「はは、そうだったか」
零夏「だから―――徹底的に怒られてこい……」
流れる涙を止める術を零夏は持たない。
果たしてどこまで聞こえていたのか。
ガイルは永遠に等しいループを終えて、眠りについた。
宇宙での激戦より一月、ソフィーは各地で反乱分子を殺し続けていた。
無茶な操縦を繰り返し既に何機も荒鷹をスクラップにしている。機体を使い捨てにしているものの、単独で戦場を制圧して帰還することから効率は極めていい。
ソフィー「この程度……やはり白鋼、或いはそれ以上の機体が必要ね」
白鋼に慣れたソフィーには、どんな機体も力不足だった。更に強力な戦闘機を求めるのは当然だろう。
孤島のアジトの警備確認をする零夏。
メイド「警備システムは正常に稼働中です。しかし、ソフィー様に対してだけはやはり……」
零夏「元々この島はソフィーを守る為のものだからな、ソフィーの生体反応をセンサーに登録させることは出来ないか。まあソフィーは運動音痴だし、単独侵入なんて不可能だろうけど」
その晩、自室で軽く酒をたしなむ零夏。そこにマリアが現れる。
零夏「マリア?起きてたのか?」
マリア「お酒なんて飲んで大丈夫?」
零夏「軽い酒だ、非常時にもすぐ抜けるさ」
マリア「お酌をさけて頂戴」
零夏の隣に座るマリア。
零夏「どうしたんだ?」
マリアの酌を受ける零夏。
零夏「ほら、マリアも飲め」
マリア「え、えと、私は飲めないから」
零夏「そうだったか?まあちょっとくらい大丈夫だ、前後不覚になっても部屋まで送り狼してやるから。げへへー……あれ?」
零夏は意識が遠くなり、倒れる。
意識はあるも、体が動かない。マリアは一礼し、部屋から出ていく。
そこに現れたのはソフィーだった。
驚く零夏を尻目に、服を脱ぐソフィー。
ソフィー「新型機、貰っていくわね。変わりにいいこと、してあげる」
遂には一糸纏わぬ姿となるソフィー。
彼女は零夏の上に乗り、行為を始める。
ソフィーの技巧は巧みであった。
零夏「なんで、こんなことを……」
ソフィー「時間稼ぎ。メイド達が新型機を運び出すのにも、時間はかかるもの」
零夏「ソフィー、お前はなにをしようとしているんだ」
行為に及びながらも、ソフィーはひたすらに血生臭い計画を話す。
ソフィー「んっ……世界を解放した場合の犠牲者数って計算してる?」
零夏「ほぼ全滅……対処した場合は判らないが、結果はそう変わらないんだろう」
ソフィー「そうね……私の計算では、どれだけ効率的に立ち回っても半数は死ぬわ」
零夏は驚く。高度6000メートルからの落下、それで半数が助かる術があるというのだ。驚愕に値する生存率だろう。
ソフィー「だけどそれは、本当に上手くいった場合の数字。だから不安要素は少しでも減らさなければいけない」
零夏「最近のお前の暴れっぷりはそれが理由か」
ソフィーの目的は世界人口半数に減らし、完全統率の上で世界を解放すること。
零夏「やめろソフィー、そんなやりかた駄目だ!」
ソフィー「なら代案があるの?共和国と帝国は事前に月面へ貯蔵基地を作っていたとはいえ、世界解放の混乱で世界人口は極限まで減少する。なら半数の方がマシじゃない」
零夏「うまくいくって保証はあるのかよっ」
ソフィー「私の計算が信じられないの?」
―――それはもう、予測ではなく事実。
彼女の計算は正しい。今までの実績がそれを証明していた。
零夏「それでも。俺は、もうお前に殺しをさせたくない」
ソフィー「どうしよう。レーカ……私、貴方の言っていることがわからない。だって、死なない方がいいでしょ?間違っている?」
ソフィー「無秩序な世界解放で犠牲となる5000万人の命、責任とれる?」
淫靡な音は、しばらく止むことはなかった。
まるで恋人のように、生まれたままの姿で絡み合う二人。
零夏の体は未だ動かない。一方的にソフィーが彼を責めていた。
ソフィー「ふふっ、元気ね」
零夏「……もうやめろ、ソフィー」
成す術もなく泣きたい気分の零夏。
ソフィー「そうだわ、ねぇ。ヨーゼフの計画って知っている?」
零夏「やっぱり、死んでないか」
ソフィー「時間制御魔法を完全に制御して、秒単位で繰り返すことで都合のいい未来を作ろうとしているんですって。おかしいわよね」
零夏「お前も大概だ。ソフィー、俺には世界のほぼ全てを救うプランがある」
ソフィーは零夏を憐れむような目で見る。
ソフィー「そんな、出来るかどうかも曖昧な計画に多くの命を賭けるの?」
零夏「お前の大層な計算とやらが間違っていると証明してやる」
ソフィー「レーカ?」
零夏「俺を止めてみろ、お得意の計算でな。それが出来るならお前の計算を信じてやる。イレギュラー、舐めんなよ」
ソフィーが勝てば彼女の計算の信憑性を認め、俺が勝てば計算の信憑性がないものとし未知数の未来に賭ける。
とんだ屁理屈、ギャンブルにすらなっていない。
ソフィー「いいわ、捕まえてあげる」
それでも、ソフィーは勝負に乗ったのだった。
ソフィーが着崩れを直しつつ部屋を出ると、マリアが壁に背を預け立っている。
ソフィー「ずっとそこにいたの?」
マリア「…………。」
ソフィー「聞いてたの?」
マリア「……あんな勝負、本当にするつもりなの?」
ソフィー「新型がなければここの人達はもう何も出来ないわ、出来レースよ」
事実であった。ヘリカルエンジンを搭載した完成版彩風は総力を結集した切り札であり、二機目を作る余裕などない。
ソフィー「ねえ、貴女も一緒に……」
誘おうとするも、マリアの顔見て思い留まるソフィー。
ソフィー「やっぱりいいわ。そんな辛気臭い顔をそばに置いといたら、成功するものもうまくいかない」
マリア「っ、ソフィー!……」
手を伸ばすも、それ以上言葉を続けられないマリア。
こうして少女達は決別する。
翌朝、マリアは拘束された。
元はリデアお抱えのメイド達だが、現状彼女達はメイド長であるマリアの言葉を重視する。メイド達はマリアの指示に従い彩風を持ち出し、そこで控えていたソフィーの部下に引き渡したのだ。
マリア「だって仕方がないじゃない!」
マリアはソフィーに逆らえなかった。そのように教育されていたから。
今後、マリアの行動は大きく制限されることに。軟禁される恋人に心を痛める零夏。
零夏「お前としてはどうなんだ、セルフ」
セルフ「ソフィーの予測は処理限界を越えている、君の計画とどっちが正しいかなんて解らない。今を生きている人に任せるよ」
大地震発生
セルフ「ああああああああああっっ!!!」
零夏「セルフ!?どうした!?」
突然叫び昏倒するセルフ。そのまま機能停止してしまう。
神の宝杖、コロニーそのものがセルファークに落下したことによる大災害だった。
落下中に大半が燃え尽き分解していたが、それでも帝国首都一帯を揺さぶるには充分なエネルギー。
帝国首都、壊滅。今まで粘っていた帝国の反乱軍も無条件降伏した。
セルフが機能不全に陥る。落下の衝撃を受け止めるのに魔力を防御に集中させたことと、大地震による物理的ダメージによりどこか壊れたらしい。
零夏「セルフすら不確定要素だっていうのか、ソフィー!」
天変地異が始まる。異常気象、空の色の変化、魔物の暴走。
ソフィーの計画通り、人類は減らされていく。
世界の状況を何とかしなければならないと考え、零夏は月面人の村へと向かう。
ラブリーにセルフを見せるも、この少女の体はあくまで電話の子機であり、本体を修復しないことにはどうしようもないと告げられる。
とりあえず応急処置を施し意識を戻すことに成功するも、神としての能力はほとんど使えなくなる。
落ち込むリデア。
部屋に籠ってしまった彼女に、零夏は会いに行く。
零夏「リデアの言う通りかもしれない、俺は薬ではなく猛毒だ。俺さえ召喚されなければ―――」
リデアは泣きながら怒鳴る。
リデア「うるさい!これはわしの覚悟じゃ、お主にどういう言われる謂れはない!」
イリアとの会話シーン
零夏「生まれた意味について考えたんだけど、そもそも明確な意味を持って生まれる奴なんて、きっとほとんどいないよ」
イリア「ならなんで子供を作るの?えっちしたらできただけ?」
零夏「そこまではいわんが……本能?」
イリア「私も子供を作れば解る?」
服を脱ぎだすイリア。
零夏「ちょ、待て!君はあれだ、残念だが生殖能力はないだろ!」
イリア「そうなの?」
セルフがどこからともなく沸いて出る。
セルフ「さて検証したことがありませんなぁ」
また服を脱ごうとするイリア。
零夏「煽るな、死にかけ!」
ギイハルトとの会話シーン
ギイハルト「軍人とは所謂『指示待ち人間』だ。社会では無能扱いされやすいタイプだが、軍人は訓練兵の段階でそうあるように『調教』される」
退役軍人が一般企業に馴染みにくい最大の理由がこれだ。大抵の企業より厳しいはずの軍隊を勤められるということは、どんな仕事もこなせるという意味ではない。
ギイハルト「大人なら仕事と割り切ることも出来るが、少年兵であった僕等にとってはそれは全てだった。……あの当時、少年兵は最初に仲間を殺すことになっていた。俺の最初の殺人は、隣に住む幼馴染みだったよ」
ギイハルト「人間として生きたいのに、それすらわからないんだ」
零夏「なら言葉にしてみろよ。自分は人間だ、って」
似た境遇ながらも自由に生きられるエカテリーナのことを、ギイハルトは実は好意的に捉えている。
ギイハルト「愛を伝えて結婚する。それだけのことが、大戦生まれの彼等にとっては難しかったんだ」
零夏「元少年兵で歴戦の戦士、辛い過去を持ち今はエリートテストパイロット!前から思ってたけど、かっけー経歴だよな!」
ギイハルト「君な……」
零夏「笑い飛ばしちまえよ、そんなこと。こんなガキだって気にしねーよ」
月面人に謝りに行く。解放すれば魔法が失われる、ハイエルフと同じく月面人も死ぬ。零夏の計画をもってしても、救えない者はいた。
佐藤さん「ありがとう」
月面人「やっと解放される」
月面人「気にすんな」
月面人「ありがとね」
思わぬ感謝の言葉に、零夏は少し泣いてしまう。
ラブリーに呼び出され、戦闘機を渡される。
ラブリー「これプレゼント」
新品の彩風を貰う。
零夏「これは?複製したんですか?」
ラブリー「お父様から預かったんだよ」
お父様……まあいい、使わせてもらおう!
零夏「これ、彩風と同じ基礎設計だが……完成度が全然違う!」
リデアが集めた残りの戦力が集結する。
数十の軍艦が艦隊を組み、孤島のアジトに到着。
リデア「集められるだけ集めたぞ、あとはお主次第じゃ」
零夏「無茶ぶり過ぎるだろ。俺にお前やソフィーみたいな話術を求めるな」
リデア「こういうのは深く考えんほうがいいんじゃよ、理屈でいえばソフィーが正論であることは覆しようがないからの。だからこそ感情論じゃ」
零夏「感情論って」
リデア「民衆は確かに簡単に扇動されるほど愚かな存在じゃ。でも、真剣な訴えを見逃すほど捨てたものでもない」
零夏、諦めて広域通信を繋ぐ。
全てを包み隠さず話すことにした。
零夏「―――これ以上、ソフィーの手を汚させたくはない!皆の力が必要なんだ、手伝ってくれ!」
困惑する軍人達。
やがて声を上げる者が現れ始める。
軍人「覚えてるぞ、俺は前にあんたに助けられた!借りは返すぜ!」
軍人「俺もだ!月面から生きて帰ってこれたのはあんたのおかげだ!」
軍人「俺の妻が乗った船がジャックされた時、制圧したのはあんたらだった!」
五年間の冒険で培った人望は無駄ではなかった。軍人達の支持を得たことで、零夏が彼等のリーダーとなることに。
リデア「帝国再編航空打撃群 艦隊総指令 真山零夏、じゃな」
零夏「いやなんで俺が?シロートだぞ」
リデア「まあ、細々したことは士官達がやる。黙って座っておれ。ただ、権限はある。考えて使うのじゃぞ」
零夏「わかった。出撃準備はしておく」
リデア「言うと思った!総司令が最前線に行く気満々じゃ!」
零夏「だってそれしか能がないし」
リデア「やれやれ……で、作戦名は?」
零夏「―――オペレーション、銀翼の天使達」
世界の命運を左右する、最後の作戦が開始される。
この艦隊には本来軍隊を運用する上で必要不可欠な後方支援のアテがない。
一人が最前線で戦う為に、その後ろで何十倍の人間が動く。それが軍隊だ。
これがこの艦隊にはない。ただ最前線で戦うしか能がない者達の集団、孤立部隊がその正体だ。
戦闘を行わなくとも、時間がたてば設備を維持出来ず自壊するだろう。船員はすべからく決死兵であり、給金なしでも最期まで戦い抜く覚悟だが―――物資の補給なしで、どこまでやれるか。
だが、一人一人が精鋭にしてエース。15年前の大戦を生き延び、実戦を経験してきたプロフェッショナル達。
短期決戦での火力ならば、比類なき戦闘力を発揮すると零夏は確信している。
リデア「これが我々の最後の力じゃ」
最後の出撃前日の夜。
キョウコ「最期のお情けをください」
キョウコが夜這いしてくる。
キョウコ「私は今晩だけでいいです。今晩だけは、私だけを見てください」
零夏「そういうのは、いやだ」
キョウコ「ええ、レーカさんはそういうと思っていました。でも私だって譲りません」
不意打ちでエカテリーナとマリアが零夏を抑え込む。
零夏「なにやってんの君達!?」
マリア「お願い、キョウコの願いを叶えてあげて。こればかりは、レーカの意見は聞けないわ」
服を脱ぐキョウコ。
零夏「観念する、もう抵抗しないから、せめて見ないでくれ……恥ずかしい」
夜は啄むような、ウブな接吻から始まった。
翌朝、マリアとの会話。
マリア「で、結局逃げたの?」
零夏「やっぱ無理、やっちゃいけない」
マリア「臆病者」
キョウコ「まあ、レーカさんらしいです」
決戦開始。
アナスタシア号の船員達に零夏は問う。
零夏「世界は繰り返してきた!同じ夢をまた見るか?俺は嫌だ!」
零夏「納得出来ない奴は船を降りていい!俺だって、これが正しいなんて自信はこれっぽっちもないからな!」
しかし全員が残ることを選択する。
メイド「戦いならお腹だって減るでございましょう!」
メイド「職場を放棄するのはメイドの名折れですわ! 」
零夏「……生き残れる保証などないぞ」
職人「未来を切り開くんだ、誰だって命がけだ!戦争知ってる世代舐めんな!!」
零夏「ふ、ふん!せいぜい生き延びろ、打ち上げは俺の奢りだ!」
歓声をあげる船員達であった。
ソフィーは総力戦で零夏を潰しに来る。
艦隊を動かすという予想外の反抗に驚くソフィー。
ソフィー「艦隊を編成した?どうやってあんな数を、嘘でしょ」
『ソフィーが勝てば彼女の計算の信憑性を認め、零夏が勝てば計算の信憑性がないものとし未知数の未来に賭ける』。この約束を思い出すソフィー。
ソフィー「本当にレーカは、私の計算を上回りはじめているというの……?」
ソフィーの出撃前、プロトタイプ彩風に乗り込もうとして吐いてしまう。
側近「大丈夫ですか、ソフィアージュ様!」
ソフィー「……気にするな、病気ではない」
なぜ最近、吐き気を覚えたり味覚が変化してしまったか。
自分の身体の変化を、ソフィーはおおよそ察していた。
ヨーゼフの巨大人型機との戦い
ヨーゼフ「まだ抗うのかい、レーカ君。多くの人々を巻き込んで、それが君のやるべきことなのか?君には、私の計画を否定するほどの論拠が本当にあるのか?」
零夏「俺にはお前の言う理想が正しいかなんてわからない、思想家でも政治家でもないからな。でもわかることだってある、『それ』は未来なんかじゃない」
ヨーゼフ「思想を知らない君が未来を語るか。自ら無知を認めながら、なぜ未来を信じられる!?」
零夏「技術者だからだ!歴史や思想が向かう先が上か下かなんて知ったことじゃない、だが技術が向かう先が未来なのはずっと見てきた!知識は、試行錯誤は不可能を可能にする!人の心なんて信じちゃいないが、叡知が目指す未来信じられる!」
ヨーゼフ「その叡知が数多の兵器を生み出したのだとしても?」
零夏「どの兵器だって、開発者は平和を願っていたさ」
ヨーゼフ「呆れたな、君はやっぱり性善説信者ではないか。だが技術者はそれでいいのかもしれない。少しだが、私ともあろうものが君の言う未来を思い描いてしまったよ」
冒険者三人組が駆け付け、戦闘を引き継ぐ。
零夏はソフィーの元へ急ぐ。
ヨーゼフ「誰だ、君達は?誰とも知れぬ雑兵を相手にするほど暇ではないのだが」
ニール「はっ、雑魚を舐めないで頂戴!」
全長1000メートルの人型機に挑む三機の人型機。
陽動し、気を引いている間に内部侵入してラーテの撃破を達成。
しかし三人組も深手を負い、ニール・マイケル・エドウィン全員死亡。
ヨーゼフもまた、死の間際に言い残す。
ヨーゼフ「無駄だ、魔法陣の制御システムは稼働した。時間から断絶された魔法陣はもう誰にも触れられず、悲劇を何度でもなかったことにしてリトライする。この世界は真の平和となった―――」
もう少しでループが開始してしまう、セルフですら干渉出来ない。手の打ちようがない。
セルフ「私の演算装置を破壊して。魔法の演算だって、そもそもは私自身の私が干渉できないタスクで行われている。装置ごと破壊してしまえば」
零夏「しかし、それじゃあ」
セルフ「いいよ、やって。元より世界の解放で私の役割は終わるんだから、引き際くらい自分で決めるよ」
ソフィーの軍隊を蹴散らす銀翼達、しかしキザ男の大鳳だけはウロチョロ飛んでいるだけで役に立っていない。
彼の技量が低いのではなく回りの人間が規格外過ぎるのだが、それでも彼は劣等感に苛まれる。
仲間達は気にしていない様子だが、キザ男本人はなかなか堪えている。
悩んで、不安に苛まれ、それでも戦場に向かうキザ男。
キザ男「どうすればいいんだ、くそっ」
敵機が迫ってくる。苦悩を重ねたキザ男は、その先に―――
キザ男「……死んでもいいさ、もう」
―――本当の覚悟を決めた。
キザ男「来いよ、何百だって捌いてみせようではないか!」
前方から多くの敵が突っ込んでくる、キザ男は後先考えず突撃。
擦れ違いざまに撃墜、更に上昇し上から二機目を撃破。
キザ男「あ、あれ?そうか、この機体のパワーなら一撃離脱に徹しただけでもなんとかなるのか」
キザ男(結局、僕は自分の飛行機を信じてやれていなかったのだ!)
キザ男「せいぜい無様に、有利の揺るがない場所から落としてやるさ!」
一撃離脱を繰り返す。
キザ男「コツを掴んできた、大鷲と僕は相性がいい!」
零夏「あいつ、あんなに強かったか……?」
キザ男「脳ある鷹は爪を隠すというだろう!」
零夏「鳳は鷹じゃなくて鷲だがな」
キザ男「これからは撃墜王マンフレートと呼びたまえ!ふははははは」
零夏「言ってろ。けど、まあ。やるじゃないか、撃墜王」
ガイルが死亡し、錯乱するフィオが暴走してヴァルキリーを操縦する。
既に正気を失っており、ソフィーをアナスタシアと同一人物だと思い込んで敵味方問わず殺しまくっている。
そこにスピリットオブアナスタシア号が到着。船体のアナスタシアの文字に反応し、フィオはアナスタシア号に挑む。
大火力同士の艦砲戦。追い詰められたアナスタシア号、リデアは総員脱出を命じる。
一人残ったリデアはヘリカルエンジンを全力に、ヴァルキリーに体当たり。
ヴァルキリー撃墜、アナスタシア号撃沈。
フィオ死亡、リデア生死不明。
やっとの思いでソフィーの彩風の前まで到着した零夏。
ソフィーは疑問を抱く。
ソフィー「こんな物量戦、レーカらしくない……どういうこと?」
零夏「ソフィアージュ女王、決闘を挑む!」
ソフィー「この後に及んで、一対一!?やられた……!」
零夏は集めた戦力を観客にする。こうなっては、カリスマで支持率を維持するソフィーに断るという選択肢はない。
最後の戦いが始まる。
セルフ「私の一番デリケートな場所、見せたげる」
月面の海から巨大な円柱出現、それは重力境界をも越え地上の地面に突き刺さる。
零夏「セルフ・アークの本体……宇宙コロニー実物そのものかっ。この中にセルファークの集積回路が!?」
零夏の彩風がセルフ破壊の為に向かう、まだ準備が整っておらず世界解放されては堪らないソフィーの彩風も、それを阻止する為に内部に突入。
セルフ「あ、忘れてた」
レーザーが2機を襲う。
セルフ「セキュリティーは生きてるから」
零夏「止めろよ!?」
セルフ「電源に直結したスタンドアローン砲台、所謂ファランクスだから無理」
レーザーの雨を掻い潜り、コロニー内部空間で決戦。
誰にも邪魔されない人工の世界にて、二機の彩風は向かい合う。
零夏「ここが……セルファークという世界の中心なのか」
接近戦特化型の零夏が操る彩風と、砲撃戦特化型のソフィーが操る彩風。世界最強の二機が激戦を繰り広げる。
零夏は必死にソフィーを説得しようとする。ソフィーは少し前までの彼女でさえあれば揺るぎはしなかった。
しかし今は違う。自分の身体が自分だけの物ではなくなったことが、王を少女にへと戻しかけていた。
ソフィー「もうみんな私を許さない、後戻りなんて出来ない」
零夏「俺は許す!外の世界にいって遠くに屋敷を建てよう!そこでみんなと暮らすんだ!」
零夏「寂しければ生んで増やせばいい!マリアやキョウコ、リデアに手伝わせればすぐいっぱいになる!」
ソフィー「リデアが増えてるし……ばかっ」
遂に折れるソフィー。
ソフィー「こんな私で良かったら、もう一度プロポーズしてくれますか?」
零夏「するさ、何度でも。俺はソフィーが大好きだからな」
和解した恋人達。しかし崩壊するコロニーの外壁からソフィー機を庇って、零夏は大怪我を負ってしまう。
零夏は平気だと嘘をつき、ソフィーをコロニー空間の内部から離脱させようとする。
零夏「俺はセルフの集積回路を破壊してくる」
ソフィー「でもっ」
零夏「必ず帰ってくるから。先に行っててくれ」
ソフィーをなんとか説得し、集積回路へと向かう零夏。
零夏「はは、致命傷かな、これは」
実を言えば、零夏は既に満身創痍だった。義手はもげて目は過剰な重圧により潰れ、肺には穴が開いている。気力だけで歩いている状態だった。
モノリスのような箱が延々と並んだ部屋。一つ一つが演算装置であり、そのうち一つの前に立つ。
出撃前に交わした、セルフとの会話を思い出す。
セルフ「ごめんね。言えなかったけれど、世界解放で死ぬのはもう一人いるの。レーカ、君だよ」
世界解放の折に、零夏も死ぬことが告げられる。
セルフ「時間移動魔法で越えられるのは情報だけ。君は魂だけが、リデアの弟にとり憑いている状態なの。魂と肉体を魔法の力で無理に固定しているから、それがなくなれば君は―――」
零夏「この時代から弾き出され、元の時代に戻る……だろ?」
セルフ「知って、たんだ」
セルフ「君の肉体から魂が剥離したのは、もう6年も前のことだよ。地球に残した肉体が、未だ生きている保証なんてない」
つまり、それは―――
セルフ「魂は21世紀に戻ったら最後、器となる肉体がなくて霧散してしまうかもしれない。もし何らかの形で肉体が保管されていても、二度とセルファークには戻れない」
苦笑する零夏。
セルフ「死ぬんだよ?」
零夏「死なないさ」
セルフ「なんで、どうしてそう言えるの?」
零夏はセルフの頭を撫でて、笑顔で答える。
零夏「なんでも」
場面は集積回路の前へと戻る。
鋳造魔法にて最も使い慣れた武器であるガンブレードを空気中より製作。モノリスを統括するもっとも重要な箇所に切っ先を突き付ける。
零夏「さよならだ、セルフ」
セルフ「うん」
セルフ、モノリスに貼られた古びた金属のプレートに気付く。
そこに刻まれた、セルフ・アークの主任設計者の名に。
セルフ「……はは、そっか、そうだったんだ。近くにいたのに、全然気付かなかったなぁ」
集積回路を貫く鉄塊。バチバチと火花を漏らし、セルフの意識が闇へと沈んでいく。
その最中、最後にセルフは小さく呟く。
セルフ「サヨナラ、お父様」
ボロボロの彩風がゆっくりと飛行する。
重力が喪失し、魔力エンジンが停止し。全ての船が月面へと落下していく。
セルファークの大地がバラバラに砕け、全てが地球へと吸い寄せられていく。
世界が壊れていく光景を、見ることしか出来ないソフィー。
ソフィー「これで、本当に良かったんだよね、レーカ……」
このままでは人口のほぼ全てが絶滅する。
祈るように天井世界が零れ落ちていく光景を見つめる。
ソフィー「えっ……?」
異変は起こる。
落下する大地のプレートが姿勢を安定させ、ゆっくりと降下を始めたのだ。
重力は確かに地球へと向かっている、にも関わらず人々を乗せた大地は浮遊する。非現実的な光景に誰もが唖然とする。
ソフィー「あれ、は」
彼女は大地の下で炎を吹く物体に気付く。
ソフィー「レーカの作った、新型エンジン……?」
絶大な出力を持つことは知っていた、だがどうやって特殊なヘリカルエンジンを数万器も用意したのか。
疑問が残りつつも、ソフィーは理解する。
ソフィー「あはっ、やっぱりレーカ、凄いわ」
人々が住まう人口密集地のプレートは、そのまま月面へと軟着陸を果たす。
世界は、おおよそ犠牲者を出さないままに解放されたのだ。
同時刻、連合国軍機を相手に散々暴れまわったキョウコの蛇剣姫は他の機体と同じく機能を停止していた。
零夏が最終目的を成し遂げたのを見届けて、一人スクラップとなった蛇剣姫のコックピットから世界解放を眺める。
魔法が失われたことで意識が朦朧とする中、それでもキョウコは見逃すまいと目を開き続ける。
キョウコ「いよいよ、ですね」
最果て山脈が崩壊し、大地も崩れ落ち。
残ったのは、大地を支えてきた幾本もの巨塔のみ。
キョウコ「これが、世界解放」
彼女が想像していたそれより、遥かに死の悲劇は少なく。
そして何より、外から差し込む本物の太陽の光はキョウコにとって新鮮だった。
キョウコ「……なんだ、外の世界は温かいではないですか」
瞼を閉じる。
400年生きた英雄は、人知れず命を終えた。




